これが女神様の…
16話、投下します。
私は女神…そう、あの有名な女神、エスポワール。
数百年前に現れた魔王を討伐するため、多くの『勇者』に認められた者達に加護を授けていたのだけれど…
「女神様。あの悪しき父親を倒す為に、どうかその加護を僕に分けてください」
久方ぶりに現れた『勇者』に私は戸惑いを隠せないでいた。
そう、なぜならこの目の前にいる青年はあろうことか私のはった結界を無視し、この神殿に侵入した『魔物』だったからだ。
ーーー
ルイは目の前に現れた女神エスポワールに目を奪われていた。
理由は単純。ただただその姿が美しかったのだ。まぁルイにとってユナには劣るが。
エスポワールはしばらく取り乱していると、咳払いをして改めてルイのほうへと向き直った。
『えっと…一つ聞いていいかな⁇』
「…はい?なんでしょうか⁇」
『あのさ、どうやってこの神殿に入ってこれたの?私、魔物が入れないように結界をはってたんだけど…』
「えっ…あれハリボテじゃなかったんですか⁉︎僕もユナも特に何事もなく入れましたけど…」
『は、ハリボテ⁉︎』
そんな純粋に驚くルイを前に、エスポワールの中で何か大事な尊厳のようなものが砕ける音がした。
「そんなことよりも‼︎僕に貴女の加護を分けてくれませんか⁉︎どうしてもあの口うるさくて上から目線で怒りっぽくて平気で毎日のように僕に暴力を振ってくるようなあの悪しき父親を倒したいんです‼︎」
『…えっ⁇…えっ⁉︎』
早口で捲し立てるルイを前にエスポワールは再び困惑した声を上げると、自らを落ち着かせるように一度、深く深呼吸をした。
(落ち着け、落ち着け私…何?なんなのこの魔物は⁉︎神である私が知らない魔王の情報も知ってるみたいだし、一体何者だって言うの⁉︎)
「あの、聞いていましたか…?」
『あっ⁉︎いや、大丈夫大丈夫。ちゃんと聞いてたよ』
不安そうにそう聞くルイに、エスポワールは咄嗟にそう返す。
ルイはあからさまにホッとすると、まるでエスポワールの次の言葉を待っているかのように静かに待機していた。
(マズイ…この魔物、私が役目を終えるまで本気で帰ってくれなさそう…いや、待てよ?冷静になれ私。目の前にいる青年は仮にも魔物。魔物に聖属性の魔法などは確か弱点だったはず…ということは聖属性である私の力で浄化できるのでは…⁉︎)
『ご、ゴホン。んん…貴方のその望み、叶えてあげましょう』
「あ、いえ…望みではないんですけど…」
『そ、そういうことはどうでもいいのよ‼︎《ピュリフィケイション》ッ!!』
ルイが言い終えるより早く、エスポワールは神のみが使える聖属性最強魔法・《ピュリフィケイション》を唱えた。その瞬間、ルイの周りを眩い光が包み込んだ。
「お、おぉ…‼︎これが女神様の力…‼︎」
『そう、この魔法を受ければどんな魔物の一瞬で消滅して…』
「どんどん身体に力が流れ込んでくる…‼︎」
『えっ⁉︎』
光の中から聞こえるルイの言葉に、エスポワールはしばらくの間開いた口が塞がらなかった。
聖属性最強の魔法──《ピュリフィケイション》
神のみが使用でき、どんな魔物を一撃消滅させることができる。
強大すぎる為、上位の神でもそう連発はできない。