第3話
「早く逃げて」
ネクロナイトは子供達にそう言うとゴーリアーを追いかけて外へ出た。ゴーリアーの腕は回復し始めていて、周囲に倒れている人を吸収し養分を補給していた。
「貴様らの目的はなんだ…!目の前で親が殺される光景を子供に見せて、戦争の教育でもしているつもりか…!!」
ネクロナイトがドローンを睨みながら言う。ドローンの映像越しに観察していたライヤーが驚く。
(こちらに気付いている。…行方不明だったネクロナイト…人を助けるだけでなく、自発的な言葉まで発するとは…。やはりあの時既に…)
ライヤーはネクロナイトが行方不明になった時のことを思い出した。
(路地で突き刺した男を吸収した後、ネクロナイトの様子はおかしくなった。まず服や骨も全て時間をかけて吸収し、髪が伸び脚が生える等、形状が変化した。そして吸収後すぐに次の目標を探さずに停止していただけでなく、動き出したと思ったらドローンを全て破壊した。その後は警察や監視カメラにも見つかっておらず、目撃情報もない。あの男を吸収した時、何が起きた…?)
ライヤーは映像の詳細を思い出し、解人の後頭部についている装置に気付いた。
(Ultimateデバイス!我々が社運をかけて作った最高傑作…いや、天からの贈り物というべきか…。いずれにしても奴はUltimater(Ultimateデバイスを装着した者)…それが【サタン】を狂わせた…?)
「…いや、Ultimaterは【サタン】を支配できるのか!!?」
「答えるわけがないか…」
沈黙するドローンを睨むネクロナイト。注意がドローンに向かっているネクロナイトに回復したゴーリアーが腕を振り下ろす。ネクロナイトは回避し、地面が割れる。その後もゴーリアーの攻撃は続くがネクロナイトには当たらない。
(ゲームのCPUの動きと似ている。外見だけでなく行動パターンもネオモンのコピーだとしたら…この状況で距離を取るとあの技を使ってくる可能性が高い)
ネクロナイトが距離を取ると、ゴーリアーは両手を上に掲げた。両手の間に大きな岩が生成されていく。
(予想通り…なら簡単だ)
ゴーリアーが岩を投げると既に飛びかかっていたネクロナイトがゴーリアーの首を切断する。
「貴様の思考は解剖した」
(僕はネクロナイトになった後、自分の体で実験をした。怪物は生物と同様、傷が大きいほど回復に時間がかかる。養分を吸収しないと回復能力は低下していく。回復が間に合わないほど負傷し続けると…おそらく衰弱死するだろう。だが…今は時間がない。早く倒さないと警察が来る。首を落としても死なないなら…心臓を狙ってみるか)
地面に落ちたゴーリアーの首は徐々に液体になっていく。ゴーリアーは両腕を振り回して暴れる。腕の振りに合わせてネクロナイトが右前腕を切断し、左腕の攻撃を後方へ避ける。そして反動をつけて心臓の位置を突き刺した。
が、ゴーリアーは止まらない。剣を抜き、再び距離を取る。
(心臓も急所ではない…だがダメージは十分だろう…試してみるか…)
NEOモンスターバトルでは相手を場外に吹き飛ばすと勝ちとなる。吹き飛ばす力はモンスターの技によって決まっており、ストライク技に分類される技は吹き飛ばす力が強い。十分なダメージを蓄積した後、ストライク技を当てると相手は場外に吹き飛ぶのである。
(ゲームではモンスターの部位が切断されることはない…怪物の性質がゲームとは違うことは分かっているが、関連性があることも事実…。ネクロナイトのストライク技の一つ…!)
「死の判決!!」
右腕の剣を振りかぶり一気に振り下ろしてから素早く薙ぎ払い、対象を一瞬で十字に切り裂く技。ゴーリアーの体は弾け飛び、中からゴルフボール程度の大きさの玉が現れ、割れて地面に落ちた。
(この玉が怪物の急所…心臓部…なのか…?)
それを見ていたライヤーが言う。
「ストライク技の有用性…核の存在に気付いたか…。しかし【サタン】がこうもあっさり倒されるとは………ふふふ、素晴らしい…!【サタン】とUltimaterが生み出した新たな生物…【サタンの子】とでも呼ぶべきか」
ライヤーはゴーリアーが倒されたことに落胆するどころか、新たな力への興味で興奮していた。ネクロナイトはひとけのない場所へ消えていき、空中のドローンはネクロナイトを追ったが全て破壊された。少し経つと警察がやってきて、両親が殺された子供達を保護しようとした。
「君達、大丈夫か!?」
「……はい…」
「…パパ…パパ…パパ…」
「そうか、怖かっただろう。でもここは危険だ…一緒に行こう」
「…ネクロナイトが…助けてくれた……」
「え?なんだって…?」
「…ママ…ママ…ママ…」
「父さんと…母さんの…仇を…倒して…くれた……ぅ…ぅ…うわぁぁん…」
この事件の死傷者は27名。決して少なくない、いや、遺族からしたら数など関係ないのかもしれないが、前回の事件と比較すると7分の1以下であった。目撃者の証言や監視カメラの映像等からゴーリアーを撃破したのがネクロナイトであるという情報は各メディアを通して社会に広まった。そして社会は『人のような振舞いをする怪物』を【怪人】と呼ぶようになった。
「ただいま」
「おー、おかえり」
「おかえり、お兄ちゃん、今日も格闘技の練習?」
帰宅した解人を姫依と寛が出迎えた。
「そうだよ。姫依の大好きなリュウジの生姜焼き弁当も買ってきたよ」
「わーい、やったー!」
「解人、俺のは?」
「デリバリーで頼めば?」
「あの店はデリバリーやってないじゃないか!あぁー、俺も食いたかったなー」
「冗談だよ、叔父さん。至高の油淋鶏丼買ってきたよ」
「よっしゃ!さすが解人、わかってるな!…ってこれコンビニのおにぎりぃ!!油淋鶏は!?鶏肉を求める胃袋になっちゃったけど!?胃袋が迷子になっちゃうけど!?」
「あぁごめん、これ忘れてた」
「そうそうこれ!…っておいー!これはからあげさん!鶏肉だけども!揚げてるけども!」
「と、これ、油淋鶏のタレ」
「おにぎりにからあげちゃんを乗せて油淋鶏のタレをかけて~、うん!うまい!!ってこらー!なんで自作!?小学生の工作じゃないんだから!夏休みはもう終わってるんだよ!」
「…冗談だよ。はい」
「あるんかいーっ!自作油淋鶏にぎりをちょっと食べてみたくなっちゃった複雑なおっさん心はどうしてくれるんだー!」
テレビを見ながら食事をする三人。テレビでは怪物や怪人について著名人や有識者が議論していた。
「怪物の出現はウイルスによる動物の変異が原因である可能性が…」
「いや、電磁波だ。400mTの高磁束密度の電磁波暴露により遺伝子の突然変異が増加することは過去の研究結果から明らかであり、局地的に自然発生する…」
「プラズマに決まっとる。プラズマ育種装置での植物等の変異誘発は既に実装されておる。自然界のプラズマが…」
「神の怒りに触れたのです。人間は神が創造した美しい自然を破壊しすぎました。ついに神がその力の片鱗を…」
彼らの主張はバラバラだったが一つの共通点があった。その共通点と解人の考えは全く異なっていた。
(おかしい…全員、自然発生を前提に話している。怪物が生物研究のような人為的に作られた物であると唱える人が少なすぎる。そしてそういう主張をした人はテレビやSNS、公共放送からも姿を消している。どう考えても不自然だ。国家にまで影響を与える強大な力が働いている可能性が高い…そしてそれは…)
「NEO社が会見を開きました。中継でお伝えします」
「弊社の調査によりますとNEOへの不正アクセス、クラッキング行為は確認できませんでした。つまり、サーバー内に保管されているNEOモンスターに関するデータの一部は外部から取得不可能であり、怪物の出現は自然発生であると考えるのが妥当であるとの結論に達しました」
(父さん、そのデータはNEO社なら容易に入手できる。でも、怪物を作ってもNEO社にはデメリットしかない、そう言いたいんだろう。確かに動機はわからないが、僕の考えではNEO社は限りなく黒に近い。わずか一カ月前、日本人初、異例のCEOに就任した父さん…考えたくないが、怪物の発生と関わっている可能性は十分にある)
「お兄ちゃん、またみたい。ちょっといい?」
「…わかった」
「?」
疑問に思う寛を残し、二人は姫依の部屋に入っていく。
三日後、ライヤーによる凶行は再び行われようとしていた。
「今回はここだ。前回ゴーリアーを出現させた場所とは20km以上離れている。ネクロナイトの行方は以前不明なままだが、【サタン】研究さえ邪魔されなければ気にするほどの存在ではない。10分後に実行だ」
「了解しました」
一人で町を歩く解人。大きなスーツケースを転がし、狭い路地に入っていく人物を不審に思う。
(パっと見た感じ旅行者の装いに見えるが、旅行者が周囲も確認せず、スマホや地図等も見ずに狭い路地に躊躇なく入っていくだろうか…)
解人は不審人物の後をこっそりと尾行した。不審人物は周囲に人がいないことを確認すると、スーツケースを開けた。中には黒い箱と複数の小型ドローンが入っていた。
(当たりだな…)
解人は少し路地に入り、誰にも見られていないことを確認するとみるみると姿を変え、ネクロナイトへと変貌した。
「そこで何をやっている」
不審人物はネクロナイトの呼び掛けに反応せず、ドローンを起動する。ネクロナイトは瞬時に距離を詰め、不審人物を壁に押さえつける。
「聞いているのか!」
起動済みのドローンでその様子を見たライヤーが驚く。
「なぜだ…なぜここにいるんだ!くっ…仕方ない、中止だ、証拠を隠滅しろ」
動けなくなった不審人物はドロドロと溶け出し、液体になっていった。黒い箱とドローンが爆発し、ネクロナイトが巻き込まれる。




