大人の童話 ある障害者の思い
初めて投稿します。
短編小説です。
恋愛ものですが、老若男女楽しめる物語です。
素敵な恋愛ファンタジーの世界を満喫してください
ある会社の食堂。お昼が過ぎて、人ごみが多い。賑やかにおしゃべりしながら、昼食を食べている中で、ひとり窓際でほとんど手に付けていない昼食を前に、ぼんやりとしている女性がいる。大同高子二十六歳。この会社の経理課で働いている。
一人、昼食のプレートを手に高子に近づく。坂本高子二十六歳同じ同期生、総務部で働いている。さみしげな高子を見つけて席につく。
洋子 どうしたの高子。何落ち込んでいるの、しっかりしなさい。
高子 ・・・洋子ね。洋子はいいな、いい人がいて私なんかもう最悪、どうしたらいいのか分からない。
洋子 何言っているの、あなたこそ会長と友人関係で大同建設の一人娘が、この会社に 花嫁修業で勤めているくせに!贅沢よ!
高子 私自身がよく分からないの?
洋子 何があったの、話してくれない。
高子 うん、実は半年前に会長の叔父様から、孫の健二君とお付き合いしないかと言われたの。
洋子 会長の孫の健二君と言えば、営業二課のイケメンで、かなりやり手と聞いているよ。
いずれは、この会社の跡取り候補でしょ、すごい!
高子 私も、健二君は良く知っているし、幼い時から知っていていい人よ。父に相談したら、もう、話は知っていて父親同士はこの話に夢中なの。
洋子 全然問題ないじゃないの。
高子 ところが、三か月前から、ある人のことが忘れられないの。
洋子 え!身体許したの・・・。
高子 バカ、そんなんじゃない。そんなんじゃないの。私も良く自分のことが分からないの。
洋子 どうも話がつかめないな、相手はいるんでしょ?
高子は恥ずかしそうに「うん」と顔を赤らめて、下にうつむいた。
洋子 こら、白状しなさい。誰なの相手は?
高子 ・・・。▽□○。山田幸一君。
洋子 幸一・幸一君と・・・。え~~。 あの伝説の山田幸一君ね、5年前、彼は営業一課にいてすごく輝いていた人。いずれは、重役か副社長まで行くだろうと噂されていたけど、はっきりとした原因は知らないけど、なんでも、この会社の三分の一ぐらい受注がある、大手の取引先の社長とやりあって、相手はカンカン結果取引すべて中止。社長も怒って、即、首にしようとしたら、服毒自殺未遂で声が出なくなった人で、会社を首になることだけは、情けで窓際族。施設管理の下走りしている人でしょう。
高子 うん。
洋子 交際しているの?
高子 していない。二度ほど挨拶しただけ。
洋子 え~~信じられない。交際もしていないのにどうして好きになったの、あの人先日も私とすれ違ったよ。別段気に留める人には見えないけど、みんなは「落伍者」と呼んでいるのよ。高子もっと詳しく話してくれない、どうして好きになったの。健二君はどうするの?
高子 洋子も知っていると思うけど、私のお母さん、私を産んで産後のひだちが悪く、すぐ天国へ行ったの。お父さんはお母さんを忘れられずに後妻を取らずに、私は、お手伝いのばあやに育てられたの、ばあやは今では、私のお母さんみたいな存在かな。
三か月前にある夢を見たの、「私の高子・・・。まあ、あんなに小さかったのに、もうこんなに綺麗なお嬢さん。私、あなたを育てたかった。でも、しかたなかったの、私が悪いのですものね。私の高子、これだけは忘れないでね。人はね、自然の中で生きているの、自然とは宇宙、大自然の法則、すべての調和なの、色々な楽器が奏でる音を調和する、ハーモニーと言ってもいい。
そして、人間が自然の法則を見習った調和の形とは、互いに迷惑を掛けない、個人の自由と人格を尊重する。感謝を忘れず、必要であれば悪びれずに謝罪する。つねに誠意と義務と責任感を持って対し、互いの和を図る。必要があれば進んで助け合う。そしてお互いの望むところ、喜ぶところのものを賢明に判断して与え、為す。それが人間としての宇宙や自然に習った調和の形であり、“愛”という捉え難い言葉であり、観念を正しく表現したものなのですよ・・・。」
高子 あなたは誰なの、あなたは・・・もしかして、お母さんなのね、お母さん、待ってなぜ私を一人にしたの?お母さん・・・。
私が見た夢はすごいリアルだった。目が醒めて、思い出したの、あれは私のお母さん。私の知っているお母さんよ。写真とは違い若く見えるけど・・・、間違いない私のお母さんだった。しばらく本物のお母さんが近くにいるようで、抱かれているようで、お母さんのいい匂いいつまでもいつまでも抱かれていたかった・・・。
高子はしばらく泣いていた、静かに母親に甘えるように、泣いていた。洋子ももらい泣きして、こんどは、力強く高子を抱きしめた。
高子 夢から覚めて寝付かれないから、お散歩したの、どこか自然の美しい所へ行きたくなって、高尾山に行こうと思い立ち、朝、夜明け前から出かけて高尾山に向かった。高尾山の山頂近くで、珍しい不思議な鳥の鳴き声がするの、たくさんの鳥たちが集まっているところがあり、誰かが餌をあげていると思い、近くに行くと幸一君がいたの、彼話せないから、無言でしばらく一緒にいた・・・。
洋子 それから、それから、もちろん恋が芽生えたのね。
高子 それが、私にも良く分からないの、彼の目を見た時、透き通った美しい目、暖かく見守る眼、なんて綺麗なんでしょう。いままで、これほど美しい瞳は見たことはない。しばらく彼の目を見つめた。それだけなの。
洋子 え!それで下山したの?それだけ!
高子 うん、でも次の日から、彼の目が心に焼き付いて離れないの、そして、私あの人のお嫁さんになると決めているの。幸一君との交際も断った。でも、お父さん納得いかない。今お父さんと喧嘩している。好きな人、結婚する人、決めているのと言い張ったら、分かった連れて来なさいと言われたけど、・・・。
洋子 まさか、幸一君と結婚の約束していないのに、お父さんに言ったの?でも交際しているんでしょ?
高子 していない。一度幸一君の家へ行ったけど、留守だったからお土産置いて帰ったの。もう一度は、会社ですれ違いあいさつした、それだけ。
洋子 ・・・。
洋子はそれ以上何も答えられなかった。
高子の父親は落ち着かない。やっとのことで、高子の好きな相手、それもその人と結婚するという彼の名前を聞き出した。聞き出したが、聞き出したものの、幸一君は問題のある人であると親友の会長から説明を受けた。
父 ばあや、相談なんだが、高子の好きな人それも本人は本気だ。私に似て頑固、普通の人なら許しはするが、相手が相手だからなあ・・・。
ばあや 高子お嬢様は賢明な方ですよ、ばあやが保障します。高子お嬢様の判断はまちがいありません。
その夜父親は夢を見た「・・・あなた、私のことは心配しないでください。天国で幸せにくらしています。高子の願いを聞き入れてください。お願い。高子は幸せになります。無理なお願いだと思いますが、高子の望みを叶えて上げて・・・・」
父 康子待ってくれ、待ってくれ・・・。
父は茫然となった。あの康子だ、遠く彼方へ行った康子だ、懐かしい、懐かしさのあまり、涙が留まることなく流れ落ちる。
この感覚、妻を思い出す。近くにいるのだろう、暖かく包み込まれている・・・。もう何も心配しない、誰に笑われても、跡取りが居なくても、そう思った。
数日後、幸一は高子の実家に呼ばれた。幸一は応接間に通され、父とあいさつした。好青年ではないか目が綺麗だ。いままで、多くの人の目を見てきたが、これほど美しい目は見たことはないと思った。
父 幸一君、高子は君に嫁入りしたいと言っている。私からも頭を下げるから高子を嫁にしてくれないか?
幸一はしばらく考えて、伝言版に書きだした。
幸一 私のような身障者でも、いいのですか。
父は、ドキッとした。そうだ、印象は好青年だが話せないのだ、・・・。
父 頼む、君のことはよく理解している。それでも、良いから高子を嫁にしてほしい。
幸一 伝言版に書く、ありがとうございます。私のようなところへ嫁にきてもらえる。大変嬉しいです。
しばらく、沈黙が続く。
幸一 わたしも高子さんのことは好きです。しかし、しばらく待ってくれませんか。
、
父は戸惑った、怒りが少しこみ上げる。これほど、頭を下げているのに、待ってくれとはどういう意味だ。しかし、幸一はしばらく待ってくれと言うばかりだった。
それから、二、三か月たっただろうか、世の中が騒然となった。世の中と言っても音楽界だ。不思議な音楽が何処ともなく現れ、ヒットしていく。すごい勢いだ。今までにCDの売れ行きが記録を更新している。世界的なヒットだ。
うわさ人 ねえ、聞いたあの曲。
うわさ人 聞いたわ、CDちゃんと買っている。それにしても不思議な曲、声楽でもなく、いままで聞いたこともない楽器。それも誰が奏でているか誰も知らない。本人がけして、名乗ろうともしない。それにしても、今まで、モーツァルトが天国の音楽と言われていたけど、この曲すごいのよ。この曲、奏でると私が飼っているカナリアが一緒になって歌うの。とても素晴らしいハーモニー。
こんな話が持ちきりだった。
ある日、高子の実家に招待状が届いた。“高尾山コンサート”前代未聞のコンサートだ、それも、どんなにお金を積んでも、席を取れないと言われている特等席だ。それを幸一が送ってきたのだった・・・。
そう、あの幻の曲のコンサート。コンサートが発表されるや、そのチケットを購入するために、厳格な抽選が行われた、高尾山コンサート参加できる人数五万人だ。抽選総数は約百万人。それも野外コンサート、噂がうわさを呼び、世界各国からも問い合わせがあり、話題になっている。
どうして、このようなチケットを購入できたのだろうと、招待を受けた、数人の人たちは疑っていた。
緑の美しい山林で、頂上付近に広い空地があり、そこに野外コンサート会場がある。ドーム型の建物と約三千名の椅子がある野外会場だ。後は立席と座って見れる場所。コンサートの開催される日はとてもさわやかで天気が良く、野外で音楽を聴くのは最高に日になった。開演は午後一時で、三時間前から入山を許可され、ぞろぞろ人々が会場へ足を運んだ。
高子 すごい、特等席よ。一番前!
父 ・・・。
父親は幸一君が何故高子を嫁にしてほしいとあれほど、頭を下げたのに、いままで人にあれほど頭を下げたことはないのに、何故幸一君は少し待ってくれと言ったのか?いくら考えても、答えはでなかった。高子は幸一から、コンサートの招待を受け、幸一もここに、いつ来るのだろうと、心待ちにしていた。
開演一時五分前の予冷ベルが鳴る。会場がざわめいている。司会らしい人が現れ、開演を宣言する。最近話題になり、演奏者が今まで名乗りを挙げずにいたこと。今日初めて人前に姿を見せることを告げる。
司会 それでは、紹介します。世紀の音楽家、山田幸一
舞台右から、幸一君が現れた。
高子は目を見開いて、幸一君を見つめている。嬉しさを通り越して、体が身震いをした。多くのマスコミ、世界同時中継。フラッシュが絶え間なく、光る。光る。
高子は人生の中でこれほど驚いたことは、二度となかった。幸一の姿を目に心に焼き付けている。どんな機械的な映像より、正確に記憶しているのだ。父親も、唖然として、握りこぶしに力が入っている。フラッシュが止み、オーケストラの前奏曲が流れる。
幸一が演奏を始める、いや、楽器はない。歌っているのだ。声楽だ。人の話す言葉ではない。目を閉じれば、楽器に聞こえる。不思議な音だ・・・。
ある時は強く、ある時は優しく、テンポ良く、なめらかに、激しく、聞く人すべて曲に吸い込まれていく。しばらくすると、不思議な現象が目に入る。鳥が集まってきている。それも、歌いながら、曲の中に鳥の鳴き声が、入り込んでいく。素晴らしいハーモニー。・・・調和。
どのぐらい時間がたっただろうか?幸一君の演奏は終わっている。しかし、鳥の鳴き声が止んでいないのだ。観衆は、拍手を忘れ、鳥の鳴き声に耳を澄ましている。小さな男の子が拍手を始めた。
観衆は我に返り、割れんばかりの拍手の波が押し寄せる。司会が花束の授与を宣言する。
高子 え~~私が花束を渡すの・・・?
スタッフが高子に頼んでいる。高子は余りのサブライズに驚き、喜んだ。
司会 それでは、紹介します。大同高子さんです。彼女は山田幸一さんの婚約者です。
高子 え!
花束を落としそうになった。
紹介され舞台に上がるが、もうそれから、どうなったかあれほど幸一君の演奏を完璧に記憶したのに、舞台での記憶がまったく覚えていない。幸一が私のほっぺにキスをして、肩を優しく抱き寄せてくれたことは、おぼろげながら覚えている。高子のほほに優しい涙が溢れ流れ落ちる。
父親もばあやも、涙が留めなく流れて、涙をふくことをしなかった。流れるままに、喜びにひたっていたのだ。もちろん、洋子も隆志も叔父も招待されていて、幸せな二人に暖かい拍手を送っていた。
数日後、施設管理の部長が困った様子で、・・・
部長 幸一君、こまるんだよ。君に出社されたら、見給えこの修理の多さ、君がこの施設管理部に在籍していると、君のことを報道されたから、今までの君の仕事がやたらに増えているんだ。そればかりではない。会社の玄関に君を人目見ようと、人だかりがあるんだ。どちらにしても、有名人になったから、社長に相談してほしい。豪快に大笑いをしていた。
数か月後、おごそかに結婚式がとり行われた。コンサートの時と違って、少ない人数での結婚式。紫色のウエディングドレス。幸せなふたり、二人は父親の会社で新しい部門を立ち上げ、人びとの幸せのために「愛」をありがとうという会社を立ち上げ、二人して、スタートを切ることになっている。
式もおわり、夜遅くになって、二人きりになった。幸一は文字版を取り出して、
幸一「高子、君だけに知ってほしいことがある。聞いてほしい。」と書いた。
「私は五年前、営業で大失敗した。取引先の社長の不正な取引に喧嘩になり、取引がすべて無くなってしまった。不正な取引に目を瞑れば良かったかもしれないが、私にはできなかった。社長は不正な取引を私が郊外すると思い。ひそかに私に毒を盛られた。命は取り留めたものの、このざまだ、どれほど、自分を恨み不正な社長を恨んだか。二・三年は、気持ちも整理つかない時、ある医者から、君の声は出る、ただし、よほど訓練に耐えないとうまくいかないだろう。声のリハビリは大変苦しいものになる。それでも、やってみるか?と言われ、希望が見えたんだ。
それから、休みには高尾山に登り、医者の言う通りにリハビリをしたのさ。血の吐くような訓練を続けた。ある日、声らしいものが出るようになった。嬉しさのあまり、喜んだ。でも、それもつかの間声は出るけど、人と話せる言語は無理と分かったんだ。悲しみのあまり、叫んでいたら、その声に反応するかのように鳥が悲しそうに鳴くんだ。それからというもの、鳥と話が出来るようになり、寂しくなくなった。人の目が気にしなくなり、このままでいい。そんな満ち足りた日々と思っていた。
ある日、高子が高尾山に来たね。私はこの人と一緒になれたらと、かすかに「夢」を抱くようになったんだ。
それから突然、君のお父さんに呼ばれて、高子を貰ってほしいと言われた時、嬉しさと悲しみが同時に私の心を占めた。私のように身障者に嫁に来てくれる。世間の笑いものになるだろう。お父さんも、高子も世間から、形見の狭い思いは一生続くだろう。そう思うと、人前にけして出さないと決めていた。鳥との歌を披露することにした。どこか、卑屈になっていたのだろう。これで十分と思っていたが、やはり、身障者ということで、人の幸せを考えない人間になっていた。
ありがとう、高子が私を「愛」してくれたこと、本当にありがとう。わたしは今とても、幸せだ。こんどは私が高子を愛する番だ」
高子は目頭が熱くなり、前が見えなくなっていく、幸一が手を広げる。高子は幸一の胸に身体を沈めた。
おわり
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今日も素敵な一日でありますように
敬具