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青星を見つめる  作者: レモンティー
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三節 【来訪者を見つめる】

「竹下」


「あ、はい。どうしました?」


「お前に客人だぞ」


「俺に…?」


昼下がりの職場。

デスクの前で大量の資料と格闘していると、上司から知らせが届いた。


職場までわざわざ足を運んでくれる人間なんて、俺の周りには極少数と限られている。


大方の予想をつけ、すこし気だるさを覚えつつも俺はそそくさとエントランスに赴いた。


「あ!翁くーん!いたいたー!」


「…あれ」


だが、俺の予想は大幅に的を外していた。

大方、母か父、もしくは友人のどちらかが何かしらの用事で会いに来ていたのだと思っていたのだが。


目の前に現れたのは、そんな二人とはまた“別の”友人ーー秋奈 美空だった


夏の暑さを感じさせる、少し露出度高めの服装。

時代錯誤な麦わら帽子を被っているが、これが似合ってしまっているのだから、美人とは偉いものである。


「わざわざ会社にまで来るなんて…一体何の用事で?」


「なんのじゃないよ!」


手で顔を仰ぐ。

ポケットからスマホをとりだすと、さも叩きつけるように、彼女は俺にその画面を見せつけた。


そこには、少しの挨拶と、スタンプが数個送られているだけの会話があった。

簡素。最初の挨拶以降の会話が一切存在していない。


…というか、俺との会話履歴だった。


「今大学終わったから来たんだけど!なんで!何にも!連絡!して!こないの!」


「…えーと」


あの月面旅行から、気づけば一週間が経過していた。

彼女とはあの日以来、まともに連絡を取っていなければ、何か話をした訳でもない。

純粋に音信不通の関係だった。


「…大学生だったの?」


「え?」


しかし俺は、連絡の有無よりもそちらの方が気になってしまっていた。


人のプロフィールを聞くという事に少し苦手意識を持っている為か、思えば俺は彼女に年齢は聞いても、何をしているのかまでは聞いた覚えが無かった。


23だという話を聞いて、ステレオタイプに社会人であると思い込んていたのだから、それは驚きもするだろう。


「そうだよ?そうだけど…わーたしが大学生か小学生かなんてどうでもいいのよ!」


「そんな話をしていた覚えはないけどな」


「なんで!連絡!くれないの!」


「…あー」


なんで、と聞かれれば答えは一つしかない。


月面より一週間。

家に増えたもう一人の人間(?)の事で、今俺はとても手一杯なのだ。


何も、かぐやさんが世話がやけるなんて話ではない。

単純に、彼女はこの世界について何も知らない。言わば赤子のようなものだ。


俺なんかよりもよほどしっかりとしているが、しかし知識とは財産。やはり知らないコトは難しい。


それ故、久良と源太ですら、まともに話をできていない。秋奈さんが特別面倒くさいとか、そういった話ではないのだ。


しかし…。


「ああ…うん。まあ、ちょっと仕事が忙しくてさ。あのー…仕事あるから戻ってもいいかな?また帰ったら何か連絡するから」


かぐやさんの事は、誰に言える話ではない。

いつ何処で伝わり、俺の命が危険にさらされないとも限らない。


そうでなくとも、あんな幼気な少女を家に置いてます、などとどの口が裂けて言えようか。命とは別の問題で人生が終わりかねない。


それとなく誤魔化して、この場は一旦引きに行く。


「やだ!それ連絡来ないやつだもん!今週の土日空いてる?」


しかし、俺の友達は随分と強情なようだった。

…勿論空いていなくはないが…。


「遊ぼうよ!せっかく友達になったのにまだ月しか見てないじゃない!翁くんの友達も一緒でいいから!」


「…そうだなあ」


無論、せっかく友人になったのだ。

俺だって出来ることならば、遊びに行ったりしてみたい。…が。


二つ返事でOKを出せる程、俺の身の回りには余裕がない。


「帰ってから予定を確認するから…それじゃあ駄目か?」


「…んんんん…絶対連絡する!?」


「する。ちゃんとするから」


「んむむむ…なら…よし!翁くんは私の見立てだと絶対そういうの苦手だと思うから!忘れないでよ!」


「大丈夫大丈夫」


なんか、さらりと失礼な事を言われた気もするが、ここは追求する場面でないことくらい承知している。


ここは大人として、どっしりと構えていることにしよう。


「じゃあ、そういう事で」


「お仕事中に失礼しました!またね!約束だよ!」


「ああ、うん」


彼女が避暑地のビルを抜け、姿がみえなくなったところで少し肩をなでおろす。


正直…かぐやさんよりも余程彼女の方が闇に包まれている。そもそも、それだけ連絡をとりたかったのなら、自分から何かを送ってきてくれれば良いものを。


…分からない。


謎が謎のまま、嵐は瞬きの速度で去っていった。


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