短距離走行
軽トラに無事サンパチを載せ、先輩たちと別れ帰路に就いた。
「改めて、おめでとう」
「ありがとう。けど、みんな強引に話進めすぎなんだよ」
「いや、悠も持って帰っていろいろ弄りたいでしょ?」
「そりゃそうだけど、どちらかというとお前が見たいんじゃないの」
「よくお分かりで。そりゃ見たいに決まってるさ」
実際、俺もかなり気になっていていた。新しいおもちゃが目の前にあるのに興奮しないバイク好きがいるわけがない。
「けど、かなり安く手に入ったね。しかもあんな奇麗なやつ」
「修理費込みでも相場よりかなり安く仕上がりそう」
バイクブームなのか最近絶版車相場が上昇傾向にある。サンパチもショップ購入になると倍の予算が必要になってくる。某名車などに至っては300万越えになり乗用車が新車で買える金額になってしまっている。
そのことを考えても今回の購入金額は破格の値段といえるだろう。
「やっぱり個人売買だと安くなるな」
「それはあるね。紹介してくれた先輩に感謝だわ」
「もうこっちの方角に足向けて寝られないな」
「ホントそれ。...さて帰ったらどれくらい調子が悪いのか調べますかね」
「だね。といっても聞いた感じだと、とりあえずは電圧見るくらいになるんじゃない?あとはプラグチェックと満充電からの航続距離とか」
「乗る気満々じゃん」
「もちろん。悠も乗りたいだろうし。予備のメットあったよね?」
昔バイクを弄る際、悠の家に使わなくなったヘルメットを置いていたのを思い出し確認した。
「それはあるけど」
「じゃあ決まり。ガソリン入れに行くくらいなら大丈夫でしょ。任せて、悠の後ろには乗りなれてるから」
「エンジン止まっても知らないからね」
「そんときゃ頑張って押そう。おっさん二人なら余裕よ」
こんな時近所にガソリンスタンドがあるのは助かる。
そうしてなし崩し的に近距離タンデムツーリングに出かけることになった。
ガッガチャッ フォン パッパラパラッパラパラ
キック一発で掛かるエンジン。そして2ストローク特有のエンジン音とオイルの焼ける匂いは現行車にない官能的な音と、今の時代にそぐわないであろう環境を一切無視した白煙を吹き出す。
「さぁ、スタンドに行こうか」
「かるく走るだけだからね」
「わかってるって。安全運転でよろしく」
そうしてサンパチの初走行に出かけた。
「2ストでしかも一発死んでるって聞いてたからもっと発進がもたつくと思ってたんだけど、全くそんな気配無いね」
「だね。ふつうに発進出来て加速もちゃんとする」
「まぁ1気筒あたり120cc以上はあるんだから走れなくはないんだろうけど、これで3発打ち始めたらどうなるんだろうな」
「じゃじゃ馬にはならないと思うんだけど楽しみでしょうがない」
「早く直さないとじゃん」
実際乗っていても全く違和感の無いフィーリングで走行していた。これが途中から1発打たなくなったのなら違いに気づいたのだろうが今の二人にはその違いを感じることはできなかった。