ダブル─じゃない!これはトリプルブッキングだ!?
56話です。
ステンドグラス越しに光の差し込む、フィフスの教会にて。ここ数日、謎の光──基、浄化魔法が放たれていた教会内は、今日も今日とて澄み渡った空気に満たされている。
さて、フィフスの住民へ安眠妨害という大罪を犯したこの浄化魔法。教会内の人間は誰一人、どの規模で、誰が発動していたのかを把握していないというのだから、聖職者にとって頭痛い話である。
閑話休題。
そんな原因不明な超常現象が起きる中、いつものように、掃除をしていたシスター達は、目の前の光景を目に、手を合わせ祈る。
「──面を上げなさい」
ただ美しく、凛とした声。
鼓膜を震わせたソレに、シスター達は感涙すると、その部屋の隅へと自らの身体を追いやる。
「いい心がけです。その他者を慈しむ行動、私相手だけでなく、これからも是非精進してください。──では」
ゆっくりと、シスターのいた場所を通り過ぎ、教会を後にした絶世の美女。
そんな女を見送った彼女達は、固まりかけた身体をピクリと動かすと、暖かくなった自身の胸に再び手を合わせる。
「嗚呼──女神、エスポワール様…」
ーーー
「またハズレ、ね…」
フィフス近郊の一角にて、呟きと共に出る深い溜息。
積み上がった魔物だったものを背に、美しい魔物の女は立ち上がると、街中へ向けて視線を移す。
「──落ち着きなさい私。魔物が隠れ蓑で無いなら人族側に紛れている可能性もあるわ。…人族と外見が似ているあの子達ならあり得ない話でもないわね」
ブツブツと。言い聞かせるようにそう言って、自ら頷く女。
思い立ったが吉日。彼女は自身の翼を広げると、残骸を消し炭にして飛び上がる。
──目指すは目先の人族街、フィフス。
幹部を倒す勇者、並びに障害となるものは街ごと消し去ってしまえば良い、と。それ相応の力を持つ彼女ならではの思考だが──そんな短絡的な考えのまま、彼女は微かに感じた我が子の元へと大空を舞い進んだ。
ーーー
依頼開始から4日目。ルイと共に、旧領主邸へとやってきたクリアは、廃墟然としたその建物を前にして、絡めていた腕にその豊満な肉体を押し付ける。
「きゃーこわいですわゆうしゃさまー」
ギュムギュムと。棒読みの言葉とは対象に強く押し付けられる感触。
意識を逸らそうと目を瞑り──かえって感触か鮮明になったソレに、ルイは血走っためを見開くと、雑念を払うようブンブンと首を振る。
「あのークリアさん?動きづらいから離してもらってm──」
「いやですわ!」
「そこをなんとk──」
「い・や・で・す・わッ!」
「アッハイ」
強調するように繰り返された声に、思わず押し黙るルイ。クリアが(今回のデート権を掛けた)ユナとの乙女の熾烈な争いに勝利した今であることなど露知らず、彼は感触に向きかけた意識を必死に引き戻すと、再度旧領主邸へと視線を向け直す。
(…兎に角、今は紛れ込んだ魔物の把握が最優先だ。教会やギルドの人曰く、領主だった人物が何処までちゃんと仕事してるかによるけど)
拷問趣味を持ち─ましてや浄化魔法を使える聖女が魔物を怖がるなどと、そんな疑問を浮かべるでもなく、一人思考に入ったルイは、屋敷の敷地内に一歩踏み入れる。
「───ッ!?ゆ、勇者様…?今──」
「あぁ…近づいてくる、ね…」
2人の背筋を震わせた、とてつもなく大きな気配。この世界において、彼等の実力は間違いなく上澄みではあるのだが──そんな2人でも尚、警戒するほどの存在が、幻覚でもなく着々と近づいていく。
「クリアさん」
「えぇ…勇者様のご指示とあれば」
方や《魔王剣アボミナブル》、方や姿に似合わぬ暗器に手を添え、背中を預け合う2人。
彼らの意識が別々の方向へ向いた刹那、目の前に現れた人物に、二人の声が重なった。
「母上!?」
「女神様!?」




