これが大司教の…
大変遅くなりました、50話です。
儂は大司教…そう、これより崇高なる神、ハイル・ゲレヒティヒカイトとして世界を支配する者。
そんな我が崇高への儀式の場にて、ソレを邪魔する忌まわしき今代の勇者を迎え撃とうとして…
「見つけたぞ、生命をもて遊ぶ人で無しなハゲめ!」
目前に現れた『勇者』に儂は戸惑いを隠せないでいた。
そう、なぜならこの目の前にいる小童は、魔物の──そして、かつて我が計画を愚かにも妨害しようとした為に儂直々に実験として魔物の孕み袋へと堕とした聖女の血族だったからだ。
ーーー
肉塊の上で狼狽えるハゲを前にして、それぞれアボミナブル・聖剣を構えるルイとユナ。
髪の無い頭を掻きむしったハゲは、軽蔑の籠もった2人の魔物の視線に歯を軋ませると、血濡れた杖を天へと掲げ仰ぐ。
「忌々しきあの女め、何処まデも儂ノ邪魔ヲ──ッ!」
真紅の光が杖に集まり、床に刻まれた魔法陣が不気味に鼓動する。
「旦那様…」
「うん…これは、悪趣味だな」
肉塊の山に包まれ、不敵な光と共に徐々に異型の化け物へと姿を変えていくハゲ。
禁忌そのものとなったその醜い姿を前に、2人の魔物はただ本能的に『存在してはならないモノ』として判断すると、各々の剣を考えるよりも早く振り抜く。
───ズドン、と。
大聖堂の天井に空いた巨大な穴と共に、周囲に舞い散る粉々になったステンドグラスだったもの。
X字に切り裂かれた化け物は、断末魔を上げる間もなく重力に従い崩れ落ちると、ミイラのような人型をその地面へと吐き捨てた。
ーーー
───おかしい。
自由落下に従って、視界がどんどん下に落ちる。
───おかしい。
目の前小童共を始末するため、儂は確かに崇高の力の一端を使ったハズなのに。
久しく感じた激痛と共に身体中から力が抜ける。
儂は、何をされた?
いや、小童共は何をした…?
器も無く完全では無かったとはいえ、儂は一時的に崇高へと至ったハズなのに。何故目の前の小童共は五体満足で剣を構えている?
「────ッ!」
ガシャン、と。周囲に散らばるステンドグラスの破片。
キラキラと反射するそれは、崩れ落ちる肉塊を儂の視界に映すと、床に当たって砕け散る。
「嗚呼…そう、か…」
妙にスッキリとした思考と共に、儂の耳を震わせる絞り出すような声。
骨と皮だけになっても尚、辛うじて持っていた魔導具は、唯一存在していた「魔物」の反応をゆっくりと消していった。
ーーー
「嗚呼…そう、か…」
目の前のミイラから発せられる声に再び剣を構え直すルイとユナ。
緊張感が周囲に漂う中、ゴロリと水晶玉が床に転がり落ちると、ミイラは満足気な表情でその動きを止めた。
「やった、のか…?」
「えぇ…おそらくは…」
互いに顔を見合わせて、固まった筋肉を緩めるルイとユナ。2人は塵となり崩れ始めたミイラを前にして、詰まった息を吸い直す。
「旦那様、これって…」
「うん…きっと、他者の生命を吸い永ら生た大司教の成れの果てだよ」
「──と、言うことは…?」
「一先ず目的は達成、かな?」
短く状況を確認して、ようやく剣を納める2人。
レベルアップのファンファーレが脳内に鳴り止まぬ中、そんな彼らを待っていたと言わんばかりに突然足音が響くと、2人の破壊した壁の大穴から、傷だらけのプラソンとシリアス、そしてクリアの3人がその姿を現した。
※もちろんプラソン達は化け物達を本来あるべき姿に戻してきました。




