7話 国境都市ユノアに行きました(アムルが) (3)
おお……すごい。都会だ。
今のアムル視点映像は、広くて綺麗な街並みを映し出している。
そして、前もって聞いていた通り、この国境都市ユノアは城下町より発展していて、人も多い。
さすがに異世界から来た俺からしてみれば"現代的"とまでは言えないし、人の量も渋谷の方が多そうだな、とは思う。
でも音声もない映像だけでも、賑やかそうだな、という雰囲気は伝わってくる。
あれ、道の端に並んでるのって、街灯……もしかしてガス灯って奴じゃない?
城下町にはあんなものないから、魔法が使える奴でもなければ夜中はランプ必須っぽいからな。"街灯がある"ってだけで、すごく近代的に見える。
この世界は基本的に昔のヨーロッパ風といえばいいのか、RPG風な雰囲気の文化だが、南の帝国さんのせい(おかげ?)で、近代的なものもちらほらと混ざっている。
電気はさすがにないみたいだけど、街灯があるのもその影響かもしれないな。
ちなみに、アムルとアリアさんの旦那さんは、今は大通りを歩いているみたいだ。
広い道の脇には、いろんな店が立ち並びいろんな看板が出ている。
文字を翻訳する場合は基本的に石を近づけないといけないから、宙に浮いた映像の文字は訳されずこの大陸の言葉のままだ。
その中でも一際大きなものを指しながら、隣に立つアリアさんに聞いてみた。
「あの看板って、"宿屋"であってますよね」
「はい、あってますよ。もともと宿場町だった名残で、他の地域よりも宿が多い街なんです」
ふっ……この国の文字を勉強した成果がさっそく出て来たようだな。
さすがに全てを読めるわけになったわけではないが、翻訳石を使わなくても簡単な単語くらいなら少しはわかるようになってきた。
もしも俺が現場にいたなら、城下町に初めて来た時以上にキョロキョロと見回して、各看板を読もうとしていたところだろう。
ちなみに、大都会っぽい雰囲気ではあるが、二人の進行先のさらに向こうには大きな山が二つ見える。
その合間には道が通っていて、その先には二つの国がある。らしい。
今回の目的はあくまでこの都市自体だから出国する予定はないけど、正直、俺としては山の向こうにも興味はある。
ノイリア王国さんとの戦争が一段落したら冒険者業をやってみたいな、と密かに思っているが、もしその夢が実現したらここから旅立つことになるんだろう。
単に発展している都会な国だから、ってだけでなく、大陸側への入り口って意味でも夢と希望いっぱいって感じの場所だな。
実際、歩く人々の中には「冒険者かな?」といった雰囲気の厳つい兄ちゃんもいれば、この国では珍しい金髪とかカラフルな色合いの髪をしているお姉ちゃんもいる。
見てるだけの俺もわくわくソワソワしてきた。
ついでに、猪のイノリもたくさんの人間を不思議そうに見上げている。
『じゃあ、予定通り一度通信を切るからな』
『お、おう』
もうちょっと見たかったけどな……と少し名残惜しく思いながらも、脳内に響いてきたアムルの通信に答えた。
宣言通り、宙に浮いた映像がパッと消える。
残念ではあるけど、このユノアの偉い人に会う時に「なんで通信(盗聴)なんかしてるんだ!」……なんて方面で揉めないように、っていう理由だから仕方がない。
一応、ユノアはこの国の一部ではあるんだが、必ずしも女王様側の方が立場が上ってわけでもないらしい。
例えば、反対側の隣国と戦争状態になっているからこの街からも兵を出して欲しい……なんて要請する場合は、金銭とかなんらかの対価を払わないといけないとのことだ。
さらに、これは俺も最近聞いたことだが、今のところ女王様の立場は微妙みたいだな。
今すぐ反乱を起こされても不思議じゃないくらい本格的に嫌われてる……というわけではない。
だが、国王が代替わりしたのは比較的最近のことらしく、まだユノア側の人たちもティナ王様が信用に足る人なのかどうか判断しかねているっていうのも事実らしい。
この国も王国であり王様が一番偉い以上、その王次第でこの都市も良い方にも悪い方にも変化する可能性がある。
別にティナ王様側としてはこの街をどうこうしようと今のところ考えているわけではないが、ユノアの人達が警戒するのも仕方がない。
国側の人間であるアムルは、揉め事を起こすようなことは避けたいところだ。
だからこそ、議会で盗聴していると勘違いされかねないことをするわけにはいかない。
……と、理解はしているんだが、やっぱりもう少し色々見てみたかったなー。
議会の建物(?)とやらの内装もどうなってるのか気になる。
気になるけど仕方がない。
「アムルが仕事を終わらせるまで、俺は本でも読んでますね」
「でしたら、私はお掃除を……それとも、お夕飯を代わりに作りましょうか?」
「やめてください」
アリアさんの提案は速攻で却下させてもらった。
まだ夕飯まで時間が早すぎるからでも、料理を作るっていう数少ない趣味を取られたくないからでもない。
アリアさんの料理とか怖すぎて食べたくないだけだ。
「さっきイノリも爆走してましたし、毛が落ちてるかもしれないですから、良ければお掃除、お願いします」
「ふごっ!?」
猪ではあるが、人間の言葉を理解してるっぽい女の子のイノリにしてみれば、「毛が抜けてるかもしれないから掃除してくれ」って言われたのは少しショックだったみたいだ。
悲しそうな眼でこちらを見上げてきている。
なんかすまん。
「いやいやお前が悪いわけじゃないからな」
「きゅう……」
イノリをご機嫌をとるように頭を撫でてやったら、小さく鼻を鳴らした。
「そうですね、イノリちゃんの毛でしたらそれほど落ちてはいないでしょうし、もし落ちていても問題はないと思いますが、念のためお掃除しておきますね」
なんか言い訳っぽい言い方ではあるが、アリアさんはにっこりとさわやかに笑って掃除道具を取りにいってくれた。
……よかった、料理を作られなくて。
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