これが魔王様(笑)の…
63話です。
俺は魔王…そう、全ての魔物従え、強く、凛々しく、神々しく、そして世界を玩具にできる唯一無二の存在、魔王コンプラスト。
そう、唯一無二…つまり神に等しいと言っても過言ではないはずなのだ。
「ようやく見つけたぞ魔王ッ!世界の為にさっさとくたばりやがれッ!」
突然響く衝撃と共に、玉座の間を半壊させた一撃。鬱憤を晴らすべく、俺は無能の命を奪っただけだと言うのに。
声を発した人族の男に言い返す途中で、左腕の違和感に気づく。
──痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…ッ!
咄嗟に肩を焼いて、断面を塞ぐ。
飛ばされた?
この魔王である男の左腕を?
いつ?
先の一撃で?
…いや、俺は魔王。
勇者と言えど所詮はただの人族。この程度魔王である俺にとって簡単にひねり潰せるゴミクズにすぎない。
痛みをなんとか堪えて、奴が動揺する隙を狙って言葉を吐き捨てる。
人族とはいえ、女連れ。見れば見るほど俺の女に相応しい。…それに、しばらく女を抱いていなかったせいか、今すぐにでも凌辱したい衝動に駆られる。
──いや、よく見たら勇者と並んだ男、ルイじゃないか?
それなら僥倖、どうして人族とつるんでるのかは知らんが、この俺が言えば喜んで女共を献上してくれるだろう。
自然と溢れる笑みを浮かべて、指図してやろうと口を開ける──が、その言葉は言い終える事ができず。
視界に映った取り巻きの姿に、俺は戸惑いを隠せないでいた。
そう、なぜならあの愚息共の後方で腕を組んでいる女は、俺よりも奴を優先した正妻だったからだ。
ーーー
左肩を抑え、狼狽えるクズを前にして、それぞれの武器を構えるルイ達5人。
そんな彼らの後方で、ただ静観していたエルピスは、隣で唖然とするエスプリを一瞥し、大きく溜息を吐いた。
「あっっっきれた…この期に及んで私の顔色を伺うなんてね」
青空の見える玉座の間で、妙に大きく聞こえる周囲の爆発音。
この場にいる全員に、白い視線を向けられたクズは、不意に歩き出したエルピスを前にして、その場で尻餅をつく。
「旦那様…」
「うん…僕も、ちょっと予想外、かな」
───バコン、と。
ルイが呟いた瞬間、エルピスの平手打ちによって玉座だったものにめり込んだクズ。
そんな両親のやり取りを前にして、彼は乾いた笑いを浮かべると、ただ曇りなき空を仰ぐのだった。
ーーー
───何故だ。
崩れ落ちた瓦礫の隙間から、光が漏れる。
───何故だ。
絶世の美女に囲まれ、慕われる愚息の姿。その大半が婚約者を名乗り、あまつさえ正妻が認めているだと…?
そんなことは、許されることでは無いはずた。
俺は魔王、神に等しい存在。その女共も、全ての女は俺のものであるはずなのに。
──いや、何もかもあの愚息が悪いのだ。愚息が、生意気にも俺の命令を無視したこの愚息が。
右腕でなんとか這い上がり、瓦礫の上に立ち上がる。
「ルイ貴様ァァァッ!何故俺の言う通りn──」
煩い黙れ!と。俺の怒りが出るよりも早く、四肢に響く衝撃の数々。
斬撃も、魔法も、そしてよくわからぬ光すらも。一瞬にして飛んできたソレは、どれも俺では防げぬものばかりで。
───なんだこの人族共は?
見たことのあるメイド見習いと侯爵の娘であればまだわかる。だが、これはなんだ?
勇者に見紛う強大な人族が3人。そして──アレは本物の女神!?何故、いやそんな暇では無いッ!
肉体が消し炭になったと理解した俺は、咄嗟に逃げ出すしか無かったのだ。
理由も分からぬまま、俺はただくたばる訳にはいかない。
そう、戦略的撤退だ。肉体はこの際仕方が無いが…魂だけでも逃げ延びれば、俺は───
ーーー
「さよなら、クソ親父」
閃光が空を走り抜け、魔王領の瘴気が霧散する。
歴代の勇者もびっくりするであろう、呆気なく終わった魔王戦。
八つ当たりじみたユナやプラソン、シリアス、クリア、ブラインド、エスプリの一撃を同時に貰い、一瞬にして消滅したクズの肉体。挙句の果てに、魂のみとなっても尚逃げ延びようとしたソレは、ルイの振るった《魔王剣アボミナブル》の一閃により完全に消滅したのだ。
懺悔でも、感謝でもなく、ただ一区切りをつけるための、形骸的な一言。《魔王剣アボミナブル》を鞘に収めたルイは、振り返るでもなく口角を上げると、右手を掲げサムズアップをした。
「やった、のか…?」
「えぇ、女神である私が保証します。あのクズは輪廻の輪からも外れ、完全に消滅しました。万が一─億が一にも復活することはありません」
プラソンに続けて、何故か機械的にそう返すエスプリ。
フラグにも似たその言葉に、全員の視線が集まると、彼女は悪戯そうに舌を出した。
次回ッ!
最 終 回 ッ!




