第5話
買い物客を捕食した後、怪物はスーパーの中の客に次々と襲い掛かった。
「きゃーっ!」
「このやろー!…ぐぅわーっ!」
スーパーから聞こえる悲鳴。駐在所へ向かうMIRAI。怪物の上空にはドローンが飛んでいる。この様子を見たライヤーが話す。
「人口約1000、駐在所2か所、常駐警察官は6体。ネクロナイトどころか、警察官もろくにいない。この島唯一の港はサタンが監視している。島の外へ逃げることもできず、島民は全滅するだろうが、その時点でサタンの増殖は止まる。本島から警察が来て、サタンと交戦することになるだろう。自衛隊が治安出動する可能性もある。サタンがどこまで増殖するか、日本はどの程度の戦力でそれを制圧するか。いいサンプルになりそうだ」
MIRAIはなんとか駐在所にたどり着き、中高年の警察官に事情を話す。
「わかった。教えてくれてありがとう。おい、聞いただろ!?本島へ連絡しろ!俺は現場に行く!」
「む、む、無理ですよ!い、い、行っても食べられるだけです!」
「それでも、人を助けるために体を張るのも私の仕事だ。私が体を張ることで一人でも助けられればいい。MIRAIちゃんは安全な場所に逃げて」
警察官が現場へ向かおうと外に出ると、怪物は既に目の見える距離にいたようですぐに拳銃を抜いて発砲した。
ダァン!ダァン!
2発目を撃った直後、拳銃に向けて青白いビームが放たれる。拳銃と警察官の腕はみるみる凍っていき、抵抗できなくなったところへ怪物が飛びかかった。
「わっ、わぁー!!」
駐在所の中にいた警察官も加勢しようとするが、怪物の青い目から放たれるビームによって全身が凍っていく。
「うっ、なっ、なんだ、これは!く、くそ…ぉ…っ…」
警察官は完全に凍結し、中高年の警察官は既に骨になっていた。怪物が駐在所内のMIRAIを睨み、ゆっくりと距離を詰める。MIRAIは後ずさりし、怯えることしかできないでいた。
「だ、だ、だめ…こ、こ、こ、こないで…」
怪物がMIRAIに飛びかかる。
ドォッ!
怪物は空中で勢いよく吹き飛ばされた。MIRAIの目には突きの姿勢で木刀を持った東郷が映った。
「港へ行くんだ。この島から逃げるしかない」
「え?で、で、でも、東郷さんは…」
「俺はMIRAIさんを守るために来た。生きてほしい。頼む…!」
「…は、はい」
MIRAIは駐在所の外へ出ると港へ向かって走った。
怪物は東郷にビームを放つが、東郷はそれを上手く避けて距離を詰める。ビームを中断し、東郷に飛びかかる怪物。東郷はそれを待ち構え、上段の構えから勢いよく木刀を振り下ろす。木刀は怪物の顔面をとらえ、激しい衝突により東郷の巨体が震える。怪物はよろめき、体勢を崩す。そこへすかさず横薙ぎを放つ東郷。怪物は吹き飛び、壁に叩きつけられる。時折後ろを振り向きながら走るMIRAIはそれを見ていた。
(す、す、す、すごい!拳銃でも倒せない怪物を、圧倒してる…)
善戦していた東郷だったが、そこへ同じ怪物が2匹現れた。3匹の怪物に囲まれた東郷を見てMIRAIは東郷の死を悟った。ドローンで観察していたライヤーが言う。
「体格に恵まれ、武器の扱いに長けているとはいえ、サタン相手にここまで戦える人間がいるとはな…。だが、今回のサタンにはある行動パターンを組んである。島からの脱出を警戒、阻止するサタンが港に1体、その他のサタンは群れで行動し、人間を食い、増殖、群れを大きくしていく。本島から戦力が派遣されるか、ネクロナイトでも来ない限り、サタンが止まることはない」
MIRAIは港へ向かって走る。
(ま、ま、守ってくれた皆のために…あ、あの人のために…生きなきゃ!)
港が見える場所についたMIRAIだったが、港付近には怪物が徘徊しており、船に近づくことすらできなかった。
(そ、そ、そんな…。港の人達は皆…食べられちゃったの…?港で働いてた…お父さんと…お母さんも…?)
脱力し、座り込むMIRAI。背後から怪物の影が忍び寄る。
「あっ…」
MIRAIが気付いた時には怪物は既に大きな口を開け、MIRAIの眼前まで迫っていた。
(せっかく…あの人に助けてもらったのに…結局食べられちゃうんだ…)
MIRAIには時が止まって見えた。のではなく、怪物の動きは本当に停止していた。怪物の首は何者かの手で力強く掴まれており、その手は怪物を後方へ放り投げた。怪物を放り投げた手の持ち主は怪物に似ていた。しかし、それは二足で立ち、MIRAIが聞き覚えのある声を発した。
「よかった。間に合ったか」
「え…か、か、か、怪人?」
「そのようだ」
怪物が怪人に襲い掛かる。怪人は怪物の前足を掴み、一本背負いの要領で投げ、地面に叩きつける。その反動で浮いた胴体に下段回し蹴りを叩き込むと、怪物は地面に体をこすりながら吹き飛んだ。怪人は追い打ちをかけ、見事な格闘術で次々と打撃を加える。大きなダメージを受けよろめく怪物に、怪人の目から青白いビームが放たれる。凍り付き動けなくなった怪物に怪人が力を溜めた正拳突きを放つ。
ドンッ!!パァァァン!!
凍った怪物の体は粉々に弾け飛び、周囲に氷が輝く。割れた核が地面に落ちた。怪人がMIRAIに話しかける。
「…ケガはないか?」
「と、と、というか…そ、そ、その声は…」
「あぁ、東郷だ」
「な、な、な、なんで!?」
「話は後だ」
東郷は港を警戒する怪物の方へ向かうとそれと交戦し、瞬く間に撃破した。
「す、す、すごい…これが…怪人…」
ライヤーが不満をこぼす。
「まさか…4体まで増殖したサタンが、たった1体に…」
「島民は全滅どころか、死傷者100名にも満たないと思われます」
「まさかこんな島にUltimaterがいるとは…。…私は愚かだ。ネクロナイトの例があったのに侮っていたのだ…優秀なUltimaterがサタンの子になった時の力を。…円滑なサタン研究のためには、まずはUltimaterを絶滅させる必要があったのだ。…Ultimater絶滅計画…」
東郷は人間の姿に戻るとMIRAIと共に港の生存者を探した。船や屋内に隠れて生き残っていた人々を集め、船を拠点とし、本島からの救援を待つことにした。MIRAIの父と母は無事だった。生存者の中には東郷が怪物と戦う場面を見ていた者もおり、東郷に感謝した。
「ありがとう、ありがとう。あんたのおかげで助かった」
「まだ怪物がいるかもしれない。見つけたら教えてくれ。俺が何とかする」
「ありがとう。ありがとう…」
MIRAIが東郷に話しかける。
「と、と、東郷さん…話が…あ、あります」
「あぁ、どうした」
「こ、こ、これを…あげます」
MIRAIはスマホの画面を東郷に見せる。
「これは…NFTアート?」
「そ、そうです。これは私が美紀さんのために作った作品です」
「美紀のために!?どういうことだ」
MIRAIは深呼吸し、落ち着いて話す。
「…美紀さんはファンサイトから私によく応援メッセージを送ってくれました。私が落ち込んでる時も、スランプの時も、この仕事を辞めようと思った時も…いつもそのメッセージに励まされて何とかモチベーションを保っていました。3年前、ある作品が海外で高く評価されて、私は栄誉ある賞を受賞できました。私が今までやってこれたのは美紀さんのおかげなんです」
「3年前…美紀が亡くなった年…」
「…はい。私はいつも励ましてくれるその人に感謝の気持ちを伝えたくて連絡を取りました。それから私と美紀さんは連絡を取り合う仲になったんです。でも、3年前、受賞した直後から、美紀さんと連絡がつかなくなりました。私は何度も連絡しました。受賞できたのは美紀さんのおかげです、会ってお礼を言わせてくださいって…でも返事はありませんでした。ファンの方が急に離れていくことは珍しくないですし、会いたいって言ったのが嫌だったのかなと思ったりしてました…。でも今日、東郷さんの話を聞いて…事情がわかりました」
「それは…本当に…俺の妻なのか…?」
「間違いないです。ファンサイトでの名前はトーゴーでしたし、自分のことを美紀と名乗っていました。それに…東郷さんの話も聞いてました」
「俺の話を?」
「美紀さんはこう言ってました。旦那のイチローにMIRAIさんの作品を見せたら『アートのことはよくわからないが、どの作品も美しい』って言って真剣に見てたって。イチローもMIRAIさんの作品を気に入ってくれて、私もすごく嬉しかったって。共通の趣味が出来たって。MIRAIさんのおかげでイチローとの絆がより深まった気がするって。…ふふ…思いっきり惚気てましたよ」
「…く…ぅ……美…紀…」
東郷は涙を堪えきれなかった。MIRAIの目にも涙が浮かんでいる。
「…このNFTアートは…受賞できたお礼に、私が美紀さんとイチローさんの姿を想像して描いた肖像画なんです。…似てますかね?」
「…あぁ…あぁ…美紀の…明るい雰囲気が…笑顔が…そっくりだ…」
「…よかった。…でも私の前では美紀って言わずに…妻って言ってもらえると助かります」
「…え…?」
「私の本名は未来と書いて『みき』って読むんです。奥さんと同じ読みなんですよ。なんとなく恥ずかしいじゃないですか」
「…そ、そうだったのか。すまない」
MIRAIは思う。
(素敵な夫婦だな…。私も東郷さんみたいな人に愛されてみたいな…なんて、美紀さんに怒られちゃうかな…)
「…。…あんまり『みき』って言うと、勘違いして東郷さんのこと好きになっちゃうかもしれないですよ?」
「それは困る」
「ちょっと、即答はひどくないですかー?」
「はは、すまない」
(あ…東郷さんってこんな風に笑うんだ…)
「だが、俺は妻しか愛せない。美紀を忘れることはできないんだ」
「あ!また名前言いましたね。実はわざと言ってます?」
「違う違う!すまない。気を付ける」
脅威を排除した安全な島で二人は笑い合う。NFTアートにはタイトルが綴られていた。
『美紀の未来』
本島から救援が来て、怪物が残っていないか等の島の現状確認、被害状況の確認等の調査が始まった。負傷者は治療を受け、島民は保護され、安堵の表情を浮かべている者もいた。そんな中、警察官の一人が東郷に話しかける。東郷は複数の警察官に銃を向けられ包囲されていた。




