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岡田君


 年が明けた。

ユウは相変わらず、年末からの日雇いのバイトに精を出していた。

大晦日も元旦も仕事だった。

休んだのは2日の日だけ、(その日は現場自体がお休みだったのだ。)それ以外はずっと過酷な肉体労働。最初は二日遅れでやってくる筋肉痛に肉体の老いを感じたが、体が慣れてくればそれほどきつくなくなった。それは初日の馬鹿みたいなペースでやることがなくなったからかもしれないが、ユウの体が日に日に逞しくなっていくのは確かだった。

見た目にも少し締まったように見えた。


そんなわけで、あっけなく新しい年を迎えてしまった。

一年を省みて感慨深い思いにふけることも、正月の気分を味わうこともなくただただ荷物を押した。


ユウの生活は相変わらずだったが、日払いが貰えるおかげで、少しは余裕が出てきた。

靴や冬用の洋服も買えたし、食事も一日三食しっかりと食べることができた。

ユウは以前夜働いていたときにいた健康ランドに戻り、ゆっくりと風呂につかり、足を伸ばして寝ることもできた。

日払いの中から毎日サウナの出費は痛かったが、疲れた体を癒すのにいくら激安だからといって狭い漫画喫茶で体を折り曲げて寝ることを考えれば、致し方ないことだと納得していた。

お陰で最近大田とは会っていない。

せっかく大田に返すお金のめどができたのに、肝心の太田がどこにいるのかわからない。

ユウがこの日雇いのバイトを始めてからというもの、大田とは連絡が取れなくなっていた。

年が明けてから何度か連絡はしたのだが、携帯はつながらないし、メールの返信もなかった。

炊き出しに行くといってから、なんか仲間みたいのができたようなことを言っていたが、大丈夫だろうか?よからぬことに巻き込まれていなければいいが。

ユウは少し大田が心配だった。


「おはようございます。」

ユウが出勤すると、例の顔に傷のある男が挨拶してきた。

「ああ、おはようっす。」


あれから彼とは毎日顔をあわせてる。

彼は岡田君と言って、まだ19歳の青年だった。ユウとは10歳以上年が離れている。

今ではこうして毎日挨拶をして、軽い世間話くらいはするような仲になっていた。

彼もユウと同じ日に入ったということで、ユウに親近感がわいたのかもしれない。


「正月も5日を過ぎるとだいぶ落ち着いてきましたね。」

「そうだね。」

ユウは早速喫煙スペースでタバコに火をつける。


「一昨日あたりから急に荷物減りましたよね。トラックの台数も減ったし。」

確かに彼の言うように、一昨日から急に目に見えて荷物が減っていた。

初売りの年末年始の需要が終わったのかもしれない。レールの周りにも少し人が浮いているようにも思えた。

「ああ、もうすぐ俺たち用済みになるかもしれないね。」


「えっ。やっぱり日雇いってそんなもんなんですか?せっかくここのペースにも慣れてきたのに。」

「まあ、決まった訳じゃないけど、俺の予想では今日あたり話があるんじゃないかな。」

ユウは長年の経験からわかっていた。年末年始に日払いで雇われるなんて、所詮臨時の作業員。次々と別の現場をたらいまわしにされていたからこそ、その職場の雰囲気でなんとなくわかるのだ。


「そうなんですか。」

岡田は少しがっかりしたように、目線を下に落とした。

ユウは黙って仕事前の一服を吸った。


この男顔の傷のせいか、ユウの勝手な思い込みで刑務所帰りだと決め付けていたが、それがあながち間違いでもなく、刑務所だか少年院だか鑑別だかよくわからないが、出てきたばかりだと言う。今は三畳一間の風呂なしのアパートを借りて住んでいるという。

彼は家がボロいのを気にしていたが、部屋があるだけユウよりましだ。

岡田君は普通に接している分にはまったく出てきたばかりには思えない。見た目こそあれだが、礼儀ただしいし、話すこともそこら辺にいる普通の若者のようだった。

この青年は一体どんなことをやったのだろうか。


ユウは岡田君と一緒にその日の持ち場へ向かった。

淡々と繰り返される仕分け作業。

ここでは仕事中に私語を話す人間はいない。

ただ、黙って自分の与えられた作業をするだけだ。

その日はいつにもまして、荷物が少なく少し手持ち無沙汰になりながらも、ユウは少しずつ丁寧に仕事をこなした。


その日の帰り際、岡田君がなにやらはにかんだような笑い顔で、ユウに近づいてきた。

「田中さんの言っていたこと、あたりましたよ。」

「!?」


「今日の休憩時間中に派遣元から連絡があったんです。どうやら、俺ここ明日までみたいで。」

「ああ、そうなんだ。」

ユウのところにはまだ連絡は来ていなかった。


「田中さんは…?」

「お、俺?俺のところはまだきてないな。」


「そうなんですか。」

岡田は再びがっかりした様子で、目線を下に落とした。

一瞬なんと言って良いかわからなかった。

「いや、でもすぐだと思うよ。もう明日か明後日には。」

ユウは慰めにもならないようなことを言った。


「そうですか。で、次どうするんですか?何かあるんですか?」

「うーん。俺はちゃんと就職しようと思っていて、そろそろ会社も始まっているし、面接行くのにも丁度いいかなって思ってるから。」


「あっ。そうでしたね。そういえば、前に言ってましたよね。つなぎだって。」

「……。」

(何なんだこいつ。俺と話したいのか。)


「ところで、この後ちょっと時間あります?」

「えっ。何で。」


「いや、その…。短い間だったけど、田中さんには世話になったし飯でも食おうかと思って。それにこういう仕事の先輩に仕事の相談にも乗ってもらいたいって言うか…。」

岡田は恥ずかしそうに、まるで中学生が初めて好きな子をデートに誘うかのようなことを、頭の後ろを漫画みたいに掻きながら言った。

ユウは正直、少年院出たての、この男と関わりたくなかった。

でも先輩という言葉が、ユウの心に引っかかった。

今まで後輩に慕われたことなんてないユウにとって、自分を慕ってくれる岡田の悪意のない人なつっこさを無碍にして、断ることはできなかった。

それに彼は更正しシャバに出てきたばかりで、人恋しいのかも知れない。


「…えっ。世話なんて何もしてないぜ。でもいいよ。行こう飯。」

少し格好つけた言い方だった。


「そうですか。でもどこ行きますか?こんな時間だし、やっているところあります?ファミレス位しかないか。丁度そこの国道沿いをしばらく行った所に、ファミレスありましたよね。」


「ああ、そういえばあったなぁ。でも確か24じゃなかった気がする。」

ユウはいつも帰る時にその国道沿いをひたすら歩いて駅まで行くのだ。もし開いていれば気がつかないはずはない。


「えっ。そうでしたっけ?いつも来るときは開いているからな。そのイメージしかないや。そっかぁ、あそこが開いていないとなると、あとはすきやか松屋ぐらいしかないですね。」

「牛丼やじゃちょっと話はしにくいね。長居ができないし。」


「田中さんどっかないですか?いつも帰りとかは飯はやっぱり立ちそばとかですか。」

「そうだね。あとコンビにで買って歩きながら食べたり。」

二人は寒さに肩をすぼめて、話しながら自然と国道沿いを歩き出していた。

ユウは歩きながら仕方ない少し遠いけどあそこに行くかと考えていた。










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