表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/100

1話 異世界に拉致されました (5)

 あーもうどうでもいいや。


 それが、その時の俺の感想だ。


 突然、見知らぬ場所に拉致られて、さらに見たこともないデッカイ猪に追われ、更に中二病とホモの疑惑がある奴が、俺の手を握って何か言ったら、猪は急に倒れた。


 そういや、さっきここが異世界だとか言い張ってたな。


 なんかもう、俺のキャパシティを越した。


 異世界だと本気で信じた訳じゃないけど、何かとんでもないことが起きてるのだけは間違いなさそうだ。


 本当の俺は今も眠ってて、ただ夢を見てるだけってならいいけどな。



「怪我はないか」

「えーえーおかげさんで」


 目の前にいる男――ここに俺を連れてきた張本人であり、猪を倒した(?)やつは、一応は俺のことを心配するように見やった。


 ……念のため聞いておくか。


「さっきのは、何なんだ?」

「ん? 魔法のことか?」


 魔法って言いきられちゃったよ。

 正直信じたくはないし、手品だと思いたい。


「ちなみに、さっきのは上位浄化魔法だ」

「あ、はい。そっすか」

上位浄化魔法(カサルシィ・ブリーゴ)て表記してもいいな」


 何だ表記って。

 でも確かに上位浄化魔法感は何となく増したな。

 何故だ。


 ん? いやその前に。


「浄化魔法? 敵を殺す魔法じゃなくて?」

「ああ、アイツも死んではいないぞ」

「えっ」


 その男はそんな呑気なことを言いながら、猪を指した。


 おいおい、生きてるならまた襲ってくるかもしれないだろ。

 立ち話なんてしてないで、さっさと逃げるべきじゃないのか?


 俺が警戒していると、黒くて硬い毛に埋もれたつぶらすぎる猪の目が開いた。

 そして何度か瞬きしたあと、ゆっくりと立ち上がる。


 眼の色は赤だった。なんて感心してる場合じゃない。


「おい、逃げた方が……」

「ぶひっ」

「うわっ」


 猪は鼻を鳴らしただけだったが、つい俺は情けない声を上げてしまった。


 目の前の男の方は、警戒はしているみたいだけど逃げるそぶりは見せない。


「…………」

「ど、どうしたんだ」

「……大丈夫そうだぞ」


 戸惑う俺とは対照的に、男も猪も大人しい。


 どうしようかと思っていると、猪は「ふごっ」と鼻をまた鳴らして俺に近づいてきた。


 内心めちゃくちゃビビってるんだが、安心しろとばかりに、男は俺の肩に手を置いて頷いている。


 そして猪はきゅうきゅうと鼻を鳴らしながら、俺の手にじゃれついてきた。


 じゃれつく、という表現で大丈夫だと思う。

 濡れた鼻を押し付けながらも、襲ってくる気配はない。


 ……ちょっと可愛く見えてきたかも。

 巨大じゃなければ。


「猪って、こんな人に懐く生き物だっけ?」

「全く懐かないわけじゃないぞ。ただまあ、こいつはただの動物というよりモンスターに近い種類だからな」

「は? モンスター」

「ああ。かなり賢いし、教えれば人間の言葉も理解するぞ」


 喋る方は無理だがな、とか言って笑ってるが、なんかそれ以前の単語が混ざっていたような。


 コイツがモンスターかどうか、じゃなくて「そもそもモンスターが存在するの?」と聞きたくて仕方がない。


 でももう今更か。

 ここが異世界(仮)って前提で話を進めるしかないのか。


 俺は心の中で盛大にため息を吐きながら、とりあえず確認してみた。


「で、そのモンスターが何で浄化魔法で倒せる……じゃなくて、懐かせられるんだ?」

「いや、懐かせたわけじゃないぞ」


 ソイツはそう言うと何かを考え始めた。

 雰囲気としては、どこから説明しようか迷ってる、といったところだ。


 その間も猪は俺にじゃれつつ、大人しく待っている。かわいい。


「一応確認しておくが、お前の世界では『魔法』って概念はないのか?」

「概念……と言われるとアレだけど……まあ、おとぎ話とかゲームの中だけの話だな」

「つまり、実際に魔法を使えたりはしない訳だな」

「まあそうなる」


 そりゃそうだろ。

 と言いたいけど、ここは異世界(仮)だから仕方ない。と思うしか仕方ない。


「魔法っていうは、主に魔力を練って変化させ、様々な効果を生み出すものだ」

「様々な効果?」

「簡単なものでは、火を出したりとか。他にもあるが……オレが存在を知ってる魔法だけでも、全て説明していったら、まる1日あっても足りないだろうな」


 そんなことを言いながらソイツは笑った。

 お前がそれでもよければ、ひとつずつ説明してもいいんだが、とも。


「まあ、とりあえず『色々出来る』ってだけ理解してくれればいい」

「うん」


 そこまでは普通……というか、俺が知ってる魔法と一緒だな。

 ゲームとかマンガの中でのお話だけど。


「で、今回この猪は……何らかの原因で、悪いものに汚染されたわけだな」

「悪いもの?」

「そうだな……よくある例として、戦場で死んだ兵士の負の念、とか」


 あー『状態異常:呪い』とか『状態異常:混乱』とかそんな感じか?

 なんとなくわかったような、わからないような。


「それを浄化魔法……上位浄化魔法(カサルシィ・ブリーゴ)で取り除いたわけだな」


 何故言い直した。

 なんてツッコミはとりあえず置いておいて……。


 元戦場あたりで呪われて混乱した猪モンスターが暴れたけど、呪いを"浄化"したから正気に戻った、とそんなところか。


「じゃあ、何で今は俺に懐いてるんだ?」


 何か真面目な話をしているらしいと悟ったのか、猪モンスターは話してる途中で手にじゃれつくのは止めていた。


 そんな猪の目を見てみたら、不思議そうに顔を傾げた。


 本当にかわいいな。

 猪ってこんなかわいい生き物だっけ。


「それは、お前のおかげで正気に戻れたってわかっているからだと思うぞ?」

「は?」


 俺は何にもしてないぞ。

 強いて言うならコイツと手をつないだことか。


 ……まさか手をつないだから?


「本来、この魔法はとてもじゃないが、あんな簡単に起動できる魔法じゃないんだ。何しろ『上位』魔法だからな」

「それで? それなら今回は何で簡単に起動したんだ?」


 俺が聞くと、ソイツはまた、イタズラを考えた子供のような笑みを浮かべた。



「お前の魔力を借りたからだよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twitterにて更新情報等を呟いてます。 → @Mi_Tasuku
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ