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8話 妹ちゃん奪還作戦開始しました(アムルが) (4)

「振り返るな、走れ!!」


 背後から男の声が響きサクファは足を止めそうになったが、アムルは叱咤し走り続けた。


 恐らくあの声は拡声魔法を使ったのだろう。

 アムルは魔力を探り、あの男がまだ近くまで来ていないことは確認している。


 だが、それも時間の問題だ。


 距離自体はまだあるとはいえ、どこにいるのか見つかっているのは事実のようだ。

 男の気配は真っ直ぐこちらに向かってくる。


(このままだと追いつかれるな……どうする?)


 アムルの作戦はシンプルなものだった。


 サクファに持たせた呪符を元に空間魔法を発動させ、不意打ちでヒロネを連れ出す。

 そして、街の中に作った転送用の魔法陣で城下町の付近まで移動させることだ。


 短時間で魔法を組み立てた場合はどうしても粗が出るため、遠くへ運ぶことは難しく失敗する可能性も高い。

 そのため、その場で魔法を発動させ城下町まで戻る、という行為はほぼ不可能だった。


 だが、一週間前から少しずつ準備をした場合は別だ。

 出口側もアムルの部下に当たる魔法部隊の者たちが魔法陣を組んでいるため、場所の指定も容易い。


 しかし、その魔法陣自体を移動出来ない以上、アムル達がそこまで辿りつかなければ意味がない。


 いっそ転移魔法のことは考慮に入れず、襲ってくる敵を全て倒せればそれで今回の作戦は成功だと言えるだろう。


(戦闘になるのはやむを得ないか……どうすれば、被害が少なくすむ?)


 アムルはこの一週間、工場などを視察するのと同時に人通りの少ない場所なども調べていた。

 そのため、現在は出来るだけ人の少ない道を選び走ってはいるが、通行人がひとりもいないわけではない。


 近くに市民がいる状態で戦えば、今度は市民を人質にとられる可能性もある。

 状況によっては、街の人々を巻き込み自爆する可能性もあるだろう。


 国民である一人の女性を救うことは大切だが、それ以上に多くの被害を出してしまっては元も子もない。


 幸い……と言っていいのかは疑問だが、茶髪の男は通行人には目もくれずアムル達へ向かって進んで来る。


 都市の上層部にも、既にこの場所については伝えてある。

 あとは、この都市の治安維持組織が一般人を近づけないようにしてくれることを願うばかりだ。



 となれば、次にとるべき行動は何か……。

 アムルが考えていると、サクファが口を開いた。


「俺が引きつけます」


 真っ直ぐな目で言った後、サクファは後ろを振り向いた。

 そこに追手の姿は見えないが、慌ただしい足音は既に聞こえてきている。


「……わかった。健闘を祈る」

「え? お兄ちゃん、ヤダよ、一緒に……!!」


 サクファが何をしようとしていのか察したのか、ヒロネは不安そうに言った。

 しかしアムルは一度サクファの肩に手を置いただけで、ヒロネを抱えたままさらに速度を上げる。


「お兄ちゃんっ……!」


 ヒロネの声は次第にサクファから離れて行った。




「…………」


 ふう、とサクファは息を吐き、速まる心臓を落ち着けようとした。


 恐怖心などない、と言ったら嘘になる。


 だが、自身が足止め出来なければ、妹は死ぬことになる。

 それだけは絶対に避けたかった。


 アムルに肩を置かれた時から、少し体が軽くなったような気もする。

 前線に出たことが少ないサクファは経験したことはなかったが、これが恐らく"身体強化の魔法"なのだろう。


 倒すのではない。

 時間を稼ぐだけだ。


 それだけならば、魔法で身体を鍛えられている今ならば自分でも出来るはずだ。

 そう言い聞かせ、道の向こう側を睨みつける。


「なんだ、お前だけか」


 その声を聞き、サクファは身体を固くした。

 すぐに茶髪の男の姿も現れる。


「こ、来い!!」


 実戦経験は少なくとも、サクファも兵士の一人だ。


(足止めくらいなら、俺だって……!!)


 そう意気込み、茶髪の男を睨み付けた……つもりだったが、もうそこには誰もいなかった。


(え?)


 どこに消えたんだ――と、サクファが疑問に思うのと同時に、耳元で声がした。


「お前の処分は後だ」


 同時に、アムルにされたのと同じように肩に手を置かれた。


「う、うわああああ!!」


 茶髪の男は既に目の前に来ている。

 そう気が付いた瞬間、サクファは闇雲に剣を振り回した。


 だが声が消えた時には、男の姿ももう無い。

 剣は空しく空を掻いただけだった。


「ち、くしょう!!」


 サクファはただ妹を守りたいだけだった。


 そのために、異世界から来た人間に毒を盛ったこともあった。

 そのせいで国が滅ぶかもしれないとわかっていても。


 だが、実際にはサクファはただ言われた通りにする以外に何も出来なかった。


 自力で妹を助けだすことは出来ず、足止めすら出来ない。


 相手にすら、されていない。


(このまま何も出来ないのか!?)


 そうだとしても、こんな所でただ蹲ってもいられない。

 妹を守るため、僅かでも行動をせずにはいられなかった。


「くそおおおお!!」


 サクファは乱暴に目元を拭うと、必死で走りだした。

 身体強化の魔法のお陰で、いつもよりずっと速く走ることは出来る。


 だがそれでも、茶髪の男にすぐには追い付けそうになかった。


(それでも、例え少しでも……!!)


 自身に何が出来るのかまだわからないが、ただ妹の為、サクファは走り続けた。

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