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12話 戦場に向かいました(2)

「此度の戦いは、今までよりも激しいものとなるだろう」


 浪々とした声で、ティナ王様がずらりと並んだ兵士達に呼びかけている。

 ちなみに、並んだ一番前は魔法部隊の大隊長のアムルと、攻撃部隊の大隊長らしいギルグさんだ。


 この二人の後ろに兵が並んでいるが、その数は俺の予想よりは少なかった。

 どうやら、既にイルナ砦に配備されている奴も多いようだ。


 一応こっちが本隊に当たるが、その本隊の兵達を鼓舞している状況ってことだな。


 その演説を俺も聞いてはいるが、ぶっちゃけ列には並んでいない。


 俺の存在は、この国の兵達にすら秘密ってことになっている。

 さすがに「人柱がいる」ってことは知っていると思うが、「それがどんな奴か」みたいな情報は、アムルやアリアさんを含む一部の人しか知らない。


 だから俺は久々の外出を楽しむ間もなく、一足先にこっそり馬車に乗り込んだ。

 今はティナ王様の声だけを聞いてる状況だ。


「この戦いによって、我が国の命運が左右される。負ければ、人々の生活が脅かされることになろう。だが案ずることはない」


 息を大きく吸ったのか、一度ティナ王様の言葉が途切れた。

 通る声がまたすぐに聞こえてきて、高らかに宣言する。


「我らには、神がついている。恐れることなく戦えば、我らに勝利は訪れるのだ!」


 それに続くように、兵士達の「おおー!!」なんて声が聞こえる。


 ……もしかして、その「神」って俺のことかな。

 人柱は人間が神になったもの、みたいなこと前にも言われたし、多分俺のことだよな。


 兵士達は雄叫びを上げてやる気満々って感じだが、俺の方は益々緊張する。

 もし俺が逃げ出したり相手に殺されたりしたら、今ここにいる兵士達が負けて、この国の人達も平穏な生活とやらから、縁遠くなるだろう。


 俺にとっての初陣が、責任重大すぎる。


 しばらくして演説は終わり、アムルも俺のいる馬車に乗り込んできた。


「……おい、何で隣なんだよ」


「手が繋げるように、だ。それに、他の奴も来るから反対側は開けておかないとな」


「さいですか……」


 この馬車は四人乗りで、二人ずつが向かい合って座るような形になっている。

 その片側に、俺とアムルが並んで二人で座っている状況は、なんかちょっとホモの人っぽい。


 しかも理由が「手を繋ぐため」ってのが、それだけ聞くと何とも言えない気分になる。


 俺が人柱部屋を離れているから、今は国全体に魔力をばら撒けていない。

 少しでも国中に魔力を配れるように、移動中はアムルと手を繋ぐことで俺の魔力を渡し、渡した魔力をアムルが国へ供給する、という算段だ。


 それ自体に異論はないが、ずっと手を繋ぐと考えるとやっぱりこそばゆい。


 何とも言えない気持ちで座っていると、アムルが隣から声を掛けてきた。


「大丈夫だったか?」


「何が?」


 突然言われても何が言いたいのかさっぱりわからない。

 隣に座っても大丈夫かって話なら、出来れば止めてほしい。


「いや、緊張でもしてたんじゃないかってな」


「そりゃ緊張はするだろ……」


 アムルは軽く笑っているが、俺を馬鹿にしてるというより、雑談でもして緊張を和らげようとしているみたいだ。

 いつも通りな様子に、アムルの狙い通り緊張は少しだけ減ったが、これから戦場に向かうことを考えると、やっぱり普段通りとはいかない。


 城に残っているアリアさんやイノリのためにも、俺は死なずに生き残らなければならない。

 でも、俺自身は戦闘力なんぞない。ようやく腕立て伏せが出来るようになっただけの雑魚だ。


 皆を守るために戦場に出るはずが、皆に守られなければならない。

 何か矛盾している気がするが、今すぐどうこうなるはずもなかった。


 意識したことでまた緊張してきたが、馬車にはまた他の奴が乗り込んできた。


「失礼致します。こちら、よろしいですか?」


「え? あ、はい」


 乗り込んで来たのは、さっきまでアムルと一緒に並んでいた攻撃部隊のギルグさんだ。

 アムル視点映像でも見たことあるし、アムルから名前を聞いてたからどこの誰さんかは知っているが、会うのはこれが初めてだ。


 初対面の長身長髪美形男が向かいに座って、さっきまでとは違う理由で緊張する。


「ぅふふ、初めまして。攻撃部隊の大隊長を務めております、ギルグです。以後、お見知りおきを」


「あ、はい。どうも。守です」


 握手のために手を差し出され、それを俺は握り返した。


 長身だし胸はないから女と見間違えるほどではないが、かなりすごみのある美人である。

 そんな見た目とは違って、手は堅かった。

 剣ダコとか言われても分からないけど、俺みたいな引きこもりとは違って皮膚は硬いし力があった。


 「この人が攻撃部隊の偉い人なのって何でだろうなあ、技術力が凄いとかかなあ」とかちょっと思ってたけど、とりあえず握力は普通に強そうだ。

 多分、向こうは普通に握手しただけのつもりだろうが、ちょっと手が痛い。


「申し訳ございません! 遅れました!」


 さらにもう一人追加で馬車にやってきた。

 こっちも映像で見覚えはあるけど、直接会うのは初めてだ。


「まだ出発までもう少し掛かるし、問題はない。奥さんと話してきたのか?」


「はい。今度こそ、どうなるかわかりませんし……」


 馬車の最後の乗員は、アリアさんの旦那さんだった。

 よくアムルと一緒に行動してるし、顔だけはよく知っている。


 話してた奥さんってのもアリアさんのことだろうな。


 カーテンの合間から外を見てみれば、アリアさんが姑さんのクララさんと一緒に見送りに来ているのを見つけられた。


 アリアさんにしてみれば、いつも世話している奴と夫が戦場に向かうわけだから、少し不安そうだ。

 クララさんにとっても、いつも飯を作ってやってる奴と自分の息子が戦場に向かう状況ってわけか。


 この城に俺の知り合いは多くないけど、それでもこうして見送りに来てくれている人もいる。


「そろそろ出発するぞ」


 アムルの言葉の後、馬車はゆっくりと動きだした。


 城の人の他にも、城下町に住んでいる市民達が戦場に向かう兵士達を見送っている。

 この中にも、兵士に家族がいる人もいるんだろうな。


「パパー!! 頑張ってねー!!」


 そんなことを考えていた矢先、家族を応援する子供の声が聞こえた。

 子供の声っていうか……何か聞き覚えがあるような気がする。


 ひっそり覗いて見れば、案の定、見たことのある子供三人と女の人がそこにいた。


「なあ……あれってアムルの子供達だよな?」


「ああ、そうだな」


 確認してみれば、いつもは飄々としているアムルが、少しだけ表情を変えた。

 目を細めて、三人の子供と義妹さんを見ている。


 何かちょっと、見たらいけないものを見てしまったような気がして、前へと視線を移動させた。


 ギルグさんはどうか知らないが、アムルもアリアさんの旦那さんも、家族を守るために戦場に向かうんだろう。

 そして、その帰りを待っている人達がいる。


(俺も、頑張らないと)


 所詮、俺に出来ることなんかほとんどない。


 それでも人柱として、人々の生活を守るため、俺に出来ることは頑張るつもりだった。

来月は多忙なので、更新は一度だけになると思いますm(_ _)m

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