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僕のペナントライフ  作者: 遊馬 友仁
29/78

第2幕・Respect(リスペクト)の章〜⑪〜

 5月27日(土)


 その日、大竹耕太郎(おおたけこうたろう)はベンチで大粒の涙を流していた。


 0対0で迎えた7回裏――――――。


 ここまで無失点と好投しながらも、二死二塁となった場面で代打を送られ、先発投手としての役目をはたした彼は、ベンチから必死に声援を送る。

 代打の渡邉諒(わたなべりょう)は、四球を選んで、二死一・二塁。


 ここで、打順は1番打者(トップバッター)の近本光司に回る。

 前のシーズンでは打撃力を評価され、3番に入ることもあった近本は、今シーズンも変わらず得点圏打率が高く、チャンスには滅法強い。


 相手リリーフの左腕・グリフィンと近本の白熱した対戦は、(ツー)ストライクと打者が追い込まれてからもファウルで粘りを見せ、8球目の緩いカーブが大きく外れて、(スリー)(ツー)のフルカウントなる。


 そして、9球目――――――。


 ド真ん中に投じられた145km/hのツーシームを、近本は、見事にセンター前に弾き返す!

 スタートを切っていた二塁ランナーの坂本がホームを駆け抜け、終盤に貴重な先制点。


 ダッグアウトを出て、ガッツポーズをしたあと、大きく拍手した大竹はベンチに戻って腰をおろし、彼の動きを追ったテレビカメラは、涙であふれる顔をタオルで(ぬぐ)う姿を映し出していた。


 試合後のヒーロー・インタビューで、大竹は語っている。


 ――――――0対0のラッキーセブンに、隣の近本が先制タイムリーをウチましたが?


「まず、自分のところで代打を送るということで、悔しさもあったんですけど、(代打の)渡辺に頼んだぞ、ということを伝えて、しっかりつないでくれて、それで近本さんが打ってくれて。すごく感動しました」


 ――――――感動したと。先制点が入った瞬間、涙を流していた。


「いやなんか。もう、何でしょう。1人はみんなのために。みんなは1人のために。そういうチームプレーを感じたので、思わず出ました」


 ――――――前回は好投しながら勝ちがつかなかった。今回はうれしかった?


「そうですね。とにかくチームが勝つことが一番なので。前回も今回もチームが勝ったので、それが一番です」


 ――――――これからも大竹の男泣きは?


「横にいる2人がしっかり打ってくれると思うので、また泣きたいと思います」


 プロ野球ファンの多くがご存知の通り、大竹耕太郎は、昨シーズンのオフから始まった『現役ドラフト』という制度で、ソフトバンクホークスからタイガースに移籍してきた。

 育成契約から支配下登録を勝ち取ったホークス時代にも通算10勝をあげるなど、実績を重ねていたが、十二球団の中で最も選手数が多く、その層も厚いチームでは、なかなか活躍の場が得られなかったようだ。


 その選手が、移籍してから今季無傷の6連勝。

 5月も4試合に登板し、すべての試合で先発投手が6イニング以上を投げ、3自責点以内に抑えた時に記録されるクオリティ・スタート(QS)を達成し、無傷の3勝。防御率0.33という驚異的な成績をあげている。おそらく、今月の月間MVPの選出は間違いないだろう。

(タイガースファンとしては、今シーズン序盤から中継ぎ投手の柱として活躍する加治屋蓮(かじやれん)や2年前に絶対的守護神として君臨していたロベルト・スアレスを放出したホークスには、感謝の気持ちしかない)


 開幕から2ヶ月の間に、新星・村上頌樹(むらかみしょうき)と並んで、今シーズンの我がチームになくてはならない存在となっている大竹だが、移籍してきた選手が、チームの一員として、ベンチ内の結束力を感じさせる言葉を残してくれるのは、ファンとしては、喜ばしい限りだ。

 そして、熊本県内有数の進学校である県立済々黌高等学校から早稲田大学に進み、ホークスへの入団時には、周囲の反対を押し切って、育成選手としての契約を受け入れて苦労を重ねてきた選手のチカラが、こうして発揮されることを嬉しく感じる。


 なにより、誠実な人柄を感じさせるインタビューと、熱い感情を表に出すようになったことで、貴重な先発ローテーション投手であるということ以上に、これから、ますますファンのココロを掴み、愛される選手になっていくだろうと思う。

 スポーツ・ファン、なかでも、特に阪神タイガースのファンは、こういう選手を好む傾向にある。

(もちろん、僕自身も、その一人であることは言うまでもない)


 ヒーローインタビューやYouTubeの阪神タイガース公式チャンネルに記録された動画からは、チームの状態の良さとともに、選手同士の雰囲気の良さが感じられ、映像を見ているだけで、幸福な気分にひたれる。


 【本日の試合結果】

 

 阪神 対 巨人 7回戦  阪神 3ー2 巨人


 両チーム無得点で迎えた7回裏、近本・中野の連続タイムリーで3点を先制。先発の大竹は、7回無失点の好投。最終回にブリンソンの2ランで1点差に迫られるものの、8回と9回の2イニングに4人の投手を使う継投で逃げ切る。

 チームは、前の週と同じく7連勝を飾る。


 ※

 

 翌日28日(日)の試合も、先発の才木浩人(さいきひろと)が、8回途中まで1失点と好投して阪神の快勝。

 首位を快走するチームは、交流戦を前にして、連勝を8に伸ばした。


 ◎5月28日終了時点の阪神タイガースの成績

 

 勝敗:31勝14敗 1引き分け 貯金17

 順位:首位(2位と6ゲーム差)

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