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僕のペナントライフ  作者: 遊馬 友仁
50/78

第3幕・Empowerment(エンパワーメント)の章〜⑭〜

 7月30日(日)


 ==============


 夏のイベント準備で、お仕事も

 大変な時期でしょうか?


 お時間ができたら、あらためて

 お食事などいかがでしょう?


 奈緒美さんの食べたい料理など

 教えてもらえたら嬉しいです


 ==============


 リノちゃん、ユタカ、ヒサシの三人からもらったアドバイスを参考に、奈緒美さんにメッセージを送ってみた。


 一ヶ月前も同じような内容のメッセージを送っていたので、しつこく思われないかと心配だったけど、リノちゃんの


「仕事が忙しい時期に何度も誘ったら、しつこいと思われるけど、期間も空いてるし、相手のヒトは、『忘れずにまた誘ってもらえた』と感じるんじゃないかな? とりあえず、メッセージを送って相手の様子をみてみよう!」


という助言を信用することにした。

 彼女の言葉には説得力があったし、信頼に足るものだと感じてはいたが、それでも、正直なところ、奈緒美さんから返信があるまでは、


「今回も相手にされなかったら、どうしよう……」


と、不安を覚えていたのも事実だ。

 ただ、僕のそんな心配をよそに、土曜日の午後に送信したメッセージには、日付が変わった頃に返信があった。


 ==============


 虎太郎くん

 メッセージありがとう


 8/11のイベントが終わったら

 時間が出来るのでお食事に

 行けたら嬉しいです!


 今年は旅行に行けないないので

 海外の雰囲気が楽しめるお店

 だと嬉しいです

 

 ==============


 休日前ということもあり、日付が変わっても起きていた僕は、就寝前にメッセージを確認し、小さく拳を握る。

 ただ、この時間に返信があったということは、土曜日でも遅くまで仕事があったということだろうか?


 後任の僕に託してくれた引き継ぎ資料の完成度で、奈緒美さんの事務能力の優秀さは理解しているつもりだけど、彼女の体調や仕事量が気になったので、最初に慰労の言葉を添えて、メッセージを返す。


 ==============


 お仕事お疲れさまです

 返信ありがとうございます!


 奈緒美さんのご要望に叶う

 お店を探してみます!


 候補のお店が決まったら

 また連絡させてもらいます


 ==============


 奈緒美さんに、メッセージを返信したあと、僕は早速、スマホで神戸三宮や大阪梅田周辺の夏のディナーの店舗について、検索しはじめた。


 グルメサイトで、異国情緒や夏の雰囲気を感じさせる店舗を探しながら、金曜日の夜に、友人たちからもらったアドバイスのことを思い出す。


 すでに述べたように、まだ少しだけ迷いのあった僕に対して、リノちゃんは、


「相手のヒトは、『忘れずにまた誘ってもらえた』と感じるんじゃないかな? とりあえず、メッセージを送って相手の様子をみてみよう!」


と言ってくれた。

 奈緒美さんから、お仕事のピークに関する具体的な日付を記したメッセージが返信されたことで、まずは、「様子見」の段階はクリアできたと考えても良いかも知れない。


 リノちゃんの時間があるときに、お店選びの候補の最終チェックなど、また相談に乗ってもらえないか、確認してみようと思う。


 ユタカからは、


「今後の相手のヒトとの関係を考えるうえで、コタローにオススメしておきたい映画がある」


と言われ、一本の映画を薦められた。

 タイトルは、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』。二十年以上前にアカデミー脚本賞を受賞した作品らしい。


 友人曰く、


「この映画の中で、野球ファンの心理学者が、主人公の青年に最愛の奥さんと出会った日の夜のことを語る場面(シーン)があるんだ。コタローには、なにか感じるモノがあるハズだよ」


ということらしい。

 彼が個人的に薦めてくれる映画は、ボストン・レッドソックスのファンの日常を描いた『2番目のキス』をはじめ、どれもスポーツ観戦を趣味としている僕の好みにあったモノだったので、この作品もすぐに観賞してみようと思う。

 

 そして、ヒサシは、


「オレは、女のヒトの気持ちはワカランし、映画にも詳しくないからな……」


と、苦笑しつつ、ネット上にアップロードされている動画を薦めてくれた。


 ひとつは、かつて放映されていたという日本中央競馬会の古いTVコマーシャルで、レミオロメンの『茜空』というシングル曲が使用されているモノで、もうひとつは、その楽曲を流用したコマーシャルのパロディ映像だった。


「ミコシバさんは、推しのアイドルがいるんだよな? ライブに参加しているオレにはわかるが、それは、コタローが推しのチームを愛する気持ちと同じだ。この映像を見れば、そのことがわかると思う」


 ヒサシは、そう言って、動画のアドレスのリンクをチャット欄に貼り付けてくれた。

 週末の夜の貴重な時間を僕のために使ってくれた三人に、あらためて感謝の気持ちが込み上げてくる。


 そんな友人たちの想いに胸が熱くなりながら、僕は、今年の阪神タイガースのチームスローガンに関わる英単語を思い出していた。

 

 ・Empowermentエンパワーメント


 僕にとって、これまで、あまり聞き馴染みのなかったこの言葉は、「社会や組織の一人ひとりが、抑圧されることなく力を付けることで、大きな影響を与えるようになること」という意味だ。もともとは、20世紀のアメリカで起こった市民運動や先住民運動などの公民権運動で提唱された考え方で、1980年代の女性の権利獲得運動を経て広がったそうだ。


 ここ最近の自分の心理状態を振り返ったとき、夢を断たれながらも闘病を続けた横田さんの姿や、時間を割いてアドバイスをくれた友人たちは、僕に大きな()()()を与えてくれたと思う。


 彼らの言動や想いを無駄にしないためにも、もう一度、これまでの自分が、目をそらして逃げていたことに、立ち向かおう、そんな気持ちが湧き上がってきた。


 【本日の試合結果】

 

 阪神 対 広島 17回戦  阪神 4ー2 広島


 3回裏タイガースは、8番に入った小幡竜平(おばたりゅうへい)のヒットを足がかりに、中野拓夢(なかのたくむ)の内野ゴロの間に1点を先制する。その後、6回表に同点に追いつかれたものの、直後の6回裏に森下翔太(もりしたしょうた)の2ランホームランとシェルドン・ノイジーのタイムリー内野安打で3点を勝ち越す。

 タイガースの先発・伊藤将司(いとうまさし)は、8回途中2失点の好投で今季5勝目。

 カープを振り切ったタイガースは、13日ぶりに単独首位となった。

 

 ◎7月30日終了時点の阪神タイガースの成績


 勝敗:49勝35敗 4引き分け 貯金14

 順位:首位(2位と1ゲーム差)

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