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7話 国境都市ユノアに行きました(アムルが) (2)

 アムルにはこの国の歴史に関する本から娯楽小説まで色々なものを持ってきてもらっているが、最近の俺は子供向けの絵本を主に読んでいる。


 子供向けだからって油断しちゃいけない。

 さすが異世界だなあ、と思う話もあれば、これは向こうの世界でも似たようなのがあるなあ、と思う話もあって、なかなか興味深いし面白い。


 例えば「エルフとおじいさん」なんてタイトルの話があった。



  ある日、薪を集めるために山に入ったおじいさんは迷子になった。

  そして、そのおじいさんは偶然エルフの里へとたどり着いた。


  おじいさんが事情を話すと、エルフたちは帰り道を教えてくれて、十分な食事も与えてくれた。

  ただし「絶対にこのことは誰かに言わないでくださいね」とエルフたちに念押しされた。


  「ああ、約束するよ」と言ったおじいさんは無事に山を下りることが出来た。

  おじいさんはもう帰ってこないかもしれないと思っていたおばあさんは驚き、おじいさんに聞いた。


 「どうやって帰ってきたんだい?」

 「やさしいエルフたちに帰り道を教えてもらったんだ」


  約束を忘れていた――というより、単純に嬉しくて舞い上がっていたおじいさんはついそう答えてしまった。

  それをたまたま聞いていた隣のおじいさんは、山へ入りエルフの里を探した。


  エルフたちは不思議な魔法の力を使い、さらに金銀財宝まで持っている、という噂を隣のおじいさんは知っていたからだ。


  隣のおじいさんは迷子になったおじいさんと同じ山へと入り、ついにエルフの里を見つけた。


 「さあエルフども、俺をもてなせ!」


  そう言って隣のおじいさんは、エルフたちに傍若無人な態度をとった。

  ほとほと困ったエルフたちは隣のおじいさんを不思議な魔法で里から追い出した。


 「もう二度と来るな。次に来たら今度は命を奪うぞ」


  そう言われた隣のおじいさんは、ひえっと声を上げると村へと逃げ帰った。


  お前のせいでひどい目にあったじゃないか!……と、隣のおじいさんから顛末を聞かされたおじいさんは、再び山へと登った。


  自分のせいで恩人であるエルフたちに不快な思いをさせてしまったことを謝ろうとしたのだが、そこにはもうエルフの里はなかった。


  申し訳ないことをしてしまった、と打ちひしがれるおじいさんの耳に、どこからともなくエルフの声が聞こえてきた。


  「嘘つき」――と。



 とまあ、こんな感じの話だ。

 なんか「舌きりすずめ」とか「こぶとりじいさん」みたいな話だなあ、と思ったが、相手がすずめでも鬼でもなくエルフなのが異世界感があって、何となく俺のお気に入りの話だ。


 今から読もうとしている絵本もその手の童話……ではなく、こっちは「明らかに子供に言葉を覚えさせるためのものですよね」ってタイプの本だ。

 日本語で例えるなら、あいうえお絵本とでもいえばいいのか、「『あ』のつく言葉」みたいなのがいくつか載っているようなやつだ。


 どうせ暇だし。って程度の理由だが、最近はこの国の言葉を勉強している。


 受験生が赤いシートで答えを隠しつつ勉強するような感覚で、翻訳用魔石で文章を訳したり訳さなかったりしつつ絵本を読んでみたり、発音とかわからない部分はアリアさんに教えてもらったりしつつ、だ。


 今アムルが向かっている"ユノア"も地図に載っている文字くらいなら、何となく読めるようになってきた。

 読めるっていうか形を覚えたって表現した方が正しいかもしれないが。



 ちなみにこのユノアは"国境都市"とも呼ばれていて、文字通り国境付近にある都市だ。

 とはいえ、この国境は現在戦争状態になっているノイリアとは無関係だ。


 俺が人柱をしているエアツェーリング王国は「東西に延びた半島の入り口を塞いでいる長方形っぽい国」といった形になっている。


 半島の先端にあたる西側にはノイリア王国しかない。

 逆の大陸側にあたる東側には二つの国と接している。


 東側の二つの国とは、不可侵条約とでも言えばいいのか「他の国と戦争になってもお互い助ける必要はないけど侵略もしませんよ」って主旨の取り決めをしているらしい。


 だから今のところ、この二つの国は戦争とは無関係だ。今のところは。


 今は戦争と直接は関わりがない二国との国境付近にある国なだけあって、交易は盛んらしい。


 大昔は"国境付近の宿場町"と言った方がイメージとしては近かったみたいだが、今となっては"国一番の交易都市"にまで発展したようだ。


 城下町もそれなりに活気があるが、それ以上にユノアは発展しているし人が多い、とのことだ。


 そんな状況だから、元々意欲と金のある奴はこの都市に集まりやすい状況だったみたいだ。

 いや、金のない奴らですら一攫千金を狙ってやってくる。


 そこへ「戦争中のノイリア王国とは出来るだけ離れた場所に避難しよう」なんて考えて移動してくる人がさらに増えているみたいだ。



 そんな大量の人々がいるからこそ、紛れ込むことがたやすい、と当のノイリア王国の奴も考えたんだろう。


 この都市で、人質になっている妹ちゃんと俺に毒を盛った奴が対面する予定だ。

 木を隠すなら森の中ってことだな。


 当然といえば当然だが、その対面予定の兄の方は一緒には行動していない。

 いまお供として一緒にいるのは、兵士であるアリアさんの旦那さんだけだ。


 今回、妹ちゃんと対面する予定になっているあいつは「毒を盛ったことで一度は捕まったけど逃げ出すことには成功し、今も情報収集を続けている」ってことになってるからな。

 一緒に行動したら、それが嘘で軍の奴に手を借りようとしているとバレバレである。


 だからアムルは先に都市へと向かった形だ。

 あくまでたまたま別件で訪れただけですよ、ということにしたいわけだな。

 ……向こうさんがどう判断するかまではわからないが。


 先じゃなくて後で向かうとか、対面するその瞬間に突入するためギリギリまで都市の外で待機するとか、そういうことは面倒なアレコレがあって難しいらしい。



 そもそも、この国境都市は一応エアツェーリング王国に所属しているとはいえ、国の偉い奴が勝手なことは出来ない。

 詳しい制度は俺も理解出来ていないが「ある程度は国に税金を納める代わりに、国からの指図は受けませんよ」みたいな認識でだいたい合ってるみたいだ。


 だから、国側の人間が都市内やその近郊でドンパチする可能性があるなら、筋を通しておかないと後で面倒なことになりかねない。


 その許可というのか報告というのか……先にその辺りの話をつけるために早めに向かったってのが実際のところだな。

 正確には、既に書面で説明してあるから、実質ただ挨拶にいくだけみたいだが。



 そんなことを再確認しながら、ちらりとアムル視点動画を見上げてみれば、遠くの方に都市みたいなのが見えてきた。

 村とか集落っぽいものは道中でも見たが、これは遠くから見ても他より一際デカい。

 土地的にも城下町よりも広そうだ。


「もしかして、アレが国境都市ユノアですか?」

「あら、もう見えてきましたね。あちらがユノアですよ」

「ふご?」


 俺が確認すると、アリアさんは肯定してくれて、爆走を終えたイノリも映像を見上げた。

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