いつもの似た者夫婦だな
遅くなりました、51話です。
「勇者様っ!」
ボロボロの修道服のまま、ルイを見るなり抱きつくクリア。
開けた豊満な肉体を存分に押し付け、首筋に滴る汗をさりげなく舐め取った彼女は、その細い腕をルイの首に回──
「離れなさい、クリア」
──そうとしたところで、割り込んだユナに聖剣を突きつけられ、その動きを止めた。
「…ユナさん、どうしてわたくしの邪魔をするのです?」
「それは貴女が旦那様に手を出そうとするからです。私はまだ貴女を仲間と認めたわけではありませんからね」
「ふぅーん…」
するりとルイから身体を離し、ユナの方へと座った視線を向けるクリア。
今にも火花が飛び散りそうな雰囲気の中、見つめ合った2人は同時に口角をつり上げると、高らかに笑い始めた。
ーーー
笑い合う女性2人から離れ、音だけを殺してプラソンとシリアスの元へと駆け寄ってきたルイ。道中転がる魔物の骸は、そんな彼に反応するように2つの魔石へと姿を変えると、吸い込まれるように魔法の鞄へと収まっていく。
傷だらけの2人は、満身創痍といった様子で壁だった瓦礫に背中を預けると、その顔を見合わせる。
「お疲れ様、プラソン、シリアスさん」
「おう」
「そっちこそ、お疲れ様」
安堵の漏れた笑みを浮かべ、ルイの言葉へそう返す2人。
そんな表情を見たルイは、ボロボロになったプラソンの剣を拾い上げると、寿命の尽きた剣と持ち主を交互に一瞥する。
「すまないな、ルイ…せっかく、お前に改修してもらったってのに…」
「プラソン…」
悔しさに顔を歪めるプラソンを横目に、神妙な声で名前を呼ぶシリアス。壊れたソレが勇者から貰ったという事実を知る2人は、自身の怪我以上に「壊れた」という現実に唇を噛みしめている。
「──ううん、大丈夫だよ2人共」
「でも…」
「どのみち前の剣じゃプラソンにはついていけなかったしね、むしろちょうどよかったかも」
「ちょうどよかった…?」
「うん。──あ、そうだ。この際だしシリアスさんの杖も新調しちゃおうか」
2人の心情など露知らず、あっけらかんといった様子で手を差し出すルイ。
状況も分からぬまま、促されるように折れた愛杖を手渡したシリアスは、不安げな瞳を隣の男に向ける。
「プラソン?なんでそんなに落ち着いてるの…?」
同意を求めたシリアスの心情とは裏腹に、視界に入ってきた何処かワクワクした様子のプラソンの顔。
「ん?あぁ…そういえばシリアスははじめてだったか。まぁとにかく見とけって、な?」
「はじめて?見る?それってどういう──」
困惑した心境で、促されるままに視線を動かすシリアス。
訝しげな彼女の表情を他所に、ルイは鼻歌混じりに微笑み返すと、魔法の鞄から冥界竜の大きな黒い鱗を取り出し掲げる。
それは(シリアスにとって)異様な光景だった。
目の前の勇者が持つ竜の鱗は、まるで粘土のように形を変形させると、質素だが高級感のあるデザインの杖へと姿を変えていく。
──純粋な竜の鱗からできた、世に存在しうる最高級の魔法杖。
最後に魔石が埋め込まれると、全体が白色へと変化し、神々しいその姿が彼女の前に顕現する。
「シリアスさん」
「──っ」
不意に名前を呼ばれて、意識が現実へと引き戻される。
にこりとこちらに笑いかける勇者。ふと視線をプラソンへ向けると、聖剣と言っても遜色ない一振りの剣が彼の手には握られている。
「──これは《聖杖スペイ》。今のシリアスさんにふさわしい、共に成長していく杖だよ」
「聖杖…スペイ…」
呟く声と共に、元の位置へ戻るかどのように彼女両手に収まる純白の魔法杖。長年愛用していた錯覚をさせるソレは、まるでシリアスの心と連動するように、埋め込まれた魔石を美しく輝かせる。
「あ、そうそう。多分その心配は要らないと思ったけど、一緒に成長させるように調整したから、2人に所有者は固定してあるからね。他の人に貸したり、悪い事に使おうとすると一時的に壊れるようになって──って、聞いてないね二人共」
解説するようにそこまで語って、目前の2人を前にふとそんな声を漏らすルイ。渡した剣(または杖)を愛おしそうに頬ずりしている光景を目に、彼は頬が綻ぶ感覚を覚えると、自らの腰に手を当て呟く。
「いつもの似た者夫婦だな」
ちなみに、ルイがプラソンに渡した剣は《準聖剣ビクトリア》。
それぞれラテン語の「希望」と「勝利」から取ってます。




