恐怖!それは大司教の心の声!
46話です。
例の如く短いです。
大聖堂の一角にて、肉塊を燃やしたハゲは、赤い液の滴る杖を片手に奥歯を噛み締める。
「ようやく…ようやくこの儂が神へと至る崇高な儀式の準備ができたというのにッ──!アァ忌々しいッ!」
ダンダンと握り締めた杖で床を叩いて、ハゲは臭い口の息を吐く。
人知を越えた存在、「女神エスポワール」に魅入られてから数千年。
何千何万の命を溜め込み、神界から女神を受肉させる器も用意した。
あとは傀儡共によって儀式を行い、女神のその力は我が物となる──はずだった。
もはや自身の年齢すら忘れるほど長く、多くの信者達から寿命を吸い上げ、生きながらえてきたハゲは、耳に入ってきた今代の『勇者』の動向を前にして、血管が浮き出るほどに顔を赤くする。
「何故だッ…!何故だ何故だ何故だッ…!」
計画は完璧だったはずなのだ。
魔王が世界を支配したのに乗じて結界を張り、勘ぐられぬように情報統制もした。そして目論見通り遂に誕生した歴代で最も力を持つ器もこちらへ来る手筈だった。…そう、今手元には儀式を行う全てが整っていたはずなのだ。
だがしかし、現実として女神の器はハゲの元には存在していない。
「勇者め…ッ!長きに渡る儂の計画を邪魔しおって…ッ!」
ダンダンと再び杖をついて、汚い口でそう呟く。
人形のように並んだ神官共を背後に、ハゲは杖を握り締めると、大聖堂の奥、瘴気の漏れ出る扉の方へとその足を動かした。
ーーー
「それで、コイツのことはどうするんだ?」
ユナとクリアが言い争いを続ける中、簀巻きにされた無駄に豪華な鎧の男を蹴りながら、不意にそんな言葉を漏らしたプラソン。
猿轡をはめられ、懇願するような男を一瞥したルイは、未だに土下座をしたままの純白の騎士の元へ足を運ぶと、その頭へと手を重ねる。
「…なるほどね、通りで」
「ルイ、何をやってるの…?」
ポツリと呟くルイを覗き込んで、シリアスが首を傾げる。
騎士から手を離したルイは、「ちょっとね」と誤魔化すように人差し指を立てると、プラソンに踏まれ目がイってる無駄に豪華な鎧の男へ、ゴミを見るような視線を向ける。
「どうやらこの男、彼らに僕らが賊だと吹き込んでたらしいね」
「なっ──」
「俺達がそんなことするわけ無いだろ!?むしろ街を渡って問題を解決してきたはずだ!」
ルイの発した言葉に対して、猿轡越しに荒い息を上げる男を踏みつけながら、反射的に声を張り上げるプラソン。
男の痴態を余所に、騎士達は確認するようなシリアスの視線に背筋を伸ばし直すと、ブンブンと頭を大きく縦にふる。
「勇者様の言うとおりです!」
「噂程度とはいえご活躍を聞いていたにも関わらず、我々はフィーリッシュ隊ちょ──いえ、その変態が異端者と言った言葉に疑わず、理由も聞かずに貴方方に刃を向けてしまいました!」
「事情を聞かなかった私達を許せとは言いません」
「ですがどうか、罪滅ぼしとして勇者様方の手助けとなるようなことがあればなんなりとお申し付けください!」
どうかこの通り、と再びきれいな土下座をキメる騎士達一同。
ルイ達3人は、互い顔を見合わせると、困ったように眉をひそめる。
「旦那様!私に妙案があります!」
「勇者様!わたくしに妙案があります!」
3人が騎士達の処遇を決めかねる中、不意に声をハモらせて、言い争いを辞めルイの方へと身を乗り出したユナとクリア。
2人は一瞬互いの顔を見合わせると、再びルイの方へと視線を戻す。
「旦那様、口ではなんとでも言えるはずです、ここは穏便に全員を口封じすることが先決かと!」
「いえいえ勇者様、これでもこの街を守る大切な戦力なのです、頭数を減らすわけにはいきません。なのでこちらの方々についてはわたくしに一任していただけないでしょうか?心配せずとも必ず勇者様にとっても良い結果となることは約束いたします!このフィ─変態は消し炭のように処分しても構いませんがどうか、わたくしの力を見極める意味合いも含めて、この哀れな騎士の方々の処遇はわたくしにお任せいただけないしでしょうか…?」
無駄に豪華な鎧の男を頭をヒールで踏みながら、上目遣いでルイを見つめるクリア。
背後で青ざめる騎士達を他所に、ルイは懇願するようなユナを一瞥すると、唸りながらもその口を開ける。
「それじゃあ、よろしく頼むよ。聖j──」
「クリアです!」
「──クリア、さん」
「はい!任されましたわ!愛しの勇者様!」
男の頭に乗せたヒールを捻るように踵を返し、満遍の笑みで騎士達の元へ向かうクリア。
信じられないものを見るようなユナのその表情を前に、ルイはヒクヒクと口角を上げると、そっと彼女から目を逸らした。
※純白の騎士達は純粋なので、口止めと言ったユナの言葉を文字通りの意味で捉えてます。顔面蒼白なのは全部クリアのせいです。




