12話 戦場に向かいました(3)
俺たちが乗った馬車を含む軍隊は、平原の中を進んでいく。
一応4人乗りとはいえ、男が4人も乗った馬車はちょっと狭い。
その内の数人は鎧を着てるから尚更だ。
アムルはいつも通りの鎧を着てて、アリアさんの旦那さんも似たような物を着ている。
攻撃部隊のギルグさんは、一応鎧を着ているものの、他の二人よりは軽装だった。
身体全体じゃなくて要所要所を鎧で守っている感じだ。
ゲームとかなら、スピードタイプって奴だろうなあ、って見ているだけで分かる。
しかし、狭い馬車の中ですし詰め状態で、尚且つ誰も喋らなくて、俺は隣の男に手を握られているって状況が何とも言えない。
今まさに戦いの最前線に向かおう……って時なんだから、和気藹々と話に花を咲かせるのもおかしいだろうが、ただ皆で黙って待っているのも緊張が高まってくる。
何か喋っても大丈夫かなー、変な事言ったら集中してるの邪魔しちゃうかなー、とやきもきしながら口を開こうか閉じようか迷っていると、先に口を出してくれた人がいた。
「ぅふふ、マモル様は、普段どのようにお過ごしですか?」
「え、普段、ですか?」
ギルグさんに急に話しかけられて、びっくりするのと同時に(この空気変えてくれて、ありがとう!)と言いたくなった。
アリアさんの旦那さんも興味津々な様子でこっちを見てる。「それ、自分も気になります!」……とは口には出さなかったが、顔には書いてあった。
「ええと……基本的には、本を読んだり、たまに身体を動かしたり、ですね」
この"身体を動かす"ってのが、ようやく腕立て伏せが出来るようになった程度なんだが、それをガチな軍人さんの前で言うのは恥ずかしいから適当にぼかしておく。
「他には、どのような事をなさっているのですか? 運動の内容は?」
最初に質問をしてきたギルグさんじゃなくて、アリアさんの旦那さんの方が、熱心に聞いてくる。
俺に興味がある……というより、何か変なことをしてないか疑われているような気もする。
「いや、本当に大したことはして無いですけど……」
もしかしてアリアさんが旦那さんに俺の事を愚痴ったりとかしてるんだろうか。
そうだとしたら結構ショックだけど、それなら「何をしているか」は知ってるか。
何でこんなにぐいぐい来られるのか戸惑っていると、ギルグさんが助け船を出してくれた。
「ほら、そんな風に聞いたら人柱様も困るでしょう」
「はっ……申し訳ございません」
「あ、いえ」
何か謝られてしまった。
困ってたのは事実だが、怒ってる訳でもないからちょっと申し訳ない。
「ええと、ギルグさんは……というか、攻撃部隊って普段どんな仕事してるんです?」
とりあえず適当に話を変えようと思ってギルグさんに話しかけてみる。
実際、攻撃部隊って何するのか防衛部隊よりも知らないし。
余談だが、今回の作戦は防衛部隊の大隊長のガイスさんはティナ王様と一緒に城に留守番だ。
ティナ王様自身は「勇ましき女騎士」っぽい格好の通り、戦う事も出来ないことはないみたいだ。
とはいえ、さすがに王様を戦場に出す訳にはいかない。
特にうちの場合は跡取り問題もあるから、ティナ王様に何かあった時点で戦況に関わらず国の存続が危うくなる。
ガイスさんはそのティナ王様の護衛だ。
俺を殺そうとする奴が城まで来た事もあるし、警備が手薄になった所に刺客が来ないとも限らないしな。
ガイスさんの防衛部隊の役目は「警察っぽい事もしてる」とかざっくりとは役割は知っている。
"防衛部隊"なんて名前からも、脅威から国民や王様を守るのが役目なんだろうなあ、と大体想像はつく。
でも何だかんだでギルグさんの攻撃部隊についてはまだ聞いてなかった。
この国は最近まで戦争してなかったはずだから、"攻撃"する場面もほとんど無かっただろうに。
「ぅふふ、普段はガイス殿の防衛部隊と協力していますよ。防衛部隊の主だった業務のひとつは犯罪者の取り締まりですが、そのうち凶悪犯の制圧などは我々が請け負っています」
ほーなるほど。
イメージとしては防衛部隊がお巡りさんとか刑事さんで、攻撃部隊がSATだかSITだかその辺……って感じかな。
俺が納得して頷いていると、ギルグさんは不敵に笑った。
「ですが、それはあくまで表向きの事。他にも、重要な業務があるのですよ」
ほう。表向きとな。
「それは、"諜報"です。我が国は長い間戦争をして来なかったとはいえ、情報は重要です。この大陸各国で、私の配下の者が情報を集めているのです」
つまりスパイか……!!
何だか中二心をくすぐる、すごい部隊みたいだな。
今から戦場に向かうって事も忘れて、俺が目を輝かせていると、ギルグさんはまた「ぅふふ」と笑った。
……さっきから気になってたけど、この人のこの笑い方なんなんだろうな。
悪い人ではなさそうだし、美人だから笑顔も似合ってはいるし、中二的な意味でカッコいいことはカッコいいけど……ちょっと不気味だ。
いや会ったばっかりの人にこんなこと考えたら失礼か。
せめて顔には出さないようにしようと思いつつ、適当に質問してみた。
「何か楽しそうですけど、良いことでもあったんですか?」
言ってすぐに後悔した。
これから戦場に向かうのに楽しそうも何も無いだろうと。
俺はバカか。
俺は反省したが、ギルグさんの返答もなかなかヤバかった。
「これから、多くの敵を殺せると思えると、とてもとても楽しみでして」
笑い方がヤバい人じゃなくて、ガチのヤバい人だった。
もしかして俺からかわれてんのか?と思って顔を見てみたけど、笑顔のままで冗談なのかマジなのかいまいち分からない。
マジで単に人を殺すのが好きな猟奇殺人者だとしたら、戦争ではある意味ありがたいのかもしれない。
でも普段の生活はヤバそうだ。
少なくとも、現代日本にいたとしたらすぐに逮捕されるだろう。されてください。
「ぅふふ、私の事を頭のおかしい殺人鬼だと思いますか?」
「えっ、いや、そんなことは、全然」
何で俺が考えてる事わかったんだ?
もしかして心を読む魔法とかそういうアレか。
そんな事を考えて隣のアムルをちらりと見たら笑われた。
「いや、ただお前が分かりやすいだけだな」
「さいですか……」
今もアムルに聞く前に考えてることがバレてしまった。
そんなに分かりやすい顔してるのか、俺。
「ぅふふ、マモル様が分かりやすいというのは否定いたしません。ただ、あんな事を言われたら相手が戸惑うだろうな、と想像する程度の常識は私にもありますので」
「はあ、そうっすか」
ということは、やっぱりからかわれてたのか?
やれやれと胸を撫で下ろそうとした所で、またギルグさんが言った。
「私からしてみれば、戦場で多くの人間を殺しておきながら、正常な精神を保っている方が不思議でなりませんがね」
「え。それってどういう……」
俺が真意を聞こうとした所で、アムルが割り込んできた。
「話はそこまでだ。お客さんが来たぞ」
「そのようですね。せめて楽しませてもらえるといいのですが」
「え? え?」
アムルとギルグさんが、馬車の窓を見る。
カーテンがしてあるから外の様子はさっぱり分からないはずなんだが、二人は同じ一点を見ていた。
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皆様どうぞ、よいお年を。




