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怪人  作者: ウツウツ
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第1話

挿絵(By みてみん)


 小学生の娘とその父親が手をつないで歩き、繁華街へ向かっている。ひとけのない路地から近づいてくるゲームキャラのマスコットを指さして娘が父に話しかける。


「ねぇー、パパ、あれネオモンじゃない?」

「お、ほんとだね。あれは【キリバニー】、NEOモンスターバトル、日本ランカーの【ぴよん吉】が使うモンスター…のマスコットだね」


挿絵(By みてみん)


「さすがパパ!ネオモンのことなら何でも知ってるね」

「ははは、わからないことは何でも聞きなさい。キリバニーも繁華街に向かってるのかな?今のうちに握手と写真お願いしてみようか」

「うん!するする!」


 父親の手を掴みながら跳んで喜ぶ娘。父は娘に説明しながらキリバニーの方へ歩いていく。


「キリバニーはあの大きな鎌のような耳を使って対戦相手に連続コンボを叩き込むんだ。可愛らしい見た目と反してスタイリッシュな戦闘スタイルなんだよ」

「へぇー、かわいいのにすたいりっしゅなんだね」

「そうそう」

「…すたいりっしゅって何?」

「いや、わかんないんかーい」

「あはは♪」


 親子が近づくとキリバニーは歩みを止めた。


「わぁー、ほんとのネオモンみたーい」

「うん、リアルにできてるね。あのー、すみません、写真いいですか?」


 娘がキリバニーの顔をじーっと見ていると急に雨が降ってきて娘の顔にかかった。


「ひゃっ!?パパ、雨降ってきた!」


 逆光で良く見えない父の顔を見上げながら顔を拭く娘。


「パパ…?どうしたの…?」


 娘の手は赤く染まり、父のシルエットがズレていく。ゴンッという音を立てて何かが落ちた。娘は転がった父の頭部を見て固まった。


「え…、ぱ……パパ…?」


 父の胴体が倒れると同時に娘の目の前は急に暗くなった。ゴンという音が辺りに響いた。キリバニーの手がゲル状になり、親子の死体を覆った。


 暗闇の中で男が呟く。


「人命や人権は尊重されて当たり前だと思っている…だが飢餓状態の貧困者への寄付すら一切行わず、自身の生活レベルを維持向上させるために金を使う」


 父の死体の腕には高そうな時計がついており、娘が持っていた二段のアイスは地面に落ちていた。


「計画性も覚悟もないのに我欲に任せて子供を作り、漫然と育てる…そのくせ子供が一番大事だと言う」


 父のスマホに愛人から「今日は会えないよね?」というメッセージが送られてきた。母は別の場所で友人と豪華なランチを楽しんでいた。「子供がいないと自由だわー」「かわいいんだけどねー。てかお金全然貯まんないんだけど。旦那もっと稼げ」「わかるー」等と会話している。


「民主主義国家の主権者であるのに政治に関心を持たない…にも関わらず偏向報道で得た程度の知識で政治家を批判する」


 繁華街の大きなスクリーンに映し出された熱く語る政治家を見て、若者達が会話している。「こいつ議会中寝てたんだってよ。俺は夜中まで残業してるってのに」「日本終わってんなー」「選挙行く意味ないよな」


「自己矛盾、他力本願、思考と行動を怠る愚かな人間共…

 高度で洗練された知能を持つにも関わらず未だ独善的な人類…

 私は災害だ。止められるものなら止めてみるがいい」


 繁華街へ向かうキリバニー。


挿絵(By みてみん)


 暗闇の男<プワー・ライヤー NEO(ネオ)社所属研究者>はニヤリと笑った。


※国連によると2021年の飢餓人口は8億2,800万人(前年より4,600万人増)

※消費者庁によると日本の食品ロスは年間522万トン、世界の食糧支援量(約420万トン)の1.2倍相当

※一般社団法人NO YOUTH NO JAPANによるとU30世代が投票しない理由は「選挙にあまり関心がないから」(32.6%)、「投票所に行くのが面倒だから」(27.9%)、「忙しい、時間がないから」(21.2%)

(日本国籍を持つ日本在住の18~29歳男女5,000人を対象に調査)




 メタバース(仮想空間)


 2020年頃に流行った単語とそこから膨らむ妄想や希望は現実となった。メタバース内には現実世界同様、様々なサービスが展開され、まさに第二の世界と呼ぶに相応しい規模にまで成長した。


 中でもNEOの成長は著しく、メタバース市場の約9割のシェアを占め、世界人口の約3割のユーザー数を誇り、他の追随を許さない状況であった。


 そしてNEO内で最も人気があるのは「NEOモンスターバトル」というゲームとその関連コンテンツである。プレイヤーはNEOモンスターを操作し、勝敗を競う。eスポーツとしても人気があり、高額な賞金が配られる大会も多く開催されている。


「さぁ、カイト選手、ここまでほぼノーダメージでUC_Michael選手を圧倒している!このまま勝負がつくのか!?」


 UC_Michaelが操る竜のようなモンスター【Michagon】が空中に飛び、カイトが操る骸骨の騎士のようなモンスター【ネクロナイト】に狙いを定めて炎を吐く。Michagonが炎を吐くモーションに入った瞬間にカイトはこの行動を分析、次の行動を決める。


挿絵(By みてみん)


(この位置関係であの技を出す場合、次の行動は接近して攻撃、または投げ技、それか様子を窺うかの三択。HP差、残り時間、相手のプレイスタイル、判断傾向、精神状態、この試合での僕の対応、これらを考慮すると相手の次の行動は90%以上の確率で投げ技だ)


 トッププロゲーマーはこのような判断を一瞬で行う。0.01秒の判断が勝負を分けるアスリート並みの反応速度、判断力、正確な動作が求められるのである。


「君の思考は解剖した」


 ネクロナイトは炎を吐かれる前に地面に剣を突き刺した。すると剣は地面に消えた。吐き出された炎をギリギリでガードすると、接近して掴もうとするMichagonを殴って迎撃、ボディブロー、右バックブローとコンボを決めて後方へ飛ばす。飛ばされた先の地面から大きな剣が現れ、Michagonはステージ外へ勢いよく吹き飛んでいった。


挿絵(By みてみん)


「あぁーっと!ネクロナイトの大技、大地蘇剣(リヴァイブソード)が決まったぁ!完璧な読み、流れるようなコンボでKO!!強い、強すぎる!これが死の賢者(ネクロセージ)、カイト選手の実力だぁーっ!!」


「ふぅ、このレベルの大会なら負ける要素はないかな」


 NEOからログアウトしてそう言うと、後頭部からケーブルを外し、目を開く。ケーブルはPCと接続されていた。


析 解人(せき かいと) 19歳、プロゲーマー ユーザー名:カイト>


挿絵(By みてみん)




 町を歩く三人組のうちの一人、<深開 優斗(しんかい ゆうと) 19歳、大学生>が解人に話しかける。


「昨日の大会すごかったな。決勝も余裕だったじゃん、解人」

「まぁ、プロが少なかったから対策は楽だったよ。UC_Micheal選手はベテランだから情報収集もしやすかったし」

「情報収集、分析、対策、反復練習…ゲームで稼ぐのも大変だよなぁ。選手寿命も短いし。賞金は0.01NEOCoin(NEOの仮想通貨)だっけ?日本円換算で600万円くらい?」

「そんなもんだね。規模小さかったから」

「600万を少ないみたいに言うなよ。友達減るぞ?」


 電動車椅子に乗っている女性<析 姫依(せき ひより) 17歳、高校生>が口を挟む。


「お兄ちゃんは世界大会で優勝したこともあるもんね。その時は1NEOCoinだったっけ?」

「うん、そうだよ、姫依ちゃん♡」


 解人は妹に話しかけられると急に表情を緩めた。


挿絵(By みてみん)


「二つ下の妹にちゃん付けする人って解人以外にいるのかな」

「さぁ。興味ないな」


 解人の表情が戻った。


「私も気になるー」

「お兄ちゃんが調べとくね!」


 再び表情が緩む。優斗は思った。


(やっぱ姫依ちゃんがいる時の解人おもろいな)


「ところでお兄ちゃん、昨日、まだメタバースをやってない友達にメタバースって何?みたいなこと聞かれたんだけどうまく説明できなくて…感覚的にはわかるんだけど、言葉にするのって難しいね」

「そうだね。メタバースは一言で言うと【インターネット上に作られた三次元の仮想空間やサービス】のことだけど、ゲームとの違いとかを正確に説明するのは難しいよね」

「あ、それ友達も言ってた!ゲームと一緒じゃんって」

「メタバースの定義が統一されてないからね。ある定義では一部のゲームもメタバースと言えるけど、他の定義だと該当しなかったりするんだ」

「えー、ますますわかんないよー」


 姫依は不満そうな表情で天を仰ぐ。


「曖昧だよね。でも言葉って結構曖昧だよ。例えば漫画って何か説明できる?」

「うーん…絵や台詞が描いてある娯楽目的の本…とか?」

「そんなイメージだよね。でも本じゃなくてデータでもいいし、台詞が無くても、文字だけのコマやページがあってもいい。漫画とアニメの中間のようなボイスコミックっていうコンテンツもあるよね」

「あー、動画サイトで見れる漫画みたいなやつね」

「そうそう。あれは動画データだし、音声もついてる。でも漫画の素材を張り付けて加工しただけで漫画の一種と言えるよね。じゃあ強調したい1ページをアニメーションに差し替えたらそれはアニメなのかな?」

「それくらいならまだ漫画な気がする…」

「じゃあそのアニメーション部分の割合を増やしたら?アニメにも静止画部分はあるし、それはもう区別がつかないんじゃないかな」

「うーん、確かに…」

「結局は言葉を伝える人、受け取る人がそれをどの定義に当てはめるか、どこで線引きするかだと思うよ。それを論ずることにあまり意味はないし、言葉って相手に伝わればそれでいいんだと思う」


 姫依が首を傾げながらも納得する。


「んーそっかー…なんとなくイメージできればいいのか。じゃあNEOは?他のメタバースと何が違うの?なんであんなに人気あるの?」

「NEOにも歴史があるから一言で言うのは難しいけど、侵襲式BMI(Brain-machine Interface)…Ultimateデバイスの存在は大きい。僕も姫依もつけてるよね」


※BMIは既存の技術であり、イーロン・マスク氏が設立したニューラリンクや米フェイスブックの事業が有名。UltimateデバイスはNEO社が開発したBMIの製品名。


「うんうん、脳とPCをつないでデータのやりとりをする装置だよね」

「そう、こういう装置が一般的に実用化されるのはもっと先のことだと誰もが思ってた。でもNEOはそれを作って社会に浸透させたんだ」

「でもつけてる人はあんまりいないよね」

「外科手術が必要だからね。必要性、費用、不安、倫理、つけたいと思う人が少ないのは自然かもしれない」

「私はつけてよかったと思ってるよ」

「そうだね。Ultimateデバイスをつけるユーザーは少なくても、それが社会に与えたインパクトは大きかった。いろんな分野に応用できるしね。それ以外にもNEOは投資額も桁違いで、マーケティングも上手かったよ」


(世界中のBMI研究機関が解明できない課題を一気に解明したり、各国の法律や規制が許したのには何か裏があると思うけどね)


 解人はあえて言葉を伏せた。


「なるほどー…ちょっとすっきりした。ありがとうお兄ちゃん。じゃあ私はこっちだから」

「うん、気を付けてね。16時にここで待ち合わせて一緒に帰ろうね。何かあったら連絡するんだよ。すぐ迎えに行くから」

「わかってるよ。じゃあ後でね。優斗さんもまたね」

「またねー」


 姫依は広場の近くで兄達に別れを告げた。広場で女友達と合流する姫依。解人は手を振って見送る。その様子を見て優斗が言う。


「あんまり過保護だと姫依ちゃんのためにならないんじゃねーの」

「…」


 解人は幼い頃の記憶を思い返す。


ーー解人が5歳、姫依が3歳の頃ーー


 母を真ん中にして三人仲良く手をつなぎ、楽しそうに大通りの歩道を歩く。


「ママ、おかいもの、たのしい」

「うふふ、そうね」

「姫依、違うよ。まだ向かってるとこだよ」


 解人の言葉に一瞬固まる姫依だが、再び口を開く。


「…ママ、ちがうよ、むかてとこだよ」

「ふふふふ、そうね」

「お母さんは姫依に甘いなぁ」

「そうかな?解人がこの前おねしょした時も怒らなかったよ」

「ちょっと!お母さん!」

「あはは、おねちょ、かいとおねちょ、あははは」

「姫依も静かにしてよ!」


 姫依の笑い声がピタっと止まる。目を見開いて口をすぼめる変な顔を見て、母と解人は思わず笑ってしまう。


「ちょっとやだ、なーに、その変な顔」

「あっはっは、姫依なにそれー」

「いひひひ」


 母のスマホが鳴り、取り出して画面を確認する。


「あ、ごめん、電話きたから二人で手をつないでてくれる?解人、お願いね」

「うん、わかった。姫依、ほら」


 母が手を放し、解人が姫依に手を伸ばすと、姫依は素直に兄の手を握り、歩き出す。母は子供達の後ろを少し離れて歩いていた。


「かいとと、おさんぽ、たのしい」

「うん」

「かいと、たのしい?」

「楽しいよ。…お母さん仕事かな」

「??…ママ、いるよ」

「…うん、そうだね」


 解人は母の方を気にしていた。


(電話から聞こえる声は上司の田中さん。断片的に聞こえる内容から、客先でトラブルがあったみたいだ。急な出勤になる可能性がある。姫依は今日の外出をすごく楽しみにしてた。お母さんもそれは知ってる。行かないでほしいな…)


 解人は5歳にして母が電話で話す内容をおおよそ理解していた。そう、彼は英才型ギフテッドである。


「ぷにきあ!」


 姫依は急に兄の手を放して走り出し、縁石の上に乗って道路に落ちているゴミを指さす。解人は母に気を取られ妹と握った手を緩めていた。母はスマホを口から離して呼びかける。


「姫依、道路に出ちゃだめよ!」

「姫依、待て!」


 解人が姫依を連れ戻そうと咄嗟に出た言葉は、姫依に予想外の行動をさせた。


「やだーっ」


 追いかけられると勘違いした姫依は逃げるように道路へ飛び出し、車に撥ねられた。




 医者の説明によると姫依は外傷性脳損傷による下半身不随とのことだった。


「…あし、うごかない」

「うぅっ…ごめんね…ママが…悪いの…姫依…ごめんね…ごめん…ね…」


 母は姫依の手を握り嗚咽を漏らしながら娘に謝り続けた。


「姫依は生きていてくれた…ポジティブに考えよう」


 母の肩に手を添えてそう言う父の声も暗かった。


(お母さんに任されたのも、手をちゃんと握ってなかったのも、いつも姫依を「待て待て」と追いかけて遊んでたのも、あの時…「待て」と言ってしまったのも…全部僕だ。僕のせいだ…僕が…)


「……僕が悪いんだ」


 解人は姫依の脚の方を見ながら言った。姫依とは目を合わせられず、謝罪の言葉も口にできなかった。


「違うぞ解人。お前は悪くない。今回の件は不運だとしか言いようが…」

「もう…」


 息子のトラウマを深くしないために気遣った父の言葉を姫依が遮る。


「…かいとと…おさんぽ…できない?」


 名前を呼ばれた解人は姫依と目が合った。兄を見つめる姫依の目には涙が浮かんでいた。解人の胸は激しく締め付けられた。


ーーーー


「…僕はあの時、姫依を一生守るって決めたんだ」

「…そうだったな」


(今でもあの時の姫依の目が忘れられない。全て僕の責任だ。僕が守らないと…。これ以上姫依を不幸にしたくない)


「悪い、余計なこと言っちゃったな。そろそろ昼だし、飯でも食おうぜ」

「…そうだな」

「最近できたハンバーガー屋行ってみるか」

「任せる」

「元気だせよ。ジュースぐらいおごるからさ」

「金には困ってないよ」

「うわっ、感じわるっ!むしろおごれ!」

「ネオモンで僕に勝てたらおごるって、いつも言ってるけど」

「よし、わかった。今日の夜勝負だ!」

「無駄だろうけどね」

「いーや、余裕だね。今日こそ初勝利を収めてやる!ハンデありでいい?」

「……いいよ」


 繁華街を歩いて目的地へ向かう二人。しばらく進むと多くの人が時折後ろを振り向きながら逃げるように走ってくる。


「なんだあれ?」

「…普通じゃない」

「確かに…。何か事件かな」

「姫依に連絡する。危険を感じたら僕たちもすぐ逃げよう。様子を見てて」

「あぁ、わかった」


 解人は電話をかけながらアプリで姫依の位置を確認する。優斗は何かがあったと思われる方向を監視していると逃げる人達の会話が聞こえてきた。


「やばいやばい、なんだあれ。撮影じゃないよな」

「んなわけねーだろ!目の前で血を吹き出して殺された奴ら見なかったのか!?」

「ちょーこわいんだけど」

「警察は何やってんだよ」

「死にたくない死にたくない」

「やべー、服に血ついてる、気持ちわりぃ」


 優斗が監視している方向から大きな悲鳴が聞こえてきた。


「おい、解人、ここもやばいかもしれないぞ」

「わかってる。少なくとも殺人が行われた可能性が高い。それより姫依が出ない…」


(姫依の現在地は事件が起きている方向の飲食店の中だ。事件が起きているのは屋外…実行犯の一人は少なくとも外にいる。悲鳴の大きさ、逃げる人の様子、速度等から推測すると、姫依がいる建物よりこちら側に実行犯の一人がいる可能性が高い。銃声や爆発音は聞こえないし、日本で消音器付きの銃が使われる可能性は低い。血を吹き出していたという表現から凶器は鈍器ではなく刃物だろう。既に危険な目にあってたら……頼む…出てくれ姫依!)


「もしもし、お兄ちゃん?」

「姫依!無事か!?」

「うん、外が騒がしくて他のお客さんが様子見に行ったけど、何かあったの?」

「ならそのまま外に出ない方がいい」


 解人は電話中も周囲を確認していた。逃げ惑う人達が先程までより必死になっている。事件現場に向かう警察官もいた。


「殺人事件だ。通り魔かもしれない。今から迎えに行く」

「えぇっ!?」

「他の人には言うな。混乱を招く」

「…あ、う、うん。わかった。」


電話を切った解人に優斗が慌てて話しかける。


「迎えに行くって、事件現場の方に行くのか!?」

「正面から行かず、迂回すればいいだけだ。ルートは決めてある。周囲の状況から犯人はこちらへ直進している可能性が高い」

「…」


 優斗の記憶が走馬灯のように蘇る。


「大事なのは学力じゃない、正しい心と行動力だ。優斗、お前にはそれがある」

「優斗、ビビるなよ。余裕だ余裕」


(兄貴…そうだ、こんなことでビビってちゃ駄目だ!)


「…わかった、姫依ちゃんを助けにいこう。俺達なら余裕だ!」

「ありがとう優斗」


 ドオォンッ!


挿絵(By みてみん)


 解人達から数メートル離れた場所にキリバニーが着地した。付近にいた人達が血を吹き出して倒れた。人々は悲鳴を上げながら逃げ出す。キリバニーの近くにいる者は次々に被害者となった。解人達は逃げながら姫依のいる建物を目指す。優斗が声を荒げる。


「おいおい!!なんだよあれ!」

「見た目はキリバニーだ」

「ネオモンがメタバースから出てきたってのか!?」

「いや、あり得ない」

「じゃあなんなんだよ!そっくりじゃねーか」

「…わからない。ただ、奴は生物の可能性がある。それと目標は人間だけかもしれない」

「えっ!?」

「被害者がゲル状の物体で覆われようとしていて、それは奴の体から出てたんだ。捕食かもしれない。それと犬が近くにいたのに関心を示さなかった」

「まじか…」


 姫依がいる飲食店から少し離れた場所、被害者が多数横たわっている場所には警察、救急、消防、一般の救助者、野次馬等、人だかりが出来ていた。


「姫依!大丈夫か!?」

「お兄ちゃん!」


 飲食店に無事ついた二人は姫依の無事を確認して一旦安心した。


「状況が変わった。今すぐ店を出よう」

「え、外に出ない方がいいんじゃ…」

「説明してる時間がない、早く!」


 外から悲鳴や銃声が聞こえてきた。人だかりが出来ていた方から人々が走ってきた。


「遅かったか…ここにいよう。窓から少し離れて、でも外の様子を出来る限り見るんだ」

「えっ?」

「どういうことだよ解人」


 解人は小声で話し始めた。


「奴の目標は人間だ。周囲に人がいなくなれば次の目標を探すために移動するだろう。初期の被害者の周りには人が集まる。奴がそこに戻ってくる可能性があって、多くの人がいればそこでの奴の滞在時間は長くなる。そうなる前に逃げたかったんだ」


「奴…?人間が目標って…?」


 姫依は状況がよく理解できなかった。優斗が答える。


「通り魔、無差別殺人犯のことだよ。…てことは奴がまたいなくなるまで待機して隙を見て逃げるってことか?」

「そう簡単でもない。奴が戻ってきて被害者が増える様子を見た人の多くは恐怖で現場から離れるだろう。それに警察も規制線を張るはずだ。現場へ近づける人はどんどん減っていく」

「ってことは…」


「そう、次の目標は建物の中に隠れている人達かもしれない」


「じゃ、じゃあ逃げた方がいいんじゃないのか?」

「他にも建物はたくさんある。他の建物へ侵入するのを確認してから逃げた方が助かる確率は高くなると思う。それに警察が奴を制圧する可能性もある」

「他の人を犠牲にして逃げるのか…」

「さっきだってそうした。僕達には他人を助ける力も余裕もない。迷いがあれば死ぬ確率は高くなる」

「…皆で裏口から逃げるとかは?」

「奴の動向を見て逃げる方が確実だと思う。幸いここは角地、様子を見るのには向いている」


 姫依とその友人は青ざめた表情で小刻みに震えている。


「心配しないで。僕が絶対守るから」


 小さく頷く姫依。外の様子を見ていた優斗が言う。


「解人、奴が来たみたいだぞ」

「姫依達は見ない方がいい」


 外には人々が逃げる方向と反対方向に拳銃を向ける警察官がいた。


「止まれ!撃つぞ!」


 キリバニーが警察官に接近、解人達にもその姿が見えた。警察官は発砲した。キリバニーは被弾し、損傷しているようだが怯まず接近する。


「くそ、怪物め!」


 二発目の銃弾がキリバニーに当たったところで、警察官は防護服ごと刃に貫かれた。解人はこれを分析する。


(対刃防護衣も無意味…ただ、拳銃は効くみたいだし、あの刃だって刃こぼれして性能は低下しているはず。警察が制圧するのも時間の問題か…?)


「なっ!」


 警察官に撃たれたキリバニーの傷跡が徐々に治っていく。


「傷口が塞がっていく。あの回復能力で刃の性能も維持しているのか…」


 キリバニーが警察官をゲル状の物体で覆うと、警察官が着用していた衣服や装備と彼の骨を残して肉体が消えていく。


「く、食ってるのか…」

「そうみたいだ。人間を養分にしてるんだろう」


 ダァン!ダダァン!


 捕食中のキリバニーが被弾した。捕食を中断して発砲された方向へ跳躍するキリバニー。


「今だ、裏口から出るぞ」

「え?大丈夫か!?」

「今しかない、早く!」


 四人は裏口から店外へ飛び出し、キリバニーから離れるように移動する。


「複数の銃声が聞こえた。おそらく機動隊かSATだ。警察が奴の相手をしている間に安全な場所まで逃げる。制圧してくれる可能性もあるし、奴の進路が変わったのも大きい」

「何で裏口から出たんだ?」

「射線に入らないためだよ。流れ弾でやられたら笑えないし、警察も撃ちにくくなる」

「なるほど、じゃあさっさとこの地獄から逃げよう」


 優斗が先頭、解人が最後尾を務め、細い路地を進む。


「もう少しで通りにでるぞ!」

「警察を見つけたら誘導に従おう」


 通りに出たがそこにも多くの人が倒れていた。救助者はいない。遠くに規制線が見え、多くの人がいた。


「向こうだ!後方は僕が警戒する。後ろを振り向かずに全力で向かうんだ!」

「わかった!」

「こんなにたくさんの人が…」

「姫依達は周りを見ないように、とにかく助かることを考えて!」


 解人は姫依達が死体を見てショックを受けないよう気遣っただけではなかった。


(最悪のパターンだ。僕も考えたくなくて無意識に選択肢から外していたのかもしれない。ここに倒れている人がキリバニーの被害者だとしたら、キリバニーが離れてから時間が経っている。警察や救助者がいないのはおかしい。つまり…間違いなく二匹目が近くにいる!)


 解人は走りながら落ちている袋と炭酸飲料の入ったペットボトルを拾い、袋の中にペットボトルを入れる。


(簡易的な武器だが素手よりは遥かにマシだ)


 後方を警戒しながら走っていると路地からネオモンが現れた。


(あれは…!)


 ネオモンは解人達を確認すると追いかけてきた。


(くそ、追いかけてきた!キリバニーの身体能力を見る限り奴も人間離れしているだろう。このままだと追いつかれる。僕が時間を稼ぐしかない。姫依は絶対に守る!)


「急いで!奴がそろそろ来るかもしれない!」

「おう!絶対逃げ切るぞ!」


 解人は姫依達が後ろを振り向かないことを確認すると立ち止まり、ネオモンの方を振り向く。


(叔父さんから習った格闘技もある。勝算が全くないわけじゃない)


 解人は落ちているバッグを拾うと狭い路地の方に移動し、ネオモンが自分に向かっているのを確認すると路地に入る。


 ネオモンが路地に入った瞬間、顔に向かってバッグが飛んできた。ネオモンが左手でそれを弾くと、ペットボトルが入った袋…鈍器を振りかぶった解人が既に懐に入っていた。


(お前の左手は防御に使った。蹴りはない。右手の武器は腕と一体化していて小回りが利かない。そうだよな…)


「ネクロナイト!!」


挿絵(By みてみん)


 ガッッ!!鈍器がネクロナイトの横顎に命中する。ネクロナイトの顎は砕け、破片が飛び散る。


(こいつらに急所があるならこの状況で狙うのは脳だ。知能を持っているように見えるこいつらには脳がある可能性が高い。確実に脳が揺れる場所に決まった。これでダメなら…後は僕が犠牲になって皆が逃げる時間を作るだけだ)


 ネクロナイトがよろけた…


(やったか!?効いたなら逃げられる!)


 ように見えたが、右腕を後ろに引き、勢いよく解人の腹部を突き刺した。


「ぐあぁ…っ!」

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