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13話 戦いがはじまりました(5)

「それならば、ひとつ頼まれてはくれませんか?」


 ギルグは手短にアムルへと要件を伝える。


「オレもそのつもりで来たから構わないが、少し手伝ってもらうぞ」


「ええ、構いませんよ。派手に行きましょう」


 アムルが浅く頷きながら答えると、言いたいことを察したのかギルグも頷き返した。


 敵も味方も声を張り上げながら剣や弓を振るう。

 その喧噪の中で、二人の会話を聞いていた者はいなかった。


「じゃあ、頼んだぞ。健闘を祈る」


「ぅふふ、そちらこそお願いいたします」


 アムルが軽く言うとギルグも軽く返し、目の前の敵を刺し貫く。

 刺した相手を他の敵へ放り投げるように押し退け剣を抜けば、アムルの行き先に道が生まれた。


 拓けた道を遠慮無くアムルは進み、邪魔する敵はまた斬りつける。


 すぐに人混みに紛れ姿が見えなくなった。


 それを見送ってから、今度はギルグが移動を始める。


 味方の間を縫っていくように進み、すぐに目的の人物の元へたどり着いた。


「ぅふふふ、先ほどから良い働きですね」


「おお、隊長さんか!!」


「お疲れ様ですっ隊長さん! ちゃんとお仕事してますよ!!」


 ギルグが声を掛けたのは、先ほどから大剣を振り回し敵をなぎ直している大男の傭兵だ。

 彼の娘らしい少女も、仕事先の人間に「サボってませんよ!」とあからさまにアピールする。


「ぅふふ、とても優秀な貴方達にお願いがあって参りました」


「ガハハ、俺っちに出来ることなら何でもやってやるぞ!」


「料金範囲内で、ですけどねっ!」


 言われれば何でもやってしまいそうな大男に対して、少女はたしなめるように言う。


 その様子に、ギルグはさらに笑みを深めた。


「大したことではありませんよ。ただ、私と一緒に派手に暴れ回って欲しいだけです」


 ギルグの言葉に、大男と少女は互いの顔を見合わせる。

 意図を察した二人は大きく頷いた。


「わっかりました! パパ、とびっきり派手にやっちゃお!」


「ガハハハ、そういうことなら任せとけ! 派手に目立ちまくってやるぞ!!」


 ためらうことなく、男は少女よりも大きな剣をぶんぶん振り回し近くの敵を弾き飛ばす。


「うをぉおおおおおぉおお!!」


 喧噪の中でも地響きが起きそうな大きな雄叫びを上げると、意味も無く勢いのまま地面へと叩きつけた。


 どぉん、という大きな音が鳴り響き、叩きつけられた地面が抉られ周囲に礫が飛ぶ。


 その音に周囲にいた者は敵味方を問わずそちらへと目を向ける。


 注目を浴びる中、ギルグは優美に舞うように戦場を駆けた。


 細剣を扱うギルグには、男のように大きな音を立てることが難しい。

 それでも人々の目を引きつけるため、大袈裟なほどに剣を振るい敵を刺突する。


 余計な動作が増えたことで、敵を減らす効率は悪くなっているが「敵兵の目を引きつける」という目的は十二分に達成出来ているようだ。


 男の働きに満足そうに笑みを浮かべながら、ギルグは問いかけた。


「ぅふふ、名前をまだ伺っていませんでしたね」


「俺っちか? 俺はオスカーってんだ」


「私はオレイアですっ! 傭兵がご入り用の際は、どうぞオスカー&オレイアにご用命を!!」


 男と少女の声が、軽やかに響いた。



***



 遠くで大きな音が聞こえ、敵兵の注意が集まっていくのをアムルは察した。


 敵の全員が向かっているわけではなく、冷静に周囲を伺っている者もいる。


 だが、アムルにとってそれでも充分だった。


 戦いの中心となっている場所を迂回し、敵陣を目指しアムルは駆け出す。


 周囲に誰もいない訳ではないのだが、アムルの姿には誰も気がつかなかった。



(上手くいってるみたいだな)


 実戦で使うのはこれが初めてだが、姿を消すために展開した魔法は成功しているようだ。


 以前、城にやって来た刺客のように「完全に姿を消す」という領域にはまで至っていない。

 それでも「こちらに注意が向いていない相手に気づかせない」という程度には効果が出ている。


 今回アムルが使っている魔法は単純だ。

 姿が見えなくなるよう、自身の周囲に映像を映しているだけだった。


 人混みの中ならば人混みを、森の中なら草木を。

 注意深く観察すれば簡単に見破られるだろうが、辺りと同じような光景を映すだけでも遠目にはわかりにくくなっている。


 いくら魔法が得意だと言っても、敵の一人一人に幻覚を見せることはアムルでも難しい。

 だが、自身の周囲にただ映像を流すだけならば造作も無い。


 ギルグ達が派手に暴れている間くらいは見つからないだろう。


(まあ、完成度は低いが)


 城へ来た刺客が姿を消す魔法を使っていたようだと聞いてから、アムルはずっとその方法が気になっていた。


 どうすれば再現することが出来るか考えていたが、今の所はこれが精一杯だ。


 魔法の仕組みも気になるところだが、今の目的は別の所にある。

 頭を切り替え、アムルは目指す場所を見た。


(あそこにいるのは間違いない……と思いたいな)


 敵陣の奥に、いかにもお偉方が駐留していそうな場所がある。


 そこにある気配のひとつが、国境都市ユノアでちらりと見かけた黒服の男の物だ。


 ユノアから去る際の気配は巧妙に隠されていたが、今は普通にその魔力を感じる事が出来る。


(おとりじゃないか気になるところだが……放っておく訳にもいかないか)


 魔力を隠すことが得意な相手があえて隠していない。

 単に油断しているだけならばいいが、罠だと考えた方が妥当だとも思える。


 しかし、アムルを含む魔法部隊の兵達が放った魔法を阻止したのも、恐らくはあの男だろう。

 放っておいたら、今度はこちらの物よりさらに強力な魔法で攻撃される可能性がある。


 それをされる前に、男を殺すか、せめて足止めをしなければならない。


 本来、身を隠し敵陣に侵入し要人を殺すという役割は、アムルよりも攻撃部隊の諜報部の者の方が専門だった。


 だが今回は敵も魔法使いだ。


 かなり優秀らしい相手が何か魔法を使おうとしたら止められるのはアムルだけだろう。


 ギルグはそう判断してアムルに依頼し、アムルも異論はなかった。


(さて、どうなることやら)


 エアツェーリングに捕まった二人のリンから聞いた話やユノアで邂逅した際のことを考えると、あの男はアムルよりも魔法技術が優れている可能性は高い。

 少なくとも、姿を消す魔法については、あちらの方が上だ。


 だがそれでも、やらない訳にはいかない。


 砦には、アムルが異世界から無理矢理連れてきてしまった友人が待っている。


 もしもここを突破されてしまえば、砦に居る人柱が殺され、一気に国ごと落とされる可能性すらある。



 アムルは、マモルや子供達のことを思い浮かべ、一層気を引き締めた。

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