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11話 城に訪問者が来ました (2)

「すまん、ちょっと用事が出来た。説明は後でする」


 さっきこの部屋に来たばかりのアムルはそう言うと、持ってきた本を俺に押し付けてすぐに出て行った。


「あら、もう行ってしまわれたんですね」


「ふご?」


 アムルの分に用意したお茶を乗せたトレーを持ったまま、アリアさんは首を傾げイノリも不思議そうに見上げている。


「いったい、何だったんでしょうね」


 一緒になって俺も首を傾げたあたりで、アムルからの通信が入った。


『悪意を持った奴らが城に向かってる。今から確認に向かうが、場合によってはしばらく連絡出来なくなる』


 それだけ言って、また通信は途切れた。

 アムル視点映像を見ると、やたら急いでどこかへ向かってるみたいだ。


 えーと……正直、状況はよくわからないが。


「なんか、あやしい奴が城に向かってるらしいです」


 通信が聞こえてないアリアさんとイノリのためにざっくり説明したところで、(まさか、また俺狙いの暗殺者が来た、とかじゃないよな……)と、ふと思い当たった。


「と、とりあえず、戸締まりはしておきますね」


 ついさっきアムルが出て行った戸へ向かい、鍵を掛ける。


 前回の時は結局のところ「敵が来たと思ったら帰った」といった状況だった。

 今回もそうなるといいな、とも思うが、アムルの反応は明らかに前回よりも慌てている。


(まさか、前よりもヤバイ奴が来てるとか……?)



 そんなことを考えて俺は内心ビビっていたが、その"ヤバイ奴"の内容が俺の思っていた方向とは違った。




***




「おお、小僧。お前も来たか」

「テイト殿、どのような状況ですか」


 アムルは城の入り口に向かう途中で、一人の老人に声を掛けられた。


 テイトと呼ばれた男は腰は曲がり頭部は地肌の方が多く残った毛も白くなっているが、どこか凛とした雰囲気で、小さな子供ならば声を掛けれられたら隠れてしまいそうな迫力がある。


 マモルならば"いつもニヤニヤ笑ってる敵の科学者って感じ。白衣とか似合いそう"と表現しただろう。


「どのようなも何もない。ワシもいま来たところだ」


 吐き捨てるようにテイトは言ったが、その顔はどこか面白がっているようにも見えた。



 テイトは、軍に所属していない魔法使いの中では、最も地位が高い人間だ。


 単純な魔法技術力という意味では、一般的な魔法使いよりも少しだけ優れている程度だろう。

 だが、得意な魔法が偏っているアムルに対し、テイトは補助魔法も攻撃魔法も幅広く習得している。


 アムルの所属する魔法部隊は、防衛部隊や攻撃部隊と連携しサポートすることが多い。


 魔法部隊も他の二つの部隊もあくまで軍部の一部であり、今のように戦争が起きている時期は敵国との闘いや防衛が主な仕事だ。

 この国では軍部が警察業務のようなことを請け負っているため、普段は犯罪の取り締まりや災害救助なども行っている。


 それに対し、テイトが所属している部署は普段は荒事とは関係なく、魔法で国を発展させることなどを目的としていた。


 端的に表現するなら、アムルは軍人として魔法使いで最も位が高く、テイトは政治家として魔法使いで最も位が高い。


 共通している部分も多いため魔法部隊と連携をとることも多いが、厳密には別の部署だ。



 そのテイトとアムルが感じ取ったのは、「通常とは比べ物にならないほどの敵意を持った者が城へ近づいている」ということだ。


 城に張られている結界には"悪意を持った者が潜入すると報せを送る"という機能もあるが、悪意を持つ全ての人間の情報が送られているわけでもない。


 単に"悪意のある人間"だけを条件としてしまうと、「嫌いな上司がいて腹が立つ」というようなちょっとした反発心にすら反応してしまうからだ。

 "悪意のある人間を物理的に排除する"という効果をつけることが出来ない理由のひとつがそれだった。


 しかし、いま城へ向かっている者――その三人のうち一人が抱えているのは、そんなちょっとした反発心と呼べるような物ではない。


 この国に対する悪意、それ以上に何かを成し遂げようという覚悟、どこか不安に思う感情や殺意などが、魔力の中に感じられる。


 総合的な雰囲気としては「この国の誰かを殺そうという覚悟でやって来た」といった様子だ。


 三人のうちの二人が誰なのか、すでに対峙したことのあるアムルにはすぐにわかった。

 以前この城に侵入しようとしたこともあり、アムルが国境都市ユノアでも遭遇した二人のリンだろう。


 こちらの二人の悪意は大したことはない。

 人柱を暗殺するために城へ来た時も明確な殺意自体はあったため結界が反応したが、今回来た"誰か"と比べて感情自体は落ち着いている。

 「あくまで仕事としてきた。良くも悪くもこの国に関してこれといった興味はない」といったところだろう。


 この二人が連れて来た――あるいは、連れてこられた悪意を持つ"誰か"は何者なのか。


 警戒しながら城の入り口へとアムルとテイトは共に向かう。


 二人が外へ向かうよりも前に、訪問者は城へと辿りついていた。


 今回は二人のリンももう一人も姿を消しているわけでもなく、正面からどうどうと門番に声をかけているようだ。


 その応対をしている門番はアムルとテイトの姿に気が付くと、ほっとしたような表情を浮かべた。



「あのう……隣国の王子様を名乗る人物がやって来られたんですけど……」


 門番は戸惑いながらも、この国で最も偉い魔法使いの二人に報告した。

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