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14話 戦い続けました(3)

 ギルグは元々、兵士ではなかった。


 「強くなるまでは帰らない」と、故郷であるエアツェーリングを飛び出したのは十代の頃だ。


 容姿の優美さに反し、ギルグは世界を旅し泥臭く生き抜いてきた。


 ギルドにも所属していたため名目上は冒険者でもあったが、当時のギルグは剣闘士や賞金稼ぎと呼んだ方が正確だろう。


 どこかの闘技場で大会があれば参加し、特に大会がない時は犯罪者を捕まえたり、たまには傭兵として他国の戦争に参加していた。


 平和だったエアツェーリングに所属する者の中で、間違いなく人間との戦いを最も経験した事がある人物だろう。


 充分な強さを手に入れ、そろそろ戻ろうかと考えだしたころ――故郷で戦争が始まったという報を聞いた。


 急いで戻った時には、すでに多くの被害が出た後だった。


 敵軍はイルナ砦へとたどり着いていて、エアツェーリングの兵とぶつかっていた。


 そうと知ったギルグは無我夢中で剣を振るった。


 これ以上は進ませまいと、手当たり次第に敵を殺す。


 だが、結果的に相手が死んだ事はあっても、ギルグは最初から人を殺そうとした事はなかった。


 大会では相手を殺す事が目的ではないし、指名手配犯を追う時も傭兵として他国の戦争に参加した際も、死んでも構わないと思う事はあっても殺そうとはしていない。


 最初から殺すつもりでいるのと結果的に死んでしまったのでは、ギルグの中で大きな差があった。


 敵兵を一人殺すごとに、ギルグの精神は消耗していく。


 これで国を守れる。ああ、また人を殺してしまった。


 何人も何人も殺していく内に、ようやくノイリアの兵を食い止めることに成功した。


 そして、これでやはり正解だったのだろう、と考えるようになっていた。


「敵を殺せば、国を守れる」


 そう考えてからは、人間を殺すことに躊躇はしなくなっていた。


「闘技場で相手を打ち負かす事と、何が違うのか」


 以前は相手を殺す事と闘技場で戦う事に大きく差を感じていた。


 だが今は、試合で戦う事も、戦争で人を殺す事も、どちらも同じように楽しむ事にした。

 ――正確には、楽しいと感じていると、自身に言い聞かせ騙してきた。


 楽しいと思い込まなければ、人殺しを続けられなかった。


 毎日毎日、戦いに明け暮れていると、その感情が嘘なのか本当なのか分からなくなっていった。


 心のどこかが壊れてしまったのを感じたが、それでもいいと今は考えている。



 イルナ砦での戦いで大きな功績を残したギルグは、それまで軍属ですら無かったのに攻撃部隊の大隊長を任された。


 当然、反発した者もいたが、そういった者達とは試合形式で戦い、そしてギルグは全員に勝利してみせた。


 先の戦いで攻撃部隊の大隊長や多くの兵が倒れた事もあり、今のエアツェーリングに一騎打ちでギルグに勝てる者はいない。


 実力を見せつけてからは反発する者は大きく減った。

 "攻撃"部隊の名前の通りこの隊では強さが全てであり、前線での戦いの経験はこの国の誰よりもあった。


 今まで通りのやり方では敵国を倒す事は難しい、という意識が広がっていった事も最終的には認められた理由のひとつだろう。


 似たような経緯で魔法部隊の大隊長も代わり、そして異世界から人柱を連れてくるという偉業を成し遂げた。


 今度は――今回も、イルナ砦を死守する事が自身の役割だ。


 ギルグはそう考え、また剣を突き立てた。



***



「うをぉおおおおお!!」


「ふっ」


 カルと名乗ったノイリアの将が雄叫びと共に剣を振るい、さっとギルグが軽いステップで避ける。


 激高した相手は行動が単調になりやすい。


 自身の冷静さを保つため、さらには相手を煽るためギルグはあえて笑みを深める。


「ぅふふ、それがあなたの全力ですか? こちらには掠りもしていませんが」


「ぐっ……クソがああぁあああ!!」


 目的通り、カルはさらに叫び、当たりもしない剣を振り回す。


 これが一対一の戦いならば、こうして相手を消耗させた所へとどめを刺す所だ。


 しかし、今は他の兵達もいる。


 カルの攻撃だけならば避ける事は造作も無いのだが、周囲の雑兵の攻撃までも凌ぐのは少しばかり面倒だった。


 特に、元からこの場にいた者ではなく、カルが連れて来た者達は他の兵よりも手練れだ。


 将であるカル自身が出てきた事も考えると、敵の中でも実力がある者が自身を狙ってやって来た事をギルグは理解していた。


(つまり、この者達を倒せば後は大した事なさそうですね)


 カル達はギルグを倒しエアツェーリング側の士気を落とそうとしているが、それはギルグがカルを倒した場合も同じだ。

 将が倒されれば軍の統率は失い、士気も大きく下がるだろう。


 だからこそ、ギルグもカル達を引きつけるように戦う。


「おおっと、俺っちも忘れるんじゃねえぞ!!」


 傭兵のオスカーが、大剣を薙ぐように振り回し、ギルグに剣を振り下ろそうとしていた兵の一部が弾き飛ばされる。


「ぅふふ、援護ありがとうございます」

「いいって事よ!!」

「その分、お給金に色をつけて貰えると嬉しいです!」


 ギルグが礼を言えば、オスカーが笑いオレイアが冗談めかして付け加える。


 前線に到着したばかりのカルは、ギルグの他にも警戒すべき相手がいるようだと知り、ギリギリと奥歯を噛みしめる。


「先にあの子供を捕まえろ!!」


 大男に守られるようにしている少女を指し、カルは大きな声を上げた。


 ノイリアの周囲の兵が動きだしオレイアへと向かっていく。


「ここは戦場だ!! 女子供だからといって、容赦はするな!!」


 指示を出すカルの隙をつき、ギルグは剣を突き出す。

 それは鎧の一部を掠めたがギリギリでカルは直撃を避けた。


 カルは剣を振るいながら、ギルグとオスカーの間に身体を入れるように脚を踏み出す。


 ギルグを足止めし、厄介な傭兵を確実に屠る事を優先させていた。


 オスカーはオレイアに向かってくる敵を振り払うが、全てを防ぎきるのは難しかった。

 剣を振り抜いた後、もう一撃与えるまでの隙を狙い、敵兵がオレイアへと手を伸ばす。

 

「ちょっと!! 甘く見ないでよねっ!!」


 オレイアは少女らしい高い声で怒鳴ったかと思うと、伸ばされた腕を真っ直ぐに蹴り上げる。


「あたしだって、傭兵なんだから!!」


 キレイな軌道を描いた足先に呆気にとられている敵兵に、オスカーは返す刃を振り下ろす。


「ガハハ、残念だったな! コイツも結構強いぞ!」

「すぐに周りが見えなくなっちゃうパパの世話がなければ、一人でも戦うんですけどねっ」


 向かって来た兵のほとんどを二人だけで倒されてしまい、カルは愕然とする。


 将の一人だけでも厄介なのに、傭兵の大男だけでも厄介なのに、少女の一人すら捕えられない。


 奥歯が砕けそうなほど噛みしめていたカルは、また大きな声で叫ぶ。



「『甘く見るな』は、こちらのセリフだ!!」


 カルはそう言うと、魔石を取り出した。

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