原因究明
無事ガソリンスタンドで給油を済ませ帰ってきた二人。
「まさか店員に声かけられるとは思わなかったね」
「しかもまだ二十歳過ぎくらいだったし」
「サンパチってバイク好きには認知度高い方なのかね」
「すごい興味津々って感じで話しかけてきたもんね」
そのガソリンスタンドにG○X250が止まってる事は前々から知っていたのだが、まさか声を掛けてくるとは二人とも思っていなかった。
「これから給油する時はあそこに通わなきゃじゃん」
「バイク止まってる時は立ち寄るようにしようかな」
二人は発電不足と失火の原因箇所を調べるために出来る事から始めた。
「さて、とりあえず出来そうな事から始めようか」
「とりあえずバッテリーの電圧でも計ってみる?」
「そうしてみようか」
手始めに今現在の電圧を計ってみたのだが。
「12.5V」
「低っ。それはマジで発電されてなさそうだね」
「ホント、よく帰ってこられたよ」
12.5V。その数値は基本的にバッテリー上がり直前の数値と言ってもいいくらいだ。下手な車だとセルモーターが回らない可能性も出てくる。
そして、サンパチにとっても致命的である。何故なら、一般的な車両は発電された電気はバッテリーに充電されそこから点火用に電気を送る。
だが、サンパチは点火に使う電気を発電元から直に送っている。つまり発電されていないというのはエンジン停止を意味する。もちろんエンジンを再始動しようとしてもかからないのである。
「一応エンジンかかってる状態でも見てみようか」
「そうだね。万が一もあるし」
..........
「変わんないね」
「むしろ減ったじゃん」
「これはコイル巻き直しに出すしかないかなぁ」
「リビルト品とか売ってないかな」
「どうだろ。とりあえずいろいろ調べてみようか」
それから悠は巻き直しをしているショップに電話をしたり、俺はヤ○オクとメ○カリでオルタネーターを探した。
「...そうですか。ありがとうございます」
「どうだった」
「だめ。今注文しても3ヶ月待ちだって」
「3ヶ月は長い。一番走りたい時期終わるじゃん」
「それよ。冬は運転手が乗る気ないから」
二人の住んでいる所は真冬でも雪が降ることは滅多に無いがそれでも寒いものは寒い。なので基本的にバイクに乗ることはしない。
「そっちはなんか見つかった?」
「微妙。予備で買って使わずにいたから出品したやつとか」
「ギャンブルだね。それ買ってそれも発電しなかったら泣くよ」
「2個とも巻き直したら完全な予備品が出来るけどね」
「そんな予算も時間的余裕もないよ」
「とりあえず掘り出し物が出るまで毎日チェックするしかないか」
オルタネーターに関してはこれ以上進展しそうにないので、次に失火の原因を探す事にした。
「失火の原因だけどやっぱりイグニッションかな」
「無いだろうけど単純にプラグがかぶってたりとかがいいな」
「さすがにねぇ。まぁどのみちプラグ外すからチェックしてみようか」
そしてプラグを外して焼け具合を確認することになった。
結果的に左右のプラグはこんがりきつね色に焼けているのに対して問題の真ん中はオイルで湿っていた。プラグが湿っているという事は当然スパークが起こっていない。
「やっぱりかぶってるね」
「とりあえずプラグに電気来てるかキックしてみようか」
「そうだね。軽く回してみて」
スパーク確認のためには本来スパークテスターという専用の機械がある。しかしそのような機械を使わなくても簡易的に調べることができる。
悠は新品に交換したプラグをエンジンブロックに当てがった。これによってプラグからアーシングが取れるので通電の準備は整う。アーシングが取れていないともちろん通電しないのでスパークは飛ばない。
「オッケー?軽く回すよ」
「よろしく」
俺は確認したあとエンジンが掛からない程度の力でキックペダルを軽く蹴った。
「どう?」
「だめ。飛んでない」
「了解。地道にテスターで計っていこうか」
「それが確実かな」
「タンク外すのめんどいわぁ」
「それはしょうがないね」
そうして通電されていない事が分かったので故障個所を探す事にした。
なぜタンクを外すのかというと、配線類が纏めて隠されているからである。今回調べたいイグニッションコイルはもちろんタンク下に収納されている。なのでタンクを外さないと調べる事が出来ないのである。
「ホース外したよ」
燃料ホースを外しタンクがどこにもつながっていない状態にする。もちろんコックをオフにしておく事も忘れない。
「先に謝っとく。タンク落としたらごめんよ」
「落とされるのは困るからやめて」
「万が一を考えるとほら、ね」
もちろん冗談なのだが、タンクはバイクの顔と言ってもいいと思っているので気を遣うのも本当である。しかもこのサンパチのタンクは凹みもなくすごくきれいな状態なのでなおさらだ。
「思ったより重い。早く置き場所構えて」
「はいはい、ちょっと待ってね」
確かにガソリンは満タンにしてきたが、こんなに思いとは思っていなかった俺はわりと本気で置き場所を求めた。無事何事もなく倉庫の隅に段ボールを敷きそこにタンクを置いた。
「じゃあ計っていこうか」
「構造シンプルで分かりやすいのは助かるな」
むき出しで三つ並んだイグニッションコイル。念のためコードを追いかけて並びも確認する。もちろん並びは一緒だ。
「あぁ、前の人もテスターで計ったみたいだね」
通電を確認するためには皮膜の中にある電線にテスターを触れさせないといけない。イグニッションコイルの配線にはチェックしたであろう証拠にビニールテープが巻かれていた。
「配線傷つけなくて済むからいいじゃん」
「それもそうだね」
「とりあえず調べよう」
テスターを配線に取り付けチェックする。その結果、通電されていない事が分かった。