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9話 茶髪男と戦いました(アムル達が) (4)

(あれは……魔石のかけら、か?)


 魔石とは、名前の通り魔力を帯びた石のことだが、魔法を刻めばその魔法を再現することが出来る。

 "爆発する魔石"も"破裂音を鳴らす魔石"も時間さえあれば用意することは可能だ。


 だが、何故その魔石がここにあるのかリン・オルカナにはわからなかった。


 ここに駆け付けた時にはなかったはずだ。

 魔石とは離れた位置にいるサクファが用意していた可能性は低いだろう。

 魔石は決して安いものではないのに"破裂音を出す魔法"ではなく魔石自体を爆発させたのは何故だ。

 武器として使うつもりだったのなら、爆発の規模が小さすぎる。


 疑問が脳裏を巡り、数瞬、リンの動きが止まった。


 その数瞬を、アムルは見逃さなかった。


「お兄ちゃ……」


 サクファの無事な姿を確認し安堵するヒロネを広場へ押し込むように肩を押す。


 それと同時に、身体速度を上げる魔法を自身にかけ、剣を振る。

 動きが速くなったため剣を振り終わるまでの時間が減り、魔法を発動するタイミングも僅かだが早くなる。


 だが、ほんの少しだけ動きを止めていたリンも、アムルの不審な動きにはすぐに気が付いた。


 魔石の爆発に気を取られて出遅れたが、自身の速度ならば間に合う距離だ。

 リンはそう判断し、速度向上の魔法にさらに魔力を注ぐ。


 そのまま駆け出そうとした、その瞬間。


「うわああああああ!!」


 一気に走ってきたサクファがリンに飛びついた。


 アムルがかけた身体強化の魔法はまだ効果が残っているとはいえ、元々の速度はサクファよりもリンの方が圧倒的に速い。


 だが、リンが動きを止めた時も必死に走り続けたサクファはようやく追いつくことが出来た。


「ちっ……離せ!!」


 鬱陶しそうに言いながらリンは押しのけようとしたが、サクファも必死でしがみつく。

 そのまま完全に取り押さえることまでは出来ないが、走り出そうとするリンを邪魔することには成功している。


 アムルにとっては、それだけで十分だった。


 サクファが時間を稼いでいる間に剣は振り終わった。

 それと同時に、先程まで目には見えなかった広場の 魔法陣が光りだす。


「え? え?」


 広場全体から放たれたように見えた光に包み込まれ、ヒロネは戸惑ったように声を上げた。

 宿からサクファ達を連れ去った時とは違い空間に穴を開けるのではなく、直接ヒロネを遠くへと運ぼうと魔法が発動する。


「…………っくそが!!」


 転移を阻止しようにも、サクファがまとわりついているため駆け出すことが出来ない。

 苛立ったリンは速度強化の魔法を解除した。


 そして、手にしたナイフを振りぬく。


「きゃあああああ!!」


 魔力で殺傷力を強化したナイフは鎧をも砕き、血をまき散らしながらサクファに深々と突き立てられた。


「いやぁ、お兄ちゃ……っ」


 ヒロネは真っ赤に染まっていく兄を呼ぼうとする。

 だが言い切るよりも前に、光も声も姿もその場から消え去る。



 それと同時に、サクファの身体は自らの血の中に倒れた。





「……はあっ!!」

「くっ……」


 ヒロネの姿が完全に消え、リンが内心で舌打ちするのとほぼ同時に、アムルはリンへと斬りかかった。

 魔力が込められた剣をナイフでは受け止めきれないと判断したリンは、急いでその場から飛び退き回避する。


(コイツ……魔力に限界がないのかよ!!)


 アムルが宿に侵入してから、まだそれほど時間は経っていない。

 この短期間では魔力は大して回復などしていないだろう。


 "空間に穴を開ける"などという大それた魔法を使った直後ならば魔力量は大きく減っているはず……と予測していたが、何度か剣を交えていてもそんな様子は微塵も感じられなかった。


 それどころか、空間転移などという魔法をもう一度発動させた。


 直接魔法を行使するのではなく、魔法陣を使えばある程度は行程を省略したり魔力を節約出来るのは事実だ。

 だが、いくら魔法陣で補助するとはいえ、これほどの魔法ならば発動時にも魔力を大きく消費するはずだ。


 事実、少なくない量の魔力が動いていたことはリンにも感じられた。

 仮に魔法理論の解読が出来たとしても、並みの魔法使いならば魔力量が足りずに発動出来ないほどの量が、だ。


 いくら目の前の男が優秀であろうとも、どちらか片方だけでも発動させたらしばらくは簡単な魔法以外は使えなくなるだろう。

 そう予測していたのだが、それは大きく裏切られた。


 しかも、相手の目的であろう"人質を逃がす"は成功させたにも関わらず、撤退するどころかさらに攻撃を仕掛けてきた。

 まだ戦えるだけの魔力はある、ということだろう。


(これは、マズイかもしれないな……)


 ついでに魔法部隊の大隊長の首が取れれば僥倖だと思っていたが、魔力量は間違いなく向こうの方が一枚も二枚も上手だ。


 せめてこちらが万全の態勢だったら、「二度も大規模な魔法を使わせた今こそがチャンス」と言えたかもしれないが、先ほどまでずっと戦っていたため、決して余裕があるとは言えない。

 得意な速度向上の魔法ではなく、鎧を貫くためにナイフに集中させた攻撃強化の魔法も手痛い消費だった。


 深追いせず撤退しなければ、こちらの身の方が危険だ。


 そう考えを改めながら前方を確認すれば、リンが元々いた場所……サクファの近くにアムルは駆け寄り跪いていた。


「ひ……ヒロ、ネは……」

「ああ、無事に転送出来たぞ」

「……よか、た」


 まだ息があったらしいサクファのか細い声での問いに、励ますようにアムルが応える。


 その返答に安心したように微笑んでから、サクファはごぽりと血を吐いた。

 同時に、僅かに持ち上げていた手もその場に落ちる。


 瞼も静かに閉じられた。


 その言葉や行動はリンの位置からははっきりとは見えなかった。

 恐らく命は長くないだろう、ということは予測出来るのだが、まだ微かにでも息があるのかどうかまではわからない。


 通常ならば、すでに死んだようなものだと判断して、そのまま捨て置くところだ。


 しかし、先ほどから"空間に関する魔法"などというものを二度も見せられて、それでも魔力が枯渇していないらしいアムルの事を考慮にいれれば、"確実に死んだ"と判断するのは早計だ。

 こんな状況からでも回復出来るような魔法が使える可能性だって十分にあるだろう。


 リンはそう判断したが、実際のところアムルであってもこの状態から命を繋ぎとめるような技術はなかった。

 そうとは知らないリンは二択を迫られていた。


(このまま逃げるか? アイツにとどめをさすか?)


 既に、人質に逃げられる、という失態を演じている。

 さらに、裏切り者を見逃す、などということを重ねるわけにもいかない。


 だが、もたもたしていたらこちらの命が危険だ。

 今すぐに撤退して、敵の危険性を知らせるのも重要な仕事だろう。


 体面など気にしている場合ではない。


(…………逃げよう)


 自身の命を惜しんだ、と言われてもリンは否定出来ない。


 この仕事は自ら選んだものだが、そう簡単に命を捨てられるほど今の王に忠誠を誓っているとも言い難い。


 さっさと相棒を連れて引き返すべきだ。

 そう結論を出して、速度向上のための魔法を残った魔力で行使しようとした時だった。



 リンにとっては、さらに悪いことが起きてしまった。

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