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魔王って、もしかして無能なのでは…?

 58話です。

 ギルドへの報告を終え、無事報酬を受け取った勇者一行。

 新たにエルピス(ルイの母親)エスプリ(女神エスポワール)の2名をパーティに加えた彼らは、残った依頼を順調にこなすと、フィフスにその名を轟かせていた。


「──そういえば、義母様(おかあさま)は魔物の領域から来たとおっしゃってましたが…勇者様──と、ユナさんもそちらから…?」


 フィフス近郊の草原にて、不意にそう話題を振ったクリア。魔物の血に塗れながら、聖杖(という名の鈍器)を片手にした彼女を前に、ルイとユナはピタリと動きを止めると、ゆっくりとその頭を動かす。


「あ、あはは…」

「そ、それは…」


 2人にしては歯切れ悪く、濁すような声。

 そんな2人を見かねたのか、エルピスはそっとクリアの肩に手を添えると、その耳元へ顔を近づける。


「ダメよクリアちゃん人の過去を勝手に詮索しようだなんて」

「──っ!お、義母様しかし…」

「追いかけてきた私が言うのもなんだけど、2人は駆け落ちしてここにいるのよ?その紆余曲折を無理矢理(・・・・)聞き出すのは私も納得しかねるわ」


 囁くように、しかし強い口調でそう言って、クリアの頭を撫でるエルピス。

 母親への敬称、婚約者、駆け落ちetc…ルイの出自に対し、ひとつの結論を導き出したクリアは、反射的にブンブンと頷き口を噤む。


(…落ち着くのよ聖女クリア。彼が何者であれ勇者様は勇者様。わたくしが恋焦がれた殿方であることに変わりはありませんわ。それに──)


「──その、義母様」

「なぁに?クリアちゃん」

「差し支えなければ、義母様が潜入していたという魔王領の話、聞かせていただけないでしょうか…?」



ーーー



「──と、まぁこんな感じね。少なくともコン─んん゙っ、あの魔王はクズよ。私の知ってる限り、ではあるけれど」


 昼食時ということもあり、広げられた携帯食の数々。そんな魔物一匹現れぬ(正確にはルイ達も魔物だが)草原で、エルピスは愚痴るようにそう言葉をしめる。魔王領に潜入していた(ことになっている)彼女のその話は、昼食を食べていたルイ達の手を止めさせるには十分だった。


「…えっと、話をまとめると、今の魔王は汚職まみれの為政者で、正妻側室がいるのに遊び放題、なんなら汚職の数々がその正妻にバレて、内政はゴタゴタ、王子派の市民?達が頻繁にクーデターを起こしてる、と」

「えぇ、魔物を人族の体制に置き換えるならその表現であってるわ」


 まとめたシリアスの言葉に、肯定で返すエルピス。

 クズ、と。そう称した彼女に呼応するように、一同は顔を引き攣らせると、どちらともなく溜息を吐いた。


「なぁ…魔王って、仮にも魔物の王…なんだよな?王なのにこれって──」

「プラソン、それ以上はいけない」

「私達の立場を抜きにしても、流石にこれは…」

「えぇ、クリアの言う通り有罪ですね。流石、その魔王子が家出するだけのことはあります」


 口々に、魔王への評価を(悪い意味で)改める声。ただ無言のまま、寄り添ってくれるユナを他所に、ルイは頭を抱えると、考えることを放棄した。


「魔王って、もしかして無能なのでは…?」

『番外:女神エスポワールと勇者の母エルピス』

 邂逅(旧領主邸にて)


エス「魔王級の魔物!?浄化しなくちゃ!」


エル「ふーん、これが女神の浄化魔法?大したことないわね」


エス「そんな…あの勇者以外に女神である私の《ピュリフィケイション》が効かない魔物がいるなんて…」


エル「勇者…?魔物…?」


エス「そうよ!そこにいる彼が今代の勇者にして私の将来の伴侶!貴女がいくら強い魔物だとしても、彼がいれば──」


エル「ルイちゃんが勇者だったのね!よかったぁ…お母さん、ルイちゃんのために勇者を消そうと思ってたのだけど、その必要も無かったわね!」


エス「え、お母…さん…?」


エル「えぇ、私はエルピス。貴女が勇者と呼んだルイちゃんの母親です♡」


エス「すみませんでした義母様ぁぁぁ!」



ルイ「なにあれ?」

クリア「女神様!とっても気持ちわかります!」


※この後、旧領主邸に乗り込んだ4人は数々の不正の証拠を持ち帰ることとなった。


                  おわれ

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