3 第七皇女は画策する
そうだ。今世の私は死ぬことなく生きているではないか。
第一、婚約者がいるのにその婚約者の誕生日パーティに他の女との逢瀬に明け暮れている時点であの淫乱男はギルティだ。慈悲はない。
「お子様と思われているのなら尚のこと好都合だわ。そのお子様に今からしてやられるのだから覚悟なさい。この淫乱浮気男!」
もはや名前で呼ぶ気も起きない。
というか名前で呼びたくない。もはやあの男は私にとって不潔の塊だ。呼んだら孕んでしまう。気分的に。
今頃暑い夜を交わしているであろうあの男がいる部屋に向かってべーっと舌を突き出す。
完全に子どものような反抗心の表し方になってしまったが気にしない。
いいわよ、十五歳はまだ少女と呼べる歳だもの。いいわよ、お子様。上等だわ!
こうなったら全力で仕返しして、目にものを見せてやるのだ。
なんだか楽しくなってきた。そうと決まれば早速行動あるのみ。
ネタは上がっているのよ。婚約者の第七皇女の誕生日パーティに公爵の夜の女遊び。
うん、いいゴシップになること間違いなし。刺激が足りなくて飽き気味の貴族のご婦人方の格好の噂話になること間違いなし。ご婦人方はこういうネタが大好きだもの。盛大な祭りになるわよ!!
ウキウキしてきたところで、その自分のパーティを抜け出していたのだったと唐突に思い出す。
そろそろ会場へ戻らないとお父様とお母様が心配してしまう。主役がいつまでも戻らなかったらそれはそれで問題だ。でも、私はこれから準備に忙しいし……。
うーん、としばらく考えてあることを思い出した。
「あ、そうだ」
テラスから城の廊下へ戻ると、私は虚空に向かって小さく声をかける。
「――セイル。セイルルート、いるかしら?」
どこに向かって問いかけるでもないその声にすぐに応える声があった。
『呼んだ? レスティーゼ!』
どこからともなく鈍色の光が集まりポンと軽い音を立てて現れたのは、月夜に映える銀色の翼を優雅にはためかせる一匹の鳥。
私の身長の半分を占める尾を優美にひと振りすると、その銀鳥はいつもの定位置である私の肩に止まった。
肩当てなどをしていないので僅かに鉤爪がくい込んで地味に痛い。見た目の大きさほどの重さを感じないので加減してくれているのだろう。ここは我慢するか。
痛みを我慢しつつ、私はセイルに思い出した用件を問い詰めることにした。
「セイル、あなたでしょう。わざと扉を開けて私に浮気現場を目撃するように仕向けたのは」
私の問いかけに、セイルはイタズラがバレた子どものような弾んだ声で応じる。
『ありゃ、バレちゃった?』
やっぱり。
あの時、私が通ったのを見計らったように扉が少しだけ空いたのだ。そこから聞こえた嬌声に思わず足を止めてしまったが、その前に少しだけ魔力の気配を感じだのだ。どうやら憶測は正しかったらしい。
『だってアイツが面白そうなことをしてたからレスに知らせてあげようと思ったんだ。そしたらもっと面白いことになりそうだったからさ!』
全く悪びれた様子のない調子のセイルに呆れながら、私は銀鳥の柔らかい毛並みを撫でてやる。
撫でられたセイルは気持ち良さげにうっとりと目を閉じてきゅるる、と小さく声を上げた。
相変わらず面白いことが大好きな困った子だ。
けれど今回はこのイタズラ好きの精霊のおかげでヤツの本性を知ることが出来たのだ。むしろ今回は感謝すべきかもしれない。
「ありがとう、知らせてくれて。じゃあこれからあなたの望み通りにもっと面白くしてあげるから私のお願い聞いくれるかしら?」
『いいよ!』
首を傾げながら金の瞳を輝かせてこちらを覗き込む銀鳥に、微笑んだ。
「私は二の姉様の所に行くからパーティに戻れないの。だからしばらく私のフリをしてくれる?」
セイルはぱちくりと瞬きをした後『うん!』と実に楽しそうに声を上げた。
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