12話 戦場に向かいました(1)
「お、おお……」
か、格好いい。
「どうした、気に入ったか?」
「正直、めっちゃ気にいった」
いま俺は、人柱部屋で新しい服を着ていた。
普段は村人Aって感じの、見た目よりも過ごしやすさを重視した服を用意してもらっている。
だがいま着ている……正確には、サイズ確認しているのは、この国の軍服に当たる服だ。
正装としても使えるようなカッチリした奴だから、正直、格好いい。
この世界に来て、アムルの戦闘とか魔法とか色々見てきた。
でも何だかんだで、俺自身はこの部屋で引きこもってたから、異世界感を直接味わったことは少ししかない。
そんな中、コスプレでもないマジな軍服を着られてテンション爆上がりである。
馬子にも衣装ってやつなのか、格好いい服のおかげで俺本人も普段より格好よく見える。気がする。
白髪、もとい銀髪なのも格好いいな。
自分の格好を確認していると、この髪色もアリかもしれないと初めて思えてくる。
「髪は黒か茶色あたりに染めるからな」
「あ、はい」
髪を確認していることに気がついたのか、無情にもアムルに髪染め宣言をされた。
そもそも、俺がこんな格好をするのは変装のためだ。
この北方地域では濃淡の差はあれど、黒や茶色系の髪色が多い。
年寄りならともかく、俺の年頃でこの髪色だと遠くからでも結構目立つみたいだ。
だから髪を染めるのは納得出来るんだが、ちょっと残念。
「髪を染めるってどうやるんだ?」
そういや、この世界に毛染めとかあるんだろうか。
白を黒にするくらいならやりようはいくらでもありそうだけど、よく分からない物を髪につけるのは、少し抵抗感がある。
「植物の汁を付ける方法とかもあるが、魔法でも簡単に出来るぞ」
「おお、そりゃ良かった」
変な汁とかぶっかけられずに済んで本当にありがたい。
魔法なら匂いとかもないだろうし、実に助かる。
「ただ、太陽光の下だと明るく見える……みたいな、自然な髪色までは再現出来ないけどな」
注意事項を補足するようにアムルは言ったが、俺は適当に流した。
「もともと、そうなりにくい髪だったから問題ない」
俺の髪は子供の頃から太陽光だろうか蛍光灯だろうが光に当たっても真っ黒だった。
むしろ、「他の人はそんな風になるんだなあ」と他人事みたいに思ったこともある。
「この服を着て、お前について行けばいいんだよな?」
「ああ。向こうに着いたら、いつも通り建物で待ってくれればいい」
アムルが言っていた"頼みたいこと"は、予想通り「敵さんが戦場に人柱を投入するなら、こっちも投入しようぜ」という事だった。
ただ、戦場に移動するまで、普通に俺に護衛を付けまくってたら、敵さんに「ここに人柱がいるぞ」と教えるようなものである。
少なくとも、目的の建物――イルナ砦までは変装しようぜって事になった。
隣国に攻め込まれた時、直後は向こうに獲られた土地も多かったみたいだが、イルナ砦で踏ん張って侵攻を抑えることが出来たらしい。
それ以降、イルナ砦は戦いの最前線になり、今も一触即発の緊迫した状態だ。
とはいえ、お互い一進一退で、今まで良くも悪くも戦況に大きな変化はなかった。
そこへ敵さんが人柱を含め戦力を増強しようものなら、拮抗していたバランスが崩れ、一気に国ごと落とされかねない。
それを阻止するためにも、俺は戦場で引きこもらないといけない。
「出発は、いつになるんだ?」
「敵に怪しい動きがあり次第、だな。向こうの国に潜入してる奴がいるから、そいつの連絡待ちだ」
ううむ、いつか分からなくて待ってるってのもドキドキするな。
「隣国の王子様とやらも、その辺は知らないのか?」
「最初の予定ならセリ王子も知っているが……その王子が『作戦に失敗』して捕まったからな。向こうも、当初の予定通りとはいかないだろう」
「ああ、なるほど。王子から情報が漏れてる可能性を考えて『やっぱりこの作戦止めよう』とかか」
「ノイリア王の性格からすると、逆に『準備される前にさっさと攻め込もう』になると思うがな」
「そ、そうか……」
となると、俺が移動するのも、意外と早いかもしれないな。
いざその時が近づいているかもしれない、と考えるとソワソワする。
「本当にご出立されるんですね……」
今まで黙って話を聞いていたアリアさんが、心配そうにしていた。
何だかんだで、アリアさんとはこの部屋でずっと一緒にいたから 、もしかするとアムルよりもアリアさんの方が俺のことをよく分かっているかもしれない。
戦闘じゃ全く役に立たない、むしろ人が傷つけられるのを見るのが苦手な、頼りない奴だと。
「安心してくださいって言っても無理かもしれませんが、逃げたりしないで少しくらいはアムル達の役に立ってきます」
格好つけて、堂々と。
普段とは違う衣装を着ている効果なのか、普段よりも自信たっぷりで答えることが出来た。
俺の言葉に、足元にいたイノリも「ふごっ」と嬉しそうに鼻を鳴らす。
「分かりました。くれぐれもお気を付けて、無事に帰って来てください」
そうは言ったものの、アリアさんはやっぱりまだ心配そうだ。
……ぶっちゃけ、俺としては約束出来るのは「逃げない」ってことだけだ。
他の事、例えば出来るだけ早く戦いを終わらせるって話はアムルにお願いします。
俺も死にたいわけじゃないので。
こんな会話をアリアさんとしていると、アムルは急に真面目な顔になった。
もしかして、また何かあったのかと、そのまま見守る。
「……予想通りだ。ノイリア王は、予定を早めて攻めてくるぞ」




