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11話 城に訪問者が来ました (5)

「ほら、あそこにいるのがセリヌントゥユーフアレグ殿だ。将来、ディエーティナが一緒になる人だろう」


 あれはもう20年近く前の話だが、そう言った父の声も、父の視線の先で佇んでいたセリの姿も、ディエーティナは鮮明に覚えている。


 「二人でこの国と彼の国、双方の未来のために彼を支えておくれ」と続いた事も。


 そう言った父は、すでに亡くなってしまった。


 隣国と戦争が起き、ディエーティナの兄は戦地へと赴いた。

 だがその先で兄は返らぬ人となり、父は心労のあまり倒れた。


 決して身体の強い方ではなかった父王はそのまま兄の後を追うように息を引き取った。


 父は戦争で直接命を落としたわけではないが、きっかけは間違いなく戦争だ。


 ディエーティナは父と兄を短期間に喪い、その生活も地位も大きく変わってしまった。


 戦争の相手となってしまったノイリアの王子――将来の夫となったかもしれないセリヌントゥユーフアレグは今、王であるディエーティナの御前で顔を伏せていた。


 部屋には衛兵などもいたが、ディエーティナの視線はセリに注がれている。

 その姿を見ているだけで、ディエーティナは様々な想いが胸にこみ上げるのを感じた。


 セリの人となりは嫌いではなかったが、異性として恋愛対象として意識していたとは言えない。

 それでも言いたいことは山ほどありすぎる。



 何故、あなたの国は我が国に攻め込んで来たのですか。

 そのせいで、私の兄と父を含め人々の命が喪われましたが、そのことについてどうお思いですか。



 国王としてというよりも、ディエーティナという個人としてこの場でまくし立ててしまいたくもなる。


 だが、今のディエーティナは一人の人間である前に、一国の王だ。


 王としてこの玉座に座しセリを見下ろしている。


 零れそうになるため息を飲み込んで、ディエーティナは口を開いた。


「突然のことに驚きましたが……ひとまずはご足労いただき感謝します」


 ディエーティナの朗々とした声が響く。

 声には動揺がにじんでいないことを確認して、さらに続ける。


「今回はどのようなご用件でしょう」


「それは……」


 ここへ来てようやくセリは口を開き、顔を上げた。


 そして、低い姿勢のまま一気にディエーティナに向かって駆け出す。


 同時にセリが懐から短剣を取り出す様が、ディエーティナにはひどくゆっくりに見えた。


 遠くからは、誰かの怒号のような声が聞こえ、隣にいたガイスが盾を構えたまま二人の間に割って入る。


 それでも、ディエーティナの目はセリの持つ短剣に釘付けになっていた。


 短剣が翻り、光を反射した直後――。



 セリは見えない壁に激突して倒れた。




***




 ん? んんん?


 音も説明もないからどういう状況なのかはよくわからないが、アムル視点映像では厳かな部屋でシリアスっぽい展開が進んでる……と思ったら、セリなんちゃらさんが走りだして勝手にこけた。というかひっくり返った。


 え、見えない壁にぶつかるっていうパントマイムでも一人やってんの?という感想を持った、てのが本音だ。


 女王様の前で突然走り出すって暴挙に出たセリさんを取り押さえることもなく、その場にいる衛兵っぽい人やガイスさんまで硬直してあっけにとられた顔をしている。


 音が無くてもわかる。

 マンガ的に台詞をつけるなら「…………」か「えっ」って感じだろう。


 セリさん本人も何が起こったからよくわかってない感じで、これまた台詞をつけるなら「???」ってところか。


 気まずい雰囲気の中、アムルだけは普通に近づいてセリさんを取り押さえた。

 と言っても焦ってるわけでもなく、こっちは「はい、ちょっとすいませんよ」といった感じだ。


「もしかしたら、アムル様が前もって魔法を使っていたのかもしれませんね」


「ああ、なるほど!」


 隣でアリアさんがひとつの予想を立ててくれて、俺は納得した。


 悪意のあるものを物理的に阻む結界とかは作れるって前に聞いたことがある。

 それを城ごとじゃなくて、女王様の前だか周りだかに作ったんだろう。


 セリさんはティナ王様を殺そうとしたが、アムルの作った見えない壁に顔面からぶつかっていった……てところかな。

 そうなると予想してなかった組は、ポカーンと間抜けな表情を浮かべて、その結界を張った張本人であるアムルは冷静にセリさんを取り押さえた、と。


 …………セリさん、気の毒すぎる。


 映像では、ワンテンポ遅れて衛兵っぽい人達がセリさんをアムルから引き取りどこかへ連行しているみたいだ。

 セリさんと一緒に来た二人も特に抵抗することなく、むしろ両手を挙げて大人しくしている。


 部屋を出る直前、ティナ王様が何か声を掛けたみたいで、衛兵もセリさんも足を止めた。

 セリさんは振り返って何か一言だけ残してから、部屋を出た。




 後でアムルに聞いたところ、ティナ王様は何をしに来たのかを聞いて、セリさんは「それはまた後ほど」みたいな事を言ったらしい。


 いや、何をしに来たって「正面から堂々とティナ王様を殺しに来たんちゃうん?」と俺は思ったんだが、一応それはメインではなかったらしい。


 そもそも、こんなに衛兵とかが周囲にいて全力で警戒してる状態で、奇襲が成功するとはセリ王子含め、誰も思っていなかったみたいだ。


 事実、魔法の壁以外にもガイスさんが文字通り盾として立ちはだかっている。

 アムルがいなくとも、今度はガイスさんの盾に体当たりすることになっただけだろうな。



 結局のところ、本題はこの後だった。

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