お披露目
夜、悠から電話があった。
「イグニッションコイル届いたから交換するの手伝ってくれない?」
「おっ、ようやく届いたか」
「うん、だから早く交換して軽く乗りたいなと思って」
「了解、準備して行くわ。30分くらいかな」
「分かった」
電話を切り、準備を始める。
(それにしても、タイミングばっちりだったな)
悠に内緒にしたまま今日の夕方に納車された25○SS。報告しに行こうかとしていた時にまるで仕組まれているかのように届くイグニッションコイル。否が応でもテンションが上がってしまうのは仕方のない事だろう。
(今晩は結構走るかもな)
幸い明日は土曜日なので俺も悠も仕事は休み。そうなる未来予想は当たりそうな気がする。
準備も終えて俺は家を出る。納車されたマッハに乗って。
――――ファァアーーーン、ファッファアーーーン、ファァアアーーー――――
(あ、2ストの音だ。この時間にこの辺走る人いないから珍しいな)
イグニッションコイルの交換を始めていた悠は近所を走るバイクの音に耳を傾けていた。悠の家はメインの道から外れている郊外のためそこまでの交通量は無い。なので聞きなれない音に反応していた。
(そういえば今日はどっちで来るんだろう。乗るって言っといたからバイクかな。音全然聞こえてこないけど)
106ccにボアアップされたあいつの高校時代からの愛車。認定マフラーを付けていても抑えきれない音量なので走っていたら遠くからでも分かる。本人曰く、1万4千回転まで回るらしいがそこまで回すと騒音問題待った無しだろう。
――――ファウゥーーン、パッパッパッ、ファアーーー、パラパラパラ――――
気が付けば2ストサウンドの音が家の近くまで来ていた。
「お待たせー」
「いやいやいや、お待たせじゃなくてどうしたの、それ」
「買った」
「買ったって、なんも言ってなかったじゃん」
期待通り悠は驚いてくれた。話したいのを我慢して良かったと思う。
「ホントはこの間会った時に報告しようかと思ってたんだけど悠にドッキリ掛けられたしさぁ。ならこっちもドッキリにしようかと思って」
「ドッキリのレベルが違いすぎるんだけど」
「驚いてもらえたようで良かったよ」
「それは驚いたよ。とりあえず納車おめでとう」
「うん、ありがと」
ドッキリを掛けられながらもお祝いの言葉を送ってくれる悠に返事をしながら少しうれしく思う。
「それにしても、バイクは増やさないって言ってたのにね」
「だってあの時にはもう納車待ちだったし、今(納車待ちの25○SS)以上は要らないっていうのも嘘じゃなかったでしょ」
「確かに嘘じゃないけどそんなとんちいらないよ」
「でもこれで二台並んで走っても違和感ないでしょ」
あくまで嘘は言ってないと主張しながら悠をなだめる。
「25○SSかぁ。よく見つけてきたね」
「貯金切り崩して県外のショップから購入よ」
購入の経緯についてある程度説明して納得した悠は改めて25○SSを見た。
「けどこのマッハ奇麗だね。これが150万なら納得だね」
「でしょ。俺も生で見てびっくりしたもん」
「相変わらず爆音だけどね」
「サイレンサー付いてなかったからね。もうポチってるから少しの我慢で。ここまで乗ってきてもう耳が悪くなってる気がするもん」
「だろうね。結構遠くから聞こえてたよ」
「これで俺が来るときは分かりやすくなったでしょ」
不本意ながら俺の乗るバイクにまたうるさい仲間が増えた。尚、静かなのはフルノーマルで保管しているドリ○ム50だけである。
「さて、さっさとイグニッション交換して走りに行こうぜ。どこまでやった?」
「古いやつ外して、あとは新しいやつ取り付けるだけ」
「オッケー」
俺と悠はツーリングの為にイグニッションコイル交換を終わらせるべく作業に取り掛かった。