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【改訂版】第七皇女は早くも人生を諦めたようです  作者: 蓮実 アラタ
1章 仕返し編
15/30

11 第七皇女は大層お怒りのようです

 

 私が発した声はさほど大きくもないのに不思議と大広間全体に響いた。大広間は水を打ったように静寂につつまれる。


 お父様を含む皆の視線が私に集中しているのが分かる。

 ジークは興奮して声を荒らげ「ええい、縄を解け!」と喚いていたが、私の言葉に虚をつかれたように動きを止め、呆けた表情で私を見つめる。


 その表情に後悔や反省の意は全くなく。自分の行動がどれだけの人を死なせる結果となったのか全く自覚していない。

 自分の行動が罪だと自覚すらしていない。それが罪だとすら思ってはいない。


 その事実が私の怒りを加速させた。


 よくそんな顔をしてこの場にいられるものだ。

 この男のせいで何人もの民が死んだと思っているんだ。コイツはそれを自覚することも無く。あまつさえ死者を冒涜した。人をなんだと思っているんだ。


 ――何故このような男が生き、真面目に生きていた辺境伯が死ななければならなかったのか。

 ――何故裏切り者が生き、「私」が死ななければならなかったのか。


 許せない。許すものか。お前達に生きる価値などない。

 その怒りの衝動を言霊に変えて、私は言葉を紡ぐ。



「――貴様に生きる価値を見出せない。何故貴様のような男が生きて、誠実に生きた者が死なねばならぬ。それは間違っている」


 またしても私から発せらる言葉は冷たく、低い。自身でも発したことがないような響きに、私は戸惑う。

 私の中は怒りと共にこの男に対する憎悪で支配されていた。どこか冷静にそこまで分析して、そして異変に気づいた。


 これは確かに私の声だが、響きは「私」のものではない。

 今、声を発しているのは皇女としての(レスティーゼ)ではなく、かつての女王であった(エレスメイラ)


 それを証明するように、私の意思に反して左手が上がる。

 その手は、ジークに向けられていた。

 その左手に魔力が収束していく。私の意志に関係なく。身体が勝手に動いている。


(制御が、できない。なんで!?)


 体が言うことを聞かない。私のはずなのに、私でないものが体を動かしている。


 何故と思うが、思い当たる節はひとつ。

 かつての私を殺した裏切り者の記憶と、今目の前にいるジークがかぶったこと。

 それによって私の中にある女王(エレスメイラ)の憎悪と怒りの記憶が呼び覚まされてしまった。


 私ではない私の意思が、この体を乗っ取り支配している。


(マズイ。精霊が……!!)


 私の怒りの魔力に充てられ周りの精霊達が騒ぎ始めている。精霊は女王に忠実だ。だから私が望めば力を貸そうとする。

 このままでは精霊達の力を加えた巨大な魔力の塊がこの場に顕現してしまう。

 ジークを滅ぼさんとするために。


「お前のような者が、いるから――、」


 大広間全体に風が巻き起こり、ドレスの裾がなびく。

 周りは何が起きたのか分からず、騒然とする。悲鳴をあげてこの場から逃げようとする者もいた。それらに構う余裕もなく私は暴走を抑えようと抵抗する。このままでは不味い。それだけは分かるのに。必死の抵抗虚しく左手には力が紡ぎ出されていく。


 やめて、私はジークを殺したいわけじゃない。

 私は自分の都合で人を殺すような人間にはなりたくない。怒りに任せて人を殺すことは彼らと同じことをしているようなもの。私はそんな風にはなりたくない!

 ――宰相(ラキウス)と同じにはなりたくない!!


「セイ、ル……助けて……!」

『レス……!!』


 私の声に応えすぐ側に銀鳥が現れるが、セイルも集まってきた他の精霊と同じようにジークに向かって獲物を狙うような視線を向ける。


(セイルでもダメ……)


 精霊は主の強い魔力や思いに反応して行動することがある。今の私は「ジークを許せない」という怒りに支配され、それに反応した精霊達もジークに怒りを向けている。

 私のパートナーである高位精霊のセイルなら、と思ったのだが。


 思えばエレスメイラは精霊を使役する力に長けていた。そしてその力をレスティーゼとなった私は受け継いでいる。精霊を愛し、従える力に精霊が抗えるはずもない。

 段々と抵抗する力も削られていき、私の左手には大きな魔力の塊が渦巻いていた。


(やめて、私は……)


 最後の力を振り絞り懸命に抑えようとするけれど、やはり魔力が制御できない。


(誰か、助けて!!)


 手に収束していた魔力がジークを狙わんとする、その刹那。


「――レスティーゼ殿下。ご無礼をお許しください」

「え!?」


 腕をグイ、と引かれ体が傾く。

 気づけば私の身体は黒い軍服を着た大柄な体躯の中にすっぽりとおさめられていた。


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