1 第七皇女は目撃する
――十五歳の誕生日に、婚約者の浮気現場を目撃してしまった。
その日は私の誕生パーティが催されていて、王城の大広間に集まる人々の熱気に当てられた私は、少し夜風に当たって落ち着こうとテラスを目指して歩いていた時のことだった。
廊下の角を曲がろうとして、風に釣られたように微かに聞こえてきた嬌声に思わず足を止めてしまった。
「なぁ、いいだろう……?」
「困ります……公爵様……あっ!」
廊下の角を曲がったすぐ側にある部屋で、一組の男女が睦みあっていた。見れば扉が少し空いており、そこから声が漏れ聞こえてきたのだろうか。
私はなんとなく気になって少し空いている扉の隙間から、そっと中の様子を伺った。
「はっ、……公爵様ぁ……」
女は口では嫌がっているようだが満更でもなさそう。
男は女を壁の間際に追いやり、手をついていた。
いわゆる「壁ドン」の構図。二人は服をはだけさせ、半裸状態でキスを交わしていた。時々漏れる女の鼻にかかった甘い声。
私は知らず詰めていた息をゆっくりと吐き出した。
嬌声を上げている女には見覚えがある。大広間でやけに大仰な振る舞いをして注目を集めては、貴族の子息たちに色目を使っていたからだ。確か、どこかの地方貴族の男爵令嬢で今年デビュタントを迎えたとか言っていた気がする。記憶力には自信があるから間違ってはいないと思う。
女の方はさておき、問題は男の方だ。
部屋に明かりが着いていないが、月明かりに照らされても目立つあのアッシュブラウンの髪は見間違えようがない。
あの男の名はモース・クロムウェル。貴族としての位は公爵。
そしてあろうことかこのヘルゼンブール帝国の第七皇女たるこの私、レスティーゼ・エル・ヘルゼナイツの婚約者だった。
先程から姿が見えないなと思ってはいたが、成程。婚約者を放ったらかしにして、自分はせっせと浮気していたのか。ふむ。
何分にも及ぶ長いキスが終わると、女が呟く。
「いけません、こんなこと……皇女様に怒られますわ……」
男はその言葉に鼻で笑った。
「はっ。何……皇女はまだ十五歳のお子様だ。気づきもしないよ」
「やだ公爵様ったら、いけない人……」
二人はそのままベッドに倒れ込むと、本格的に情事を開始する。
ピンク色とでも言うべき生々しい睦みあいが始まり、私はこれ以上見ていられず扉から離れた。
女の声がより甘くなり、ベッドが激しく軋む音が聞こえる。
二人はこれから熱い夜を過ごすのだろう。
婚約者の私を放ったらかして、いいご身分だ。
「まさかその十五歳のお子様に、全部聞かれてるなんて思ってもみないんだろうなぁ……全部聞こえてるんだよ、お馬鹿め」
憤慨した私は思わずそんな言葉を吐き捨てながら、ドレスのスカート内に付けられた内ポケットを漁りつつ、覗いていた事に気づかれないようにそっと扉を閉めると、その場を後にした。
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