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8話 妹ちゃん奪還作戦開始しました(アムルが) (3)

 国境都市ユノアの片隅にある小さな宿屋の小さな部屋には、茶髪の男と全身真っ黒な男とサクファとヒロネの四人がいた。

 四人しかいないはずだった。


「おい。何を……」


 不審な動きをしたため、茶髪の男はサクファへ近づこうとしたが、それよりも先に空間に黒い穴があいた。


 一瞬、その光景に茶髪の男は目を疑ったが、それは確かに宙に"穴があいた"としか表現が出来なかった。

 サクファが持っていた呪符を中心に、空中には黒い染みのようなものが広がっていたのだ。


 茶髪の男が戸惑い動きが止めた瞬間、その"穴"から腕が伸びた。


「ちっ……!」


 何が起きたのかは理解出来ないが、何かマズイことが起きていることくらいは理解出来る。


 その腕を阻止しようと茶髪の男は駆け込むが、それよりも先に腕はサクファとヒロネの二人を掴む。


 そして、二人がその中へ引き摺り込まれるのと同時に、穴も小さくなり、消えた。


「くそっ、空間魔法ってやつか!!」


 茶髪の男にとってそれは初めて見る現象であったが、何が起きたのか予想することは出来た。


 やはり、サクファはエアツェーリングの側につき、人質となった妹の救出を優先したのであろう。

 ここまでは、それほど意外でもない。


 しかし、"空間に穴をあける"などという魔法はそうそうお目にかかれるものではない。

 「この国で最高の魔法使いは空間に関する魔法を使える」という噂くらいは聞いたことがあったが、いざそれを目の当たりにすると驚きや戸惑いが隠せない。


「落ち着いてください。空間を渡るなどという魔法はそう簡単に使えるものではありませんよ。ましてや、ここでこの時間に対面する、ということは少し前にこちらから通達したばかりではないですか」


 全身真っ黒な男は焦った様子など微塵も見せず、むしろ面白そうに言った。

 その態度に少しばかりイラついたのも事実だが、言っていることは間違ってはいない。


 努めて平静を装いながら、茶髪の男は尋ねた。


「……つまり、何が言いたいんです」

「あのレベルの魔法を事前の準備もなく実行した、ということは魔法を綿密に組む暇はなかったでしょう。それに、あの手の魔法は遠ければ遠いほど消費魔力が大きいはずですし、完全に照準を合わせることは不可能だと考えるのが妥当です」


 茶髪の男にとって参謀役のこの男は苦手な相手だが、なるほど確かに言っていること自体には一理ある、と素直に認めた。

 そして、瞬時に様々な可能性について考える。


 遠方に関わる魔法を発動する場合、呪符などの目印を目的地に置き、互いに引き合わせる力を利用して場所を特定する方法が一般的だ。

 だが、遠くなれば遠くなるほど、消費魔力が増えるだけでなく、照準を合わせることも難しくなり誤差が生じる。


 いくら敵国の魔法使いが優秀であっても、人と人の間、などというピンポイントで効果を発生させることはさほど遠くない位置でなければ不可能だろう。


 となれば、この街に来ている魔法部隊の大隊長は本物であり、ソイツが街の中で魔法を発動させたことはほぼ確実だ。


 そして、もうひとつ重要なのは、穴から出て来たのはあくまで腕だけであったことだ。


 これが"穴から完全に人間が出て来て、二人を回収した後また別の穴をあけた"という状況下ならば、最初に魔法を発動させた場所と三人が移動した先が違う可能性がある。

 だが、あの穴が"外から中へ入った時は出た時とは別の場所に繋がる"と仮定するならば、飛び出した腕を退いた際に別の場所に移動し、そのまま腕だけが切り落とされることになってしまう。


 空間魔法については知らないことばかりだが、この件に関しては"魔法使いがいる場所"と"二人が連れていかれた場所"が同一である、と考えるのが普通であろう。


 つまり。


「……魔法を発動した者はまだこの都市内にいて、そこにアイツらも一緒にいる。ついでに言うなら、魔法使いは魔力をある程度消費した状況である、か」

「ご明察です」


 ならば、街を出られる前に行動した方がいい。

 思考していた時間は長くはないはずだが、それでも出遅れてしまったのは否めない。


 茶髪の男はそう判断すると、参謀役の男には目もくれず宿の窓から飛びだした。


 速度を上げる魔法を自身に掛けながら、相棒である黒髪の男へも魔法で連絡を入れ軽く状況を説明する。


『とにかく、西の出口へ向かえ! その途中で奴らがいないか魔力を探るのも忘れるなよ!』

『りょ、了解!!』


 必要最低限の連絡だけ入れると、茶髪の男は速度を上げた。



***



「走るぞ、急げ!」


 黒い穴を通り過ぎるのとほぼ同時にアムルはヒロネとサクファに呼び掛けた。

 ヒロネは何が起こったのかよくわかっていない様子だが、兄であるサクファに促され細い脚で走りだす。


「ヒロネ、こっちだ!」


 三人が今いる場所は、茶髪の男が予想した通り国境都市ユノアの中であった。

 それも、先ほどまでサクファ達がいた宿とはさほど遠くはない。


 今は宿も敵の姿も見えないが、真っ直ぐにこちらに向かって来られれば追いつかれるのは時間の問題だろう。


 しかし、人質として長い間捕まっていたヒロネは、体力筋力共に大きく低下していた。

 少し走っただけで脚はもつれ、息も大きく上がる。


「はあ、はあ……ま、待って……お兄ちゃ……きゃっ」

「すみません、少し我慢してください」


 足が止まりそうになったヒロネを、アムルは抱え上げる。

 人を一人抱えたままでは走る速度は遅くなるが、ヒロネに合わせるよりは速い、と判断してのことだ。


 自身とサクファには身体能力を上げる魔法をかけ、今まさに駆け出そうとした時だった。


「見つけたぞ!!」


 離れた場所から、茶髪の男が怒鳴る声が聞こえた。

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