闘神は隠居したい
宇宙に最も近い場所──天界・クローラ。悠久の時が流れるクローラは、穏和と調和の取れた正に平和な世界。
──だが、そんな天界に一度だけ、熱がこもる日がある。
【闘神祭】
闘神の名を連ねるもの達による、闘技場を使ってでの演武。この日だけは、血と汗と涙と歓声がクローラを震わせるのだ。
「はいー次の方ー」
「……本当に死んじゃったんですね」
「あなたはートコマさんですねー」
消沈しきった声を出したのは、制服を着た男性だ。視線を伏せて立つ彼は死人。ここは闘技場とは少し離れた場所にある、円環の理。死んだ者を転生か成仏か選ばせる場所である。
「ですねぇ~」と、白髪の男性は、平坦な声で業務をこなす。
「そりゃもー豪快にですねぇ~。でぇ、転生と成仏とどちらか選べますがどーしますかあ?」
「豪快ッて……どんなですか?」
「なんか。家にいる時に後ろから彼女にブスッとですねぇ~。その後は滅多刺しっすねぇ~」
「滅多……」
何かを思い出したかのように頭を抱え、顔には苦悶の表情が浮かび上がる。断片的に記憶が蘇るのはよくある話だ。
死人は呼吸を乱しながら、言葉を紡ぐ。
「最後のメール……続く改行……最後の言葉……ごめ──」
「成仏っすねー地獄行き確定ーっすね~」
「え、ちょ、ま」
指を鳴らした直後、目の前の死人は消える。
「はい次の方~」
「俺は死んだのか?」
眼鏡をかけた男性。先程の死人とは真逆で、毅然たる態度をとっている。それこそ英雄の一端──
「そうですね~で、成仏と転生、どちらにしますか?」
「は?なんで?」
「はい?」
「そんなん、俺が決めなきゃいけない義務があるん?」
「一応、決まりですのでぇ~」
「もちろん抵抗するで?────こぶ……」
「はい、転生ですね~。魔王に抵抗してっすね~」
──パチン。
今日は闘神祭。早く業務をこなし、祭りを楽しみたい。だが、こんな時に限ってよく分からない魂が列をなす。
さっきなんかか「その心汚れてるね!?」だとか、女性によく分からない説教をうけた。
短い溜息を吐き、それでもあともうちょいだと気合いを入れ直す。
「次の方ー」
「ウス」
顔を布で覆った男性。上半身は何故か裸。むき身になった肉体は隆々とした筋肉で出来ている。
「えーっと貴方は……」
机に並べられた資料には見当たらない。
「ワタシ、ハ、テンセイシマス!!」
「…………」
「テンセイ!シマス!!」
「テン──」
「貴方、フォルス様……ですよね?」