これは女神様も…
ルイが恐る恐る固まっている2人の顔を覗き込もうとすると、硬直状態のとけたプラソンが不意に大声をあげた。
「すっげー‼︎なんだあれ‼︎今のどうやってやったんだ⁉︎」
プラソンは幹部を粉々にした石を拾い上げると、興奮した様子でそれを見渡した。
「うーん…どっからどう見てもただの石だな‼︎こんなんで幹部クラスを一撃なんて…」
ルイはそんなプラソンと目が合うと、一瞬にして自身の心臓の音がとても大きくなったような感覚に襲われた。
(やばい…流石に僕が魔物ってことがバレて…)
「これが勇者の力ってやつか‼︎さすが俺の親友‼︎勇者ルイ‼︎」
「えっ…あ、うん。ありがとぅ…」
何か盛大に勘違いしたプラソンを前にルイはそっと胸を撫で下ろすと、安心した表情でユナの方を向いた。
「旦那様、それと…プラソン様。もう夜になりますから声は抑えてください。近所迷惑になってしまいます」
「えっ…なんで僕まで…」
「旦那様といえど一緒にいれば同罪ですよ」
「えぇ…」
そんなユナの言葉にルイが拗ねるようにそう言うと、いつのまにか硬直状態から戻っていたシリアスが口を開いた。
「とりあえず、神殿に入ろ?魔物の脅威も無くなったし」
シリアスのその何気ない一言にルイとユナは再び脂汗を浮かべるのだった。
頑なに行くまいとするルイとユナは、2人に引きずられるようにして路地を出ると神殿の入り口付近にある結界を前に立ち止まっていた。
「ユナ、これ…大丈夫かな?僕ら魔物だから入れないんじゃ…」
「それは私も同じですし…もし入れなかった場合、あの2人には悪いですが私と旦那様の2人でこの町を離れましょう。そして、誰もいないどこか遠くの町でひっそりと暮らすんです。それから…」
「わかった、わかったから‼︎」
ルイは長くなりそうなユナの話を遮ると、その手を握った。
「だ、旦那様…⁉︎」
「とりあえずプラソン達みたいに堂々と入ろう。…あの幹部は入れなかったみたいだけど僕らなら案外すんなり入らたりし、て…」
ルイがそう言いながら前に進むと、目の前にある結界はまるで何も無かったかのように2人は結界の中へと侵入できた。
『…』
完全に神殿内部に足を踏み入れた2人はその場に立ち止まると、結界とお互いの顔を交互に見た。
「…この結界、ハリボテか何かだったのでしょうか?」
「さぁ…?ま、まぁとにかく、僕らは目的を達成できるってことだよね」
2人はお互いにそう言い合うと、結界に背を向けて女神様のいる神殿の中へと向かった。
ーーー
「女神様。あの悪しき父親を倒す為に、どうかその加護を僕に分けてください」
神殿最深部にある女神像の前。
ルイはユナ達3人が見守る中、祈るようその手を合わせた。
しばらくすると、まるでルイの周りだけを囲むように光が差すと、ルイの前に美しい女性が現れた。
『よくぞ参りました勇者様。私は女神エスポワール。勇敢なる貴方に女神の加護を…えっ?えっ⁇なんで⁉︎なんで魔物がここに⁉︎私結界はったはずなのになんで⁉︎』
女性──否、女神エスポワールは手を合わせるルイを視界に捉えると、混乱した様子で取り乱した。
そりゃ魔物を入れないようにする結界の中に魔物がいたら驚くわな。
ちなみに『エスポワール』はフランス語で『希望』を意味するみたいです。