賑わいがあるよね…
お待たせしました、39話です。
今回もとても短めです。
飛び交う笑い声と木製ジョッキの当たる鈍い音。
扉を開け、プラソンとシリアスが目にしたのは宴会のようにはしゃぐ冒険者達の姿だった。
「お!勇者様のお仲間が目を覚ましたぞ!」
「あのお二人が勇者様が来るまで魔物の群れを相手に時間を稼いでくださったんだ!」
「流石勇者様の仲間だぜ!」
「よっ!本日の功労者!」
どのからともなく響き渡る酔っ払い共のそんな声。
流れるようにジョッキを渡されたプラソンとシリアスは、状況を理解できぬまま、冒険者達によってステージの上に立たされる。
「えっと…プラソン、これってどういう…」
「いや、俺に聞くなよシリアス…俺もさっぱりわからん」
互いに顔を合わせ、確認するように言葉をかわす2人。
そんな心境などつゆ知らず、酔っ払いの冒険者達は口々に2人を称えると、次々と持っているジョッキを掲げるのだった。
ーーー
「ふぅ…」
「なんとか抜けられましたね」
プラソンとシリアスがもみくちやにされるのと同時刻、ギルド前で息をつくルイとユナ。
盛り上がる冒険者達の声を背に、抜け出した2人は顔を合わせると、夜の街へ歩き出す。
「──でも、よかったのですか?」
「ん?何が?」
「その、魔物を倒したのは旦那様なのに…」
「あー…そゆことね。いいのいいの。僕らがたどり着くまで持ちこたえてたのは事実だし、2人が襲われる理由を作ったのは僕だしね」
「でも──」
反論しようと言いかけて、口を閉じるユナ。
そんな彼女を目に、ルイは優しく微笑み返す。
「旦那様がそう言うなら…」
「ありがと、ユナ」
自分に言い聞かせて、納得したように顔を上げるユナ。
ルイは短く返すと、彼女に続いて前を向く。
どちらともなく手を繋ぎ、無言のまま目当ての宿を目指して街を進む。
「…」
「…」
怪しい色のライトに照らされ、どこからともなく流れる淫猥な雰囲気。
先の冒険者とは違った賑わいをみせる夜の街は、2人の沈黙を加速させる。
「…だ、旦那様」
「…うん、早くいこうか…?」
「はい…」
周囲のカップルを他所に、いたたまれなくなった2人は、その歩く脚を早める。
──そう、ここに来てようやく2人は察したのだ。自分達の歩く街が、王宮では話にしか聞かなかったそういう場所なのだということに。
目的の宿を前にして、2人はその場で足を止める。
昼には良いと思っていた宿も、今となっては違って見える。
「…だ、旦那様」
「…うん、やめとこうか…?」
「はい…」
短く言葉をかわして、2人はギルドへ戻ろうと振り返る。
「ん…?」
「旦那様?」
不意にルイの感知した、見覚えのある強大な魔物の気配。
「ちょっとまずいかも…」
「ぇ?」
「ちょっとごめんよユナ」
「──!?旦那様!?旦那様!?!?」
事態を掴めていないユナを前に、彼は隣に立つユナを抱き上げると、お姫様抱っこ状態のまま全速力で郊外へ繋がる路地へと駆け出した。
尚、プラソンとシリアスは既にルイとユナがギルドからいなくなっていることに気付いていない模様。




