魔王。そう、魔物を統べる王なのだッ!
61話です。
ボロボロになった魔王城の一角にて。豪勢な衣装の魔物は一人、大量の書類に囲まれていた。
「クソっ──クソクソクソッッッッ!何故だ!俺はこの世界全てを玩具にできる存在なはずなのだ!なのに何故!こうも面倒事が──」
「魔王様!報告です!南西の貴族が王都に軍を率いて侵攻中とのこと!」
「伝令!暴動鎮圧に赴いた第三部隊が瓦解!直ちに援軍を──」
「襲撃!襲撃ィィィッ!食糧庫が爆破されたぞッ!」
相次ぐ爆発音と共に、入り乱れる部下たる魔物の声。
攻撃による振動か、はたまた人波の余波か。書類の山が崩れ落ちた瞬間、魔王と呼ばれた魔物の男は、不意にその場で立ち上がると、周囲の魔物を肉片へ変える。
──彼は魔王。そう、魔物を統べる王なのだ。
『世界は俺の玩具である』と。
父親たる先代魔王の参謀として統一し、後に有力貴族(魔物)を取り込んで一生安泰になるはずだった──そう、なるはずだったのだ。
だがしかし、現実はどうだ?
次々と押し寄せる問題の数々。常に命を狙われ、安眠もできぬ日々。
最初は順調だったのだ。父である先代魔王を殺し、成り代わった後。正妻であるエルピスに面倒事を押し付け、汚職と女に塗れた順風満帆な日々を謳歌していたはずなのだ。
…だが、今は?
手中の貴族と息子を婚姻させ、次代の魔王となった彼にその責任と仕事を押し付け、隠居し遊び放題となる計画。こちらでお見合いも組み、城に縛り付けることで動けなくさせた。なのにどうしてこうなった?
「クソッ…!クソクソクソッ…!」
あの日、メイド見習いと共に奴が消えてから、全てが狂いだしたのだ。
計画は順調だったはずだ。だが何故?
次々と表沙汰になる汚職な数々。急に戻ってきた正妻。お気に入りのメイド達はいつの間にかいなくなっており、側室すらも後宮から姿を消した。
──そして、挙句の果てにはそう、人族に勇者が現れたという始末。
愚民共は反乱し、息のかかった幹部が次々と消息を絶つ異常事態。正妻に押し付けようとしたものの、愚息に会いに行くと城を出ていってしまった。
ギリリと拳を握り締め、肉塊を踏みつぶす魔王。
彼は血管を頭に浮き上がらせると、崩れ行く魔王城で大きく吠えるのだった。
ーーー
魔王城近郊、瘴気を失い、魔王領だったはずの場所にて。
エスプリと共に、ルイ達の様子を伺っていたエルピスは、目の前の光景に笑みをこぼす。
「──いい仲間達を得たのね、ルイちゃん」
母親として、無意識に漏れた呟き。
プラソンに続いて、自分も仲間である、と。種族の隔たりも無く、姦しく笑い合う姿を他所に、彼女は輪に入るタイミングを失ったエスプリの背中をどつくと、顎をしゃくってみせる。
「──っ、そうね。わかっているわ、義母様」
眉をひそめて、言い聞かせるようにそう言うエスプリ。
直後、自身が女神であると告白した彼女に、子供たちの驚声が上がるのだった。




