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僕のペナントライフ  作者: 遊馬 友仁
30/78

第2幕・Respect(リスペクト)の章〜⑫〜

 6月4日(日)


 奈緒美(なおみ)さんとの二回目の野球観戦は、前回とは違い、天候にも恵まれた。

 座席は、SMBCシート(一塁側)。前回の観戦時よりも、さらにグラウンドやベンチに近く臨場感満点だ。


 野球ファンとしては、()()佐々木朗希(ささきろうき)投球(ピッチング)を間近で観られるという幸運にありつけたことは、チケットを譲ってくれた母の知人と母親に感謝するより他にない。


 ただ、この日の僕は、それ以上に気を配っておかなければいけないことがあった。

 それは、昼食をはじめとする、球場でのフード・飲み物事情に関わることだ。

 

 三週間前は、ショッピングモール内の人気パンケーキ店でランチすることになったため、参戦(いや、この時は観戦)用の服装は、控えめなモノにしたのだが……。

 今回は、2回目ということもあり、もう少し、()()()()を出して行こうと考えている。


 そんな訳で、僕は、この日の戦闘服に、背番号3があしらわれたタテ縞のレプリカユニフォームを選ぶ。

 奈緒美さんには、事前にこんな提案をしておいた。


 ==============


 今回は、甲子園の球場メシで

 ランチはいかかでしょうか?


 選手とのコラボメニューや

 オリジナルメニューなど

 参考になるモノもあるかもです

 

 ==============


 彼女からは、すぐに、返信があった。


 ==============


 球場グルメ、イイですね!

 楽しみです!


 コラボメニュー、色々と参考に

 させてもらおうと思います!


 ==============


 奈緒美さんの了承も得たことで、服装に関する懸念事項には片が付いた。

 実際に、試合開始の90分前に甲子園駅の改札口で待ち合わせた彼女と会ったときも、


「あら……中野くん、今日は気合いが入ってますね!」


と、微笑んでもらったので、自分の選択に間違いはなかったのだろうけど……。


 問題は、球場に入場してから発生した。


 ※


「あのお弁当、美味しそう! 九州ええとこ捕り(鶏)弁当に……こっちは、タコ飯幕の内弁当ですか……あっ、これもカワイイ! キュートなおむすび弁当! すいません、この3ついただけますか?」


「麺類も豊富なんですね! 今日は、少し気温が高いので……あごだし冷やしラーメンをお願いします!」


「シメは、やっぱりスイーツですよね! ここも思ったより充実してる……う〜ん、迷うけど……彩り豊かなイチゴ ✕ マンゴーかき氷にしようかな……? 中野くんは、どれがイイと思いますか?」


 奈緒美さんは、嬉しい悩みで困ったというような表情で、僕にたずねるが――――――。


「僕も、イチゴ ✕ マンゴーかき氷は、美味しそうだと思いますが……もう、そろそろ……食べ物は、持ちきれないです……」


 僕は、そう返答して、右手に提げたビニール袋入りのコラボ弁当3つと、左手に持った冷やしラーメンのドンブリをアピールするように、ゆっくりと上下させた。

 そのジェスチャーに、ようやく我に返ったのか、彼女は、ハッとした表情でになり、


「あっ、私ったら……いつの間に、こんなに……中野くん、ゴメンナサイ!」


と、大慌てで謝罪する。


「いや、大丈夫ですよ。ここのスイーツを買ったら、一度、座席に戻りましょうか?」


「そ、そうですね」


 奈緒美さんは、こちらの提案に同意したあと、


「彩り豊かなイチゴ ✕ マンゴーかき氷を1つお願いします」


と注文を続けた。


 僕の両手と奈緒美さんの左手には、


 ・梅ちゃんの九州ええとこ捕り(鶏)弁当

 ・淡路島出身!近本のタコ飯幕の内弁当

 ・湯浅のキュートなおむすび弁当


 各 1500円


 ・山形出身!中野の冷やしあごだしラーメン 950円

 ・大竹選手おすすめ!彩り豊かなイチゴ ✕ マンゴーかき氷 700円


しめて、6250円の品々がある(ちなみに、今日の観戦で座るSMBCシート1席分の値段と同等だ)。

 あらためて、その現実を目の当たりした彼女は、

 

「どうしよう……こんなに食べきれない……」


と、うなだれる。


「たしかに、ちょっと多いかもですが……僕も、お金を半分払うんで、御子柴(みこしば)さんは、食べれる分だけ食べてください」


 笑顔でそう言ってから席に着き、僕は、奈緒美さんに千円札を四枚手渡す。


「そんな! こんなに、いただけませんよ……」


 恐縮する相手になんとか、野口英世を受け取ってもらったものの、他にも気になることがあるようで、


「試合が始まるまでに食べ終わるでしょうか?」


奈緒美さんは不安げに口にする。

 試合開始までは、残り30分ほどだ。たっぷりの量のランチの数々をあらためて眺めながら、僕は苦笑しつつ、


「まあ、試合開始には間に合わないでしょうけど……」


と、答えたあと、提案した。


「安心してください。今日は、前回と違って、あまり得点シーンは見られないと思うので……お弁当を食べながら、静かな映画を観るみたいに、ゆっくり観戦しましょう?」


 そんな会話を交わしていると、スターティングメンバーが発表される時間になった。

 

 1番 中堅 近本

 2番 二塁 中野

 3番 左翼 ノイジー

 4番 一塁 大山

 5番 三塁 佐藤輝

 6番 右翼 島田

 7番 捕手 梅野

 8番 遊撃 木浪

 9番 投手 才木


 好調なチーム状態を反映して、今日も、投手以外は前回と変わらないメンバーだ。


 奈緒美さんとともに、たっぷりのランチに手をつけ始めると、Family with Tigers Dayの一環で、グリーンのキャップとロゴが特徴的な、普段とは異なるユニフォームに身を包んだ選手たちがグラウンドに飛び出してきた。

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