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12話 戦場に向かいました(4)

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いいたします。

 馬車の中でのんびり雑談してたかと思ったら、急にアムルとギルグさんが同じ方向に顔を向けた。


 パッと見た限り、アムル達の視線の先には馬車の壁があるだけだ。

 でもきっと、壁のさらに先に何かがあると、この二人だけが気がついているんだろう。


「敵ですか?」


 アリアさんの旦那さんが、緊張した面持ちで言う。

 良かった。分かってないの俺だけじゃなかった。


「ぅふふ、そうですね。きっと邪魔をして本隊の到着を遅らせたいのでしょう」


「一台だけだから、この程度じゃ足止めにもならないだろうがな」


 ギルグさんとアムルだけが状況をはっきり理解した様子で、落ち着いて答える。

 旦那さんも状況はよく分かってなさそうだが、「この二人がそう言うなら大丈夫だろう」的な安心した様子を見せる。


 何しろここにいるのは、実力主義の軍の中でも特に偉い三人の内の二人だ。


 映像越しとはいえアムルが戦ってる所は何度か見たことあるから、アムルが強いことは俺も知っている。

 ギルグさんについては知らないが、「攻撃」部隊の偉い人ってことを考えると、打撃攻撃ではアムル以上に強くてもおかしくはない。


 本当に大丈夫そうだな、とちょっと気を緩めたところに、笛みたいな音が高らかに響いた。


「敵襲ー!!」


 アムルとギルグさんに遅れて部隊の人が敵に気づいたみたいだ。


 一体どうするつもりなのか俺が質問するまでもなく、アムルが馬車から身を乗り出し叫んだ。


「こちらで対処する! そのまま進め!!」


 朗々と通る声ではあったが、隊もそれなりに人数が多い。

 端まで声が聞こえるかな、と俺はちょっと心配になったが、指示通り隊は足が乱れることもなく進んでいく。


 叫んだアムルが引っ込むのと入れ替えに、今度はギルグさんが馬車から飛び出した。


「えっ、ちょっと!?」


 何する気なんだと俺が驚いていると、馬車を飛び降りたギルグさんが地面を蹴った。

 その飛び出した勢いのまま、前へと駆けていく。


 正直、この馬車は自動車と比べるとかなり遅い。

 とはいえ、走行中の馬車を飛び降りた事に驚いたし怪我してないか心配になったが、そんな事は関係ないとばかりにギルグさんは軽々と地面を蹴り、長い脚で大きな歩幅で草原を進んでいく。


(攻撃部隊って凄いんだな……いや、やろうと思えばアムルも出来るのか……?)


 俺が呆然としていると、斜め横から旦那さんの声が聞こえた。


「いた! あそこです!!」


 旦那さんが指した先には、こっちの部隊の奴とは明らかに違う、小さな馬車っぽいのが突っ込んでくる姿が見えた。


 小さな馬車には、手綱を持った一人と弓を構えた一人しか乗っていない。

 代わりにこっちの馬車とは比べものにならないくらいに速い!


 こんなことを考えている間にも、敵の馬車は隊への距離を詰めてくる。


 そろそろ向こうの矢がこっちに当たるんじゃないかと心配していると、敵の馬車から見て横の方から長身のギルグさんが迫っていった。


 敵は矢の先をギルグさんの方に向ける。


 馬車もギルグさんも走ったままじゃ当てるのは難しいんじゃないかと思ったが、真っ直ぐ飛んだ矢はギルグさんの方へと向かっていった。


「危な……っ」


 俺はハラハラとその様子を見ていたが、ギルグさんはひらりと躱した。


 さすがにこの距離だと表情までははっきりと見えないが、既に何度か聞いた「ぅふふ」なんて笑いを漏らしてるんだろうなあ、と想像はつく。


 賞賛すればいいのか呆れればいいのかちょっと迷っていると、既にギルグさんは敵の馬車までたどり着いていた。


「はや……」


「ギルグのあれは、魔法と筋力の合わせ技だからな。『速さで相手を攪乱させる』みたいなのは黒髪のリンの方が得意だろうが、直線距離での速さや破壊力ならあいつ以上だろうし、『少ない魔力量で』って条件も付けるならオレもギルグに敵うか難しいな」


「すご……」


 俺が驚いていると、横からアムルが解説してくれた。


 アムルは外見だけならゲームで言う「魔法剣士」って感じだが、実際は「武器が剣なだけでバリバリの魔法使い」だ。

 剣で斬ることもあるが、それも「魔法で筋力を上げて物理で倒す」みたいな、魔法の方がメインだったりする。


 それに対して、ギルグさんの方は「魔法でバフれる剣士」ってことだろう。

 さらっとアムルが言っていた筋力やら破壊力が元々凄い人がさらに魔法で強化されているなら、個人の戦いではめちゃくちゃ強そうだ。


 アムルの解説の間に、敵の馬車がギルグさんの方へと向かい始めた。

 そのまま馬で跳ね飛ばそうとでもしてるのか、速度を緩めることもなく突っ込んでいく。


 今度こそ怪我をするんじゃないかとビビったが、馬すらもひらりと回避してギルグさんは馬車へと乗り込んだ。

 俺もびっくりしたが、相手もびっくりしただろう。


 突然目の前にあらわれたギルグさんに、敵は武器を構える暇もなく細剣で貫かれた。


(痛そうだな……)


 いつの間にやらギルグさんが抜いていた細剣は、敵の腕に突き刺さり、引き抜かれ、もう一人の腕も刺す。

 あんなところ、胴体を狙うより難しそうだけど。


 見てるだけで痛いなあ、なんて思っていると、ギルグさんは手綱をとって馬車を止めた。


 敵が刺されたのは腕だから、もう戦うことは出来なくともまだ死んではいないだろう。

 失血死する可能性はあるかもしれないが、少なくとも今は生きているはずだ。


 そう思うんだが、敵の二人は馬車の中で倒れ起き上がって来ない。


 ギルグさんは血を払ってから剣を鞘に戻す。

 この馬車を飛び出していってから、大して時間も掛かかってないんだが……もう二人の敵を制圧したみたいだ。


「はや……」


 本日二度目のつぶやきに、アムルがまた解説を入れる。


「ギルグはいつも細剣に毒を塗ってるみたいだな」


「ひえ……」


 そういえば、攻撃部隊は諜報とかもやってるって言ってたっけ。

 ある意味、実に諜報員らしい戦い方な気がする。


 アムルが「今日使ってるのが、致死性の高い毒なのかただの痺れ薬なのかは知らないがな」と補足してるけど、どっちでも関係ない気がする。

 こんな怖い解説をさらっとしてるアムルも結構怖いぞ。


 そんな事を考えた時、少し前にギルグさんが言ってた事をふと思い出した。


――私からしてみれば、戦場で多くの人間を殺しておきながら、正常な精神を保っている方が不思議でなりませんがね


 アムルも人を殺したことがある。

 でも今は、こうして飄々と人を殺す手段について普通に解説している。


 そう考えると、確かにコイツの方が頭がおかしいような気がしてきた。


(……まあ、いまさらだけどな)


 アムルが人を殺したことがあるって知っていても、こうして普通に話してる俺も俺だ。

 コイツが頭がおかしかろうと、そら恐ろしい奴だろうと、もうどうでもいいか。


 俺がそう結論を出した頃、敵の馬車を他の奴に引き渡したギルグさんがこの馬車に戻ってきた。


「はやっ」


 本日三度目のつぶやきである。


「ぅふふ、お待たせしないで済みましたかね」


 ちょっと散歩にでも行っていたような調子で、ギルグさんが答える。


 ギルグさんは大して返り血を浴びていないようだったが、少しだけ服が汚れていた。

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