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9話 茶髪男と戦いました(アムル達が) (1)

「だ、大丈夫ですかね……アムルの奴」

「きっと大丈夫ですよ。信じて待ちましょう」

「ふごっ」


 俺が不安そうに言えば、メイドのアリアさんが答えてくれて、猪のイノリまで励ますように鼻を鳴らした。


 現在、この人柱部屋に映し出されている映像はスミア村に向かった時と同じ二つだ。


 その内、アムル視点映像の方は現在ハイスピードで動き続けていた。

 風景が流れるように過ぎて行き、土地勘のない俺にはどこをどう走っているのかもわからない。


 元々の作戦通りなら、転送用魔法陣が仕込まれている街の中央に向かっているはずだ。


 そして、その街の中央付近にはアムルが魔法で作った鷹もどきが控えている。

 高い屋根の上でじっとしているから、初めてこの街に来た奴なら置物と間違えるかもしれない。


 その鷹もどき魔法から送られた映像――正確には、鷹もどきの脚に付けられた魔石から送られた映像――にはまだアムルの姿は見あたらない。


 今回の作戦は、アムルがゴールであるここに辿り着けば成功と言えるだろうが、それが後どれくらいの時間が掛かるのか俺にはわからなかった。


(無事に帰って来いよ、アムル)


 こうして戦闘が終わるのを待つのは二度目だけど、そう簡単に慣れるものでもない。

 "敵に追われている"なんて状況で、遠く離れた場所にいるはずの俺ですらソワソワしてくる。


 追いつかれずに逃げきれれば御の字だ。

 戦闘になったとしても、怪我が最小限なら、まあよし。



 そんなことを考えてドキドキしている間にも、アムルは妹ちゃんを抱えたまま走り続け、追跡者は少しずつ距離を縮めていた。



***



 小路を走り続けていたアムルは、道の先に開けた場所があることを確認した。


 目的の場所である中央広場だ。


 あそこまで辿り着けば、ヒロネだけを城下町付近まで移動させることが出来る。

 魔法は既に組み立ててあるため、後は魔法陣の中に入り発動させるだけだ。


 しかし、アムルはそこまで走り続けることはせず、急に止まると後ろを振り返った。

 靴と石畳が擦れあい、ザザ……と音を立てる。


「どうも、はじめまして。魔法部隊の大隊長、アムル殿」


 その先には、茶色の髪をした年若い男がいた。

 顔を正面から見たのはこれが初めてだが、この男が追手であることはすぐにわかった。


「これはこれは、ご丁寧にどうも」


 アムルは言いながら、抱えていたヒロネを下ろし背後へと隠す。


 それと同時に周囲を探った。


(サクファは……)


 目的の気配はすぐに見つかった。


 ここまで辿り着くにはまだ時間が掛かるだろうが、ひとまず走れる程度には無事のようだ。

 その事だけを確認すると、茶髪の男に向き合い口を開いた。


「そういう貴方は、ノイリア王国のリン・オルカナ殿……かな?」


 言いながらも、アムルは警戒を怠らなかった。


 長い間、人質として監禁されていたヒロネは体力が大きく衰えている。

 一度でも攻撃を直接受けたら命を失う可能性は高い。


 相手の動きを最大限に警戒しながら、ジリジリとアムルは距離をとった。


「さあて、どうかな」


 茶髪の男――リン・オルカナは、問いに曖昧に答えながらも、一歩進んだ。


 表情だけならば、笑みすら浮かべていて男には余裕があるように見える。

 だが、魔法で感情を読み取ったアムルには男が戸惑っていることがわかった。


 「何故、名前がわかったんだ」といった心境だろう。


 アムルはまた半歩ほど退きながら、さらに言った。


「確か、まだ19歳だったかな? その若さでなかなか優秀らしいじゃないか」


 全て見透かすように言われ、チッとリンは舌打ちをした。


 実際のところ、相手が本当に"リン・オルカナ"だと、問うまでアムルにも確信はなかった。

 アムルが聞いたことがあるのは"新進気鋭の若者が二人いて、その二人は王にとってもお気に入りのようだ"という情報と、簡単な容姿と名前くらいだ。


 しかし、この反応を見れば、そのリン・オルカナ殿だということは間違いないだろう。



 ノイリア王国はエアツェーリング王国に密偵としてサクファを利用していたが、エアツェーリングの方もノイリアに密偵を送っていないわけではない。

 サクファのように王城に関わるような重要な部分にまでは入り込んでいないが、一国民のフリをして敵国の情報をエアツェーングに送っている。


 そのひとつが、目の前にいる茶髪の男と、もう一人の黒髪の男のものだった。


 この二人は身体能力が高いだけでなく魔法も使いこなし、戦闘能力ならばベテランの兵にも劣らないそうだ。

 今後を期待されている二人はノイリア王のお気に入りになっていた。


 まだ若い二人は、階級も高くはない。

 部隊の者を率いらなければならない――という責任もないからこそ、こうした少数でも戦闘力が必要な作戦に駆り出されることも多いようだ。


 恐らく、この数日アムルを尾行していたのも、二人のうち黒髪の男の方だろう。


「……ふん、だから何だ。讃えれば見逃してもらえると思っているのか?」


 リンは少し苛立ったように答えながら、足を一歩踏み出した。


「いやいや、そんなことは思っていないさ。ただ凄いなあ、と素直に思っただけで」


 アムルは警戒しながらもおどけたように言い、半歩ほど下がった。


 会話自体に意味はない。

 何らかの形で気を引き、その隙に少しでも広場に近づこうとじりじりと退く。


 だが、リンも意図に気が付いているのか、アムルが半歩退けば一歩進んだ。


 広場への距離はわずかまでに迫っているが、少しでも隙を見せれば攻撃されるだろう。

 ヒロネを庇いながら警戒しているアムルは大きく動けないが、リンは遠慮なく距離を縮めてくる。



 そして、あと数歩の所まで来た時、リンは一気に距離を詰めた。

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