第2話
ネクロナイトが剣を抜くと、大量の血を流して解人は倒れた。
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「ただいま……姫依ちゃん?」
解人が帰宅すると、姫依はダイニングテーブルに両肘をつき、顔を抑えていた。解人に気付くと、涙ぐんだ顔を上げる。
「お兄ちゃん…私…悔しい…」
解人はすぐに姫依のそばへ行き、肩に手を添え、優しく話しかける。
「何があったか…教えてくれる?」
「…うん…。今日、学校でね?男子に話しかけられたの。『お前、析 解人の妹だろ?』って。私はそうだよって答えたの」
「うん」
「そしたらね?『析 解人とネオモンで勝負させろ。世界大会で優勝したのはまぐれだって教えてやる』とか言ってきたの」
「なるほどね」
(僕に対するこの手の挑戦はオンラインではよくあることだ)
「私ちょっとムッとしちゃって。私とお兄ちゃんの友達に勝てたら頼んであげるよって言ったの。でも私じゃ相手にならなくて…。優斗さんがログインしてたから事情を話したの」
「優斗も負けたの?」
「…うん。何回やっても勝てなくて…お兄ちゃんの悪口もずっと言ってて。ムキになって優斗さんまで巻き込んじゃった私も悪いけど、お兄ちゃんのことを何も知らないくせに好き勝手言うのが許せなくて…」
解人は姫依の頭に手を乗せ答える。
「ありがとう。後は任せてくれる?」
「…うん。ごめんね、お兄ちゃん」
解人は姫依にハンカチを渡すと、自室に入り、後頭部のUltimateデバイスにケーブルを繋ぐ。
「解人、悪い。俺じゃ勝てなかった」
「優斗、こっちこそごめん。姫依が巻き込んじゃったみたいで。後は任せて」
「あぁ、頼む。部屋のIDとパスを送るよ。俺も同じ部屋にいる」
解人が部屋に入室する。
「お?来たか。偽物の世界王者様が」
「なるほど、君か。ぴよん吉」
「ほー、俺を知ってんのか」
「僕が優勝した時の大会にも参加してたよね。操作モンスターはキリバニー、攻め重視の戦闘スタイル、準優勝者のキム・ジュウォン選手を尊敬している。彼のユーザー名は【かめ吉】、君のユーザー名とよく似ているね」
「…お前ストーカーか?」
「大会参加者のことは全員調べる。これくらいはすぐわかるよ。君のことはもっと知ってるけどね」
「なに?」
「本名は荒切 兎丸、友人は少なく、勉強やスポーツは人並み、ゲームに強い執着と自信を持つ。文化祭で析 姫依に優しくされ3秒間見惚れるも、兄に邪魔をされ話す機会を失う」
「なっ!」
「ジュウォン選手の名誉挽回と妹の気を引くことが君の目的だよね?」
「ち、ちげーよ!足動かねー女なんか興味ねーよ!」
「……貴様、訂正しろ」
聞いていた優斗がハッとした。
(『貴様』…解人がキレた…)
「訂正?事実だろ」
「…わかった、さっさと試合を始めろ。ハンデはやる」
「なめやがって…」
対戦はすぐ終わった。解人はほぼ無傷で5連勝、圧勝だった。
「つ…つえぇ…」
「妹に謝罪しろ。妹が許せば水に流そう」
「く…。…わかった。俺の負けだ。ちゃんと謝るよ」
「よかった。それと…君は勘違いしている。僕とジュウォン選手の実力はほぼ互角、どっちが勝ってもおかしくなかった。僕に一回負けたぐらいで彼の評価は下がらないよ。僕も彼をリスペクトしている」
兎丸は思った。
(完敗だ…むしろジュウォンさんの顔に泥を塗ったのは俺か…)
「昨日の男子、ちゃんと謝ってくれたよ。ありがとう、お兄ちゃん」
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(なぜこんなことを思い出してるんだ…これが…走馬灯か…)
ネクロナイトがゲル状の物体で解人を包んでいる。解人は跡形もなく消えた。
ダァン!ダァン!
キリバニーと交戦する機動隊とSAT。被弾したキリバニーは路地へと逃げ込む。
「くそ、逃がすな!追え!」
追いかけて路地を見ると多くの死体があったがキリバニーの姿はなかった。
「上方も警戒しろ!跳躍するらしいからな!」
路地を進んで行く警察、よく見ると一部の死体がゲル状の物体に覆われていた。ゲル状の物体は建物の中から出ているようだった。
「あそこにいるぞ!」
その時、異変が起きた。死体を吸収し終わったゲル状の物体が切り離され、二体目のキリバニーを生成していったのである。
「なっ…!…う、撃てぇ!」
生成中のキリバニーが銃弾を浴びる。
「ぐわあっ!!」
後方の警察官から悲鳴が聞こえた。一体目のキリバニーがいつの間にか建物から出て襲い掛かっていたのである。
「くっ!くそ!」
警察とキリバニーの上空付近には複数の小型ドローンが飛行していた。ドローンはNEO社所属研究者、プワー・ライヤーに映像を送っていた。
「素晴らしい…【サタン】にも繁殖能力があるとは…。キリバニーが捕食した人間の数は?」
「26名です」
「26体か。おおよその年齢区分、性別、人数は?」
「高齢者は男性3名、女性6名、成人は男性9名、女性7名、それと女児1名です」
「…捕食した個体差もあるのだろうが、キリバニーの場合は20~30体程度で繁殖可能というところか…いや、回復や活動に使う養分も考えるともっと少ないか…?研究したい内容が大幅に増えた」
テレビでニュースが流れている。
「本日正午頃に発生したと思われます無差別殺人事件の犯人が警察により拘束された模様です。犯人はNEO社が提供するサービス、NEOモンスターバトルというゲームに登録されているキャラクター【キリバニー】に酷似しているとのことです。専門家によりますと犯人は人間ではない何らかの生物である可能性があるとのことです。死傷者は210名以上と見られており、そのほとんどが死者であると…」
「ひでぇ事件だな…怖かっただろう姫依」
<析 寛 解人と姫依の叔父>
「うん…それより…お兄ちゃんが…」
「さっきも言っただろ。大丈夫だって。あの歳であいつほど頭がキレる奴はいない。格闘技のセンスも抜群だ。何より判断が的確で早い。今頃警察署で事情でも聞かれてるとこだろう」
寛は姫依の肩に手を置き落ち着かせようとしながらも、反対の手を握りしめ、その手はわずかに震えていた。
(叔父さんも本当は心配なんだ…。…お兄ちゃん…お願い…無事で帰ってきて…)
「…NEO社の緊急会見が始まるようです。中継でお伝えします」
「まずは被害に合われた方の一日も早いご回復と、犠牲となられた方のご冥福を心よりお祈り申し上げます」
「おい…姫依…テレビを見ろ」
「え…?お、お父さん…!?」
「我々NEO社は現実に現れたNEOモンスターに酷似した生物を【怪物】と呼ぶことにしました。これはゲーム内のNEOモンスターと明確に区別するためです。多くの命を奪った人類の敵であり、皆様に愛されるNEOモンスターを恐怖の対象としてしまった【怪物】を、我々は許しません」
公道を走行する二台の銃器対策警備車。SAT隊員が向かい合って会話している。
「あいつ、キリバニーでしたっけ?どこに持っていくんですか?」
「さぁな。未知の生物みたいだし、どこかの研究所にでも持っていくんじゃないか」
「まだ…生きてるんですかね。二体とも」
「…かもな。捕まえた時は衰弱している様子だった。もう少し撃てば死んだかもしれないが、上から拘束しろと命令があったからしょうがない。…あいつに仲間が何人も殺された。正直トドメを刺してやりたかったよ」
「でもあいつ…人を食って回復しますよね」
「あぁ、だから俺達SATが一緒に行くんだろ。万が一行動しても制圧できるようにな」
「もう誰か食われて回復してたりしないですよね?」
「それなら前の車両が止まってるだろ」
「運転もできるかも…」
「あり得なくはないな。…お、おい!お前の後ろっ!」
「えっ!?わぁっ!!」
「壁しかないだろ」
「ちょっと…、驚かさないでくださいよ!」
「緊張はほぐれたか?」
「え…?あ…」
「あんなの見た後だ…誰だって怖い。でも俺達が臆病になってどうする。任務に集中するんだ」
「…はい、すみません」
二体のキリバニーは捕獲したものの、目撃情報や監視カメラの情報等から、警察はネクロナイトの存在を把握しており、その行方を捜索していた。そして、キリバニー事件からわずか一週間後、人々の傷が癒えぬ間に再び惨劇は起きた。鋼鉄の前腕を持つゴリラのようなネオモン【ゴーリアー】に酷似した怪物が現れたのだ。ゴーリアーは周囲に目標がいなくなると、その強靭な腕で建物の窓や扉、さらには外壁まで破壊して屋内に隠れる人々を襲った。
「父さん…今助けるから!!」
「……早く…蓮と碧をつれて……逃げ…ろ…俺は…もう…だめだ…」
「何言ってるの!しっかりして!…誰か!誰か助けてください!!」
「パパ…パパ…パパ…!」
父親の下半身はゴーリアーが破壊した外壁の瓦礫に潰されていた。母親は助けを求めるが誰も来るはずもなく、9歳の息子は持ちあがるはずもない瓦礫を持ち上げようとしていた。5歳の息子は父の名前を呼び続けることしかできなかった。
「…あ…あぁ…!!」
家族を睨みつけ腕を振り上げるゴーリアーと母親の目が合った。母親は咄嗟に息子達を突き飛ばした。
ドガァッ!!
ゴーリアーの拳が母親と父親を瓦礫ごと叩き潰した。息子達は破片によって切り傷を負ったもののその程度で済んだ。
「(過呼吸気味に)か…は…か…ぁ…母…さん…」
「ママ…ママ…どこ?…ママ…ママ…ママぁ…!」
母親が命がけで守った未来ある小さな命。だが怪物には関係なかった。ゴーリアーは子供達を目がけて右腕を振り下ろす。
ドガァッ!!
ゴーリアーの拳は子供達に当たらなかった。軌道が逸れて壁に当たり、右上腕が切れていて体液が吹き出していた。
「ウゴォォッ!」
ゴーリアーは自分の腕を切った何者かがいる方向を向く。その直後、ゴーリアーは蹴り飛ばされ、建物の外まで吹き飛ばされた。ゴーリアーを蹴り飛ばした者を見て少年が言葉を発する。
「え…?……ね…ネクロ…ナイト…?」




