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11話 城に訪問者が来ました (4)

「ところで、そちらのリン・オルカナ殿はしばらくぶりですね」


 謁見の準備が整うまで、アムルは世間話でもするように訪問者のうちの一人に声をかけた。


「さあ、何のことでしょう。確かに私はリン・オルカナですが、貴殿とは初対面だと思うのですが」


 アムルのような魔法使い相手に誤魔化そうとしても無駄だとわかっていながら、声をかけられたリン・オルカナはとぼけて見せた。


 この大陸には戦争や捕虜に関して全土で統一された法律はない。

 つまり、一般人を戦争に巻き込むことも人質にとることも明確に禁止はされていない。


 かといって外聞が良い行為でないことも確かだ。

 ノイリア側が戦争に勝利すれば「必要な行為だった」といくらでも言い繕えるが、もしも負けてしまえば表だって批判されるだろう。


 そういった材料は少しでも減らすため、見え透いた嘘であろうとリン・オルカナは今はユノアであった出来事を否定する。


「リン・セレオン殿も一緒におられましたよね」


「ええと……私も何のことなのか分かりかねます」


 話を振られたリン・セレオンも仲間と同じようにとぼけるが、リン・オルカナよりは不自然な態度だった。


 アムルも本気で追及するつもりはなく笑顔のまま軽く言う。


 おそらく揶揄われているのだろうと二人のリンも気がついていたが、過剰に反応するわけにもいかず、簡潔に答えた後は黙り込んだ。



 しばらくそうして、雑談と沈黙を繰り返しながら待っていると、テイトが戻って来た。


「遅くなりまして申し訳ありません。準備が整いました」


 あくまで他国の王子に敬意を払い、テイトは頭を下げる。


「ありがとう。では、案内していただけますか」


「ええ、ええ。どうぞこちらへ」


 テイトが先頭を進み、その後ろにセリと二人のリンが連なる。

 最後尾にはアムルが続いていった。



***



「これ、やっぱり女王様のところに向かってる感じですかね」


「おそらくそうでしょうね」


 俺自身はこの人柱部屋から出ることはほとんどないが、アムル視点映像のおかげで城内がどうなっているかは何となくはわかる。

 いまアムル達が向かってる先にはいわゆる謁見の間みたいなのがあることも知っている。


 実際、いまも戦争中の敵国とはいえ、相手は王子様みたいだしな。

 目的はわからないが、何か話があるなら女王様が対応するのもわからなくもない。


 俺はそう考えて、一人で勝手にうんうんと頷いていたが、アリアさんのほうは難しい顔をしていた。


「そうですか……やっぱり、セリヌントゥユーフアレグ様が陛下とお話しなさるんですね……」


 ……やっぱりセリヌントゥユーフアレグって名前も気になるな。

 気になるけど、アリアさんが何を心配しているのかも気になる。


「二人が話をすると何か問題があるんですか? もしかして、女王様が攻撃されないか、とかです?」


 確かにそこは俺も心配だ。

 訪問者がいると聞いて、最初は人柱の俺を殺しにきたのかと思ったが、こうなってくると女王様の方を殺しにきたのかもしれない。


 アムルは結構強いみたいだ、と知ってはいるが、王子様やツレの二人が大暴れでもしたらどうなるのか俺には予想がつかなかった。


 だが、アリアさんが心配していたのは別のことだった。


「いえ、そうではなく……それもですけれど、それ以前に……セリヌントゥユーフアレグ様は、ディエーティナ陛下とご結婚したかもしれない方なので、陛下も複雑な心境でしょう、と思いまして」


「えっ、結婚?」


 その話は初耳だ。


 女王様が嫁にいくってことか? いや女王様は王様なんだから、王子様を婿にもらうのか?


 俺が首を傾げていると、アリアさんが補足してくれた。


「もともとノイリア王国と当国は友好的でしたから、こちらの王族があちらへ嫁ぐこともその逆もよくあることでした」


 ああ、政略結婚的なやつかな。


「全ての世代で婚姻するとは限らないのですが、年齢が合う男女が王族で誕生した場合は婚姻することが多いですね」


 アムルに持ってきてもらった本には歴史書みたいなものもある。


 そこまで意識して読んだわけじゃないから気がつかなかったが、確かに何度か「隣国の王族と結婚した」みたいなことは書いてあったかもしれない。


「婚約などを結んだ訳ではありませんが、今回もディエーティナ陛下がセリヌントゥユーフアレグ様のところへ嫁ぐのだろう、と多くの人々が思っていましたし、陛下自身もそのつもりだったと思います」


 ふむふむ、なるほど。それが戦争のせいで流れたんだな……と納得しかけたが、やっぱりいくつかの疑問が残った。


「女王様が嫁ぐってことは、本当は他の人が王様になる予定だったってことですか?」


「ええ……本当は、陛下にはお兄様がいらっしゃったので……その方がこの国を継ぐ予定だったのですが、この戦争で亡くなってしまわれて……」


 え。これも初耳。


 持ってきてもらった歴史書も本当に"歴史"がメインって感じで、ここ数十年くらいの話とかは載ってなかった。

 王族の家系図みたいなのはさすがに持ってきてもらってないし。


 今になってこの国の王族事情を聞いた気がする。


「え、ええと……情報を整理したいんですが、いまこの国には王族は何人いるんですか?」


「『何代か遡れば王家の血を引いている人』という意味では私は正確な数を把握していませんが、『王族として認められていて王位継承権のある人』という意味でしたら、陛下と陛下の叔父に当たる方の二人だけですね」


 結構少ないんだな……。

 というか、ティナ王様のおじさんって初めて聞いたような。


「その女王様のおじさんってどんな人なんです?」


「それが……軍部で一番偉い方なのですが、お身体が弱く今も臥せっていることが多いため、ほとんど名目上だけですね。実務に関しては年長のガイス様を中心に大隊長のお三方が担当されているようです」


 あ。そういや、アムルとティナ王様の間に偉い人がいるってのは聞いたことあったけど、それが誰か、は聞いたことなかったな。

 しかし、おじさんってことはティナ王様より年上だろうし、仕事もまともに出来てないってことは……。


「もしも、万が一……いや億が一、女王様に何かあったらかなりマズイってことじゃ……」


「そうですね……『今は王族として認められていない方にも王位継承権を与えるか』というのは議論になっているのですが、『それより今は戦争の方をどうにかすべきだろう』とか『戦争中だからこそ早く決めるべきだろう』とか色々と意見がぶつかってまして」


 わぁお。俺が思ってたより、この国ヤバイっぽい。


 もしここで、本当に隣国の王子様とやらに女王様が殺されちゃったりなんかしちゃったりしたら、もう前線の戦況とか関係なくこの国終わりなんじゃないか。


 何でそんな大事な話をアムルは俺にしなかったんだよ全く。



 ……なんて思うのと同時に、もし本当に俺が人柱としてチートじみた凄い存在だったら、戦争も終わらせて後継者問題だけに集中できたりしたのかな、ともちらりと考えた。

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