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【改訂版】第七皇女は早くも人生を諦めたようです  作者: 蓮実 アラタ
1章 仕返し編
13/30

9 第七皇女は牙を剥く

「ほらほら、モース様もご覧になってくださいな!!」


 にこりと微笑んで、私は自らの婚約者の名を呼びスクリーンへ注目させる。


 今です、お姉様!!

 そのままモースに気づかれないようにメルランシアお姉様に向かってウインクする。メルランシアお姉様は心得たとばかりに頷くと手元の魔具のスイッチを押した。




『いけません、こんなこと……皇女様に怒られますわ……』

『はっ。何……皇女はまだ十五歳のお子様だ。気づきもしないよ……』

『やだ公爵様ったら、いけない人……』


 スクリーンに映し出されたのは、先日私が仕掛けた記録と録音の魔具による婚約者の秘密(笑)の逢瀬シーン。


 月明かりがあったとはいえ夜に記録したため夜闇に紛れて映像が不明瞭で、「改良の余地ありね」とお姉様がなにやら魔具と格闘していたのは知っていた、のだけれども。


 その執念のおかげか格段に映像が鮮明になっており、真昼とはいかないまでもそこそこの明るさで、映し出された二人の人物の人相が一目で分かるようになっている。さすがはお姉様。天才発明家と言われるだけのことはある。


 尚、情事の様子についてはきちんと見えないように「もざいくしょり」を施したそう。

 お姉様曰く、「あーる18してい」とかで私のような「健全な少女」には見せることができない、との事。


 まぁ、私は実際に遭遇してしまった立場なので少し見てしまったのだけれど。

 思い出したくはないので「もざいくしょり」は有難かった。


「!?」


 モースはスクリーンに釘付けのまま全く動く気配がない。

 口をあんぐりと開け、唖然としたままの婚約者(ターゲット)。普段は歯が浮くような気障な台詞を吐いて完璧な紳士を演じているくせに、ここまで間抜けな表情をしたモースを見たのは初めてかもしない。


「ぶふっ……!」


 メルランシアお姉様がモースの阿呆面を見て愉快でたまらないのか、表面上の筋肉を総動員して優美な表情を保ったまま、器用に吹いてしまった。


 お姉様、一生懸命自制しているようですけれど、口元がピクピク痙攣していますよ。隠しきれてません。

 そのうち、我慢できなくなったのか身を折って悶えだした。


「メルランシア……大丈夫か?」

「だい、じょうぶ……ふふっ……!」


 旦那様である魔術師団長のレオノアール様が体を伏せて震えているお姉様に心配そうな視線を向ける。

 心配ないですわレオノアール様。お姉様は笑いを堪えているだけです。自業自得です。気持ちは分からなくもないですが。


「これは……どういうことだ! なんだこの映像は!! 私をおちょくっているのかレスティーゼ殿下!」


 ここでようやく我に返ったモースが叫んだ。

 意外に立ち直りがお早い事で。目に見えて逆上している辺りとてもわかりやすいが、なぜここで貴方が怒るのかしら。図太いからかしら。まだそんな口を叩けるのか。


 ――いいでしょう、だったら徹底的に叩きのめすまで。

 覚悟なさい。この淫乱不潔男。二度と表舞台でふてぶてしい面ができないようにしてあげるから。


 私は颯爽と席から立ち上がると、映像が流れたままのスクリーンを指差し、堂々と宣う。


「どうもこうもありませんわ。あなた、私の誕生日パーティの日に途中で『気分が優れないので休んできます』と言ってパーティを抜けられましたわよね。その後私も夜風に当たろうと思ってパーティを抜けてテラスに向かっておりましたの。その途中であなたがレイズ男爵家令嬢と睦みあっている場面を見てしまったのですわ。あの時、ちょうどレイズ男爵家令嬢オリアーナ様が会場にいらっしゃらなかったのは男爵にも確認済みでしてよ。それにこのアッシュブラウンの髪。間違えようもなくあなたですよね?モース様。その髪色はクロムウェル家であるなによりの特徴なのですから」

「そ、それは……」


 私の言葉にバカ男一歩後ずさった。

 まだこの程度で終わると思わないでくださいね? モース様?

 私の怒りはまだおさまってはいないのですから。最後までお付き合いしてもらいますよ?

 にっこりと微笑むと私は言葉を続けた。


「それにあなたのお父様、ジーク・クロムウェル前公爵が多額の借金を作って公爵家は傾きかけているのですよね? そのためにあなたは地方の子爵や男爵といったちょっとした有力の下級貴族に『新事業の立ち上げ』という名目で出資を受けてお金を集めてますよね? その一環で事業への出資を渋った貴族の令嬢と関係を持ち、協力するように仕向けた。――違いまして?」


 私のこの言葉にモースは絶句し、動揺を露にする。


「なっ、なぜそれを……!」


 隠し通せるとでも思っていたのか。完璧な計画を見破られてモースは血の気を失った顔で項垂れている。


 それにしても安っぽいセリフしか吐けないのだろうかこの男は。仕方ない、存在が安っぽいのだから。

 こんなザマでよく公爵を名乗れたものだ。


 ちなみにこの証拠については風の精霊の情報を元に公爵が寝取った女をリストアップして、関係を持った令嬢の中に婚約者がいないかを調べた。


 そしてその婚約者達に情報をリークし、証拠を集めた。

 大事にしていた婚約者が寝取られたと知った彼らは激怒し、よき協力者となってくれた。


 事業に関しても管理が杜撰ですぐに証拠の書類を用意出来た。どうせ失敗しても私と結婚することで入る持参金でどうとでもなると踏んでいたのだろう。こちらを馬鹿にするにも程がある。

 十五歳のお子様だからと舐めていたのだから馬鹿にしてはいたのは最初から分かっていたけれど。


 もうこれで逃しはしない。私は呆然としているバカ男をきっと睨みつけた。



「クロムウェル公モース。第七皇女の婚約者という立場にありながら、あまつさえ他の女と関係を持ち、私を裏切り、侮辱した。さらにこの婚約は現皇帝が決めたもの。私を侮辱することは皇帝を侮辱するも同義。その罪、見過ごすことなどできませんわ! 今この場をもってお前との婚約を破棄し、しかるべき裁きを要求します!」



 意識して毅然とした態度を保ち、私は皇帝――お父様に向き直る。

視界の隅で馬鹿男(モース)青ざめているのが見えたが私の知ったことではない。

 お父様はそれまで黙ってこちらの言葉を聞いていたが、私が向き直ると突然笑いだした。


 え?なんで?


「ふははは!! 私が暴れるはずだったのに先を越されてしまったな!! 血は争えないということか……実に愉快よのう……。レスティーゼよ、よくやった。しかし、成程……。イーゼルベルト公爵、お主が言ったのはこの事だったのか。実に楽しかったぞ。そろそろこちらも種明かししてよいであろうな。イーゼルベルト公爵よ」

「御意。陛下の仰せのままに」



 訳が分からず目を白黒させていると、お父様の前に立っていた黒い軍服の青年、イーゼルベルト公爵―将軍に手招きされる。



「レスティーゼ殿下はこちらへ。今から面白いものをお見せ致しましょう」

「え? ……はい」



 訳が分からないまま将軍の隣に立つと、将軍が低い声で「連れてこい」と告げた。すぐに今度は青い軍服をまとった者達が二人、誰かを伴って大広間に現れる。


 ロープで胴体を縛られ、魔封じの手枷をされた人物。

 その人物はモースと同じアッシュブラウンの髪に紺碧の瞳をしていた。


 驚きに目を見張る私に変わり、モースが声を上げてその人物の名を呼んだ。


「父上!」


 大広間に突如現れ、縛られた状態で連行されてきた人物はあろうことかモースの父親、ジーク・クロムウェル前公爵だった。


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