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メルとノア 2

 窓から身を投げ出し、飛び降りる。



「メルランシア殿下!?」



 私の突然の行動にお見合い相手は驚き、目を見開く。

 しかし、次の瞬間には窓から身を乗り出して私の手を掴もうとするも、その手は空を切る。

 子どもじみてると自覚しながらも、私はべーっと舌を出してニヤリと笑いかける。


 残念でした。私はアンタと結婚するなんてゴメンよ。

 自分の研究に酔ってるだけのナルシスト野郎。

 研究に執心するより女性との話し方を勉強するべきだわ。

 そんな人を馬鹿にしたような接し方で相手が怒ると思わないのかしら。それとも女性ではこの研究の高尚さが理解できないとでも思っているのか。

 いずれにせよ、女性を舐めたような話し方は聞いていて気持ちの良いものではなかった。


 まぁ、あの男がどうなろうと私の知ったことではない。それよりも私のことだ。


 魔術塔の応接間は五階にあり、そこから飛び降りたので結構な高さがある。

 このままいくと私は間違いなくぺしゃんこになってしまうだろう。

 けれど私も考えなしで飛び降りた訳ではない。さすがにまだ死にたくないし。

 私は何も無い空間に向かって呼びかける。



「スイレン! よろしくぅ!」

『はぁい!』



 私の呼びかけに青い髪に銀の瞳の小人の姿をした可憐な少女が現れる。

 私の加護精霊(パートナー)スイレンだ。

 水と風を自在に操る高位精霊の彼女は私の体を風で包み込むとそのままスピードを落とさず降下していく。


 いつもお見合いから脱走する時に使う手なのでスイレンも慣れたものだ。

 今日もスイレンの手腕に感心しながら呑気に景色を楽しむ。

 もうすぐで着地、という所で異変に気づいた。

 木の木陰に隠れて気づかなかったが、着地点に人がいるではないか!

 しかも昼寝でもしているのか、寝転んでいてこちらに気づく様子はない。

 私は慌ててスイレンに助けを求める。



「ちょ、スイレン!!」

『あ、無理。間に合わない!』

「スイレンー!?」

『てへ☆ ごめんちゃい☆☆』

「ごめんちゃい、じゃないわああああああ!!」



 軽い調子の我が精霊にブチ切れながら、私は寝転がっている人物の腹にボティーブローをかます形で着地した。













「ぐふっ!!」

「きゃあっ!!」



 衝撃に備えて目を瞑ったが、思ったほどの衝撃はこなかった。



「……?」



 不思議に思いつつも目を開けると、先程の寝転がっていた人物の腹の上に着地している。

 しかも、右手の拳が綺麗に入っていた。我ながら惚れ惚れするボディーブローだ。

 なるほど、先程の「ぐふっ!!」という効果音はこのせいか。

 冷静にそこまで分析して、それどころではないと思い返す。


 非があるのはこちらだ、謝らないと!



「ごめんなさい! 大丈夫!?」

「けほっ、えほっ」



 慌てて下敷きにしている人物の腹の上から降りるとその顔をのぞき込む。

 痛みに顔をゆがめ、少し涙目になっているがなんとか無事なようだ。

 大柄な体躯に明るい水色の髪と目。男か。

 しばらく咳き込み、なんとか話せるようになったのか男はこちらを睨みつける。



「いきなり何するんだ! 危ないだろう!?」

「ごめんなさい、五階から飛び降りて着地しようとしたんだけどあなたが見えなかったの。本当にごめんなさい。怪我はない?」

「それは大丈夫だが……って、なんだ。メルか?」

「え?」



 親しい者しか使わない呼び名で呼ばれて、改めて目の前の人物を見やる。

 明るい水色の目と髪。少しキツめの整った顔立ち。

 白を基調とした魔術師の制服を身にまとっている。

 右腕には魔術師団長であることを示す、金の腕章。

 見知った幼馴染の顔を見て、私は拍子抜けした。



「なんだ、『ノアちゃん』じゃん」

「ノアちゃんではない! レオノアールだといつも言ってるだろう!」

「はいはい、ノア」

「なっ――!」



 怒って眉を寄せるレオノアールを横目に私は手を振った。

 私の調子にレオノアールは片眉を器用にあげたまま、やがて目を伏せため息をついた。

 長年の付き合いだから私が呼び方を改めることは無いとわかっているのだろう。


 レオノアール・アスティーク。

 色素が抜け落ちた水色の髪と目を持つアスティーク伯爵家の次男。

 そして二十二歳にして魔術師団長にまで上り詰めた実力者。

 さらに第一皇子グレイヴと私、第二皇女メルランシアの学友でもあった。

 その関係で今でも非公式ならば親しい名で呼び合う間柄である。


 幼少時のレオノアールは体の線も細く髪も長くて、少女のような中性的な顔立ちの持ち主だった。

 そのためアスティーク夫人や私のお母様に女装させられては泣いていた。

 その時のあだ名が『ノアちゃん』だったのだ。

 レオノアール自身は女装させられていたことは黒歴史と思っているようで話題に出すととても怒る。

 今では真面目な堅物に育ってしまったが、当時は可憐で泣き虫で本当に可愛かった。


 あの頃のノアちゃんはもう見れないのね……。

 昔を懐かしんでいると、レオノアールに呼びかけられた。



「なんでまた五階から飛び降りるなんて無茶をしたんだ?」

「ん? お見合いが嫌になったから自分で相手を見つけようと思って。取り敢えず逃げた」

「……」



 私の言葉にレオノアールが押し黙る。

 眉を寄せて黙り込んだ姿を見て、またお小言かと身構えるも、飛んできたのは思いもよらない言葉だった。



「……あまり無茶はするな。お見合いしたくないなら俺から陛下にそれとなく進言するから、危ないことはしないでくれ」

「え、うん……」



 いつもと違って心配したような声音に、私も思わず素直に返事してしまった。


(……なんなの?)


 首を捻りつつ、無事なのならそろそろお暇するかと立ち上がりかけたところで足に痛みを感じ、よろけた。



「あら?」



 足首の部分がズキズキと痛む。どうやら着地する時に捻ったらしい。

 私の様子にレオノアールが近づいてくる。



「どうした?」

「んー、うん。足を捻ったみたい」

「確かに捻っているようだな。足首の魔力の流れが悪い。痛いか?」

「うん、ズキズキするかな。ちょっと立てない。医務室行って治すかなぁ」



 捻った程度なら治癒で治せるが、立てないほどの痛みなので直ぐには治らないだろう。

 術を行使したあとはしばらくテーピングでもして固定しておくか。

 さてどうやって医務室にいこうか。



「よいしょ」

「うわぁ!?」



 考え込んでいると、いきなりレオノアールに横抱きに抱きかかえられた。

 いわゆるお姫様抱っこの構図。漫画とかではよく見る構図だが、実際にやられると恥ずかしい!



「な、何?」

「医務室に行くんだろう?俺が運ぶ。飛び降りたメルが悪いにしても、俺にも責任の一端はあるからな。手当も俺の方が得意だ」



 確かにレオノアールには水と癒しの力を持つ加護精霊がいるが。



「え、ちょっと……」

「ほら、大人しくしてろ。運びにくいだろう」

「荷物扱いすんな!」

「いて! 叩くな! 危ないだろう!」

「知るか!!」



 レオノアールが思ったより大きくなっててドキドキしたとか思ってないんだからね!

 密かに憧れていた横抱きをされて嬉しかったのを誤魔化しつつ、私とレオノアールは医務室につくまで言い合っていた。



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