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6話 俺の命を狙う奴が来ましたが帰っていきました (6)

 俺が引きこもっている人柱部屋には、いつものように映像が浮いている。

 そこに映し出されているのは、草原とアムルの方へ向かってくる数人の村人っぽい人間だ。


 最初は遠かったから"じいさんを含む数人の村人"としかわからなかったが、少しずつ近づいてくるにつれて年齢層とか人数もはっきりしてきた。


 先頭を急いで進んでいるのは、アムルがスミア村に向かっていた時に絡んできたおじいさんだ。


 あの時はクワを持ってたけど今回は持ってない。

 眉間にシワを寄せて口を引き締めて、怒ってるようにも不安そうにも見える顔をしている。


 他にも、いかにも"村人"って雰囲気の中年の男女がこっちに向かってきていた。

 実際はどうか知らないけど、ぱっと見の印象は"おじいさんの息子夫婦"だ。


 この二人は、一応じいさんを引き留めようとしているみたいだが成功はしていない。

 後ろでオロオロしながら、こちら(正確にはアムルの方)を見ている状態だ。


 対処をどうしようか迷ったのか、少しだけアムルは立ち止まっていた。

 だがすぐにアムルはその村人たちのところへと向かっていく。


 その様子を見たじいさんは、アムルが声をかけるよりも先に大きな声を上げた。


『おおい!! 村は……村は、取り戻せたんでしょうな!?』


 ざっざっと歩く音や風の音と同時に、その言葉が俺のもとに届いた。

 今回もアムルが気を利かせて魔法の通信で音を届けてくれたみたいだな。


 ちなみに、じいさんは『取り戻せたんでしょうな』と言いつつ、不安そうな表情だ。


 そりゃあ、一部隊率いて村まで向かっていった奴が、わりと早めに一人で戻ってきたら失敗したと思うだろうな。


 アムル自身は城へ戻る途中ではあったけど、魔法で作った鷹もどきはいまも村を見渡せる木に止まっている。

 魔法を作った本人と遠く離れているから細かい操作とかは出来ないらしいけど、当初の目的である偵察だけならば問題ない。


 そして、その鷹もどき魔法のおかげでこの部屋からスミア村の様子を見ることが出来るわけだが、いまのところは平穏そうだ。


 アムルが離れたことで「あの部隊長さえいなければ勝てるはず――!!」なんて、隙をみて敵兵たちがやっぱり抵抗するって展開もありえるかと思ったが、少なくともいまはそんな様子はない。


 でもそんなことを知らないじいさんは不安だろう。


 息子夫婦っぽい人達が、偉そうな軍人に食ってかかるじいさんを形としては止めようとはしている。


 とはいえ、実力行使で引き剥がそうとしているわけではないし、ちらちらと不安そうにアムルを見ている。

 村がどうなったのか、この夫婦も気にはなっているんだろう。


 さて、アムルはどうでるかな、とか俺が思うのとほぼ同時にアムルが言った。


『脅威は完全に去った……とは言い切れません』


 お。予想よりも慎重な返事だな。

 「もう大丈夫です! 安心してください!」とか言った方がじいさんも安心するだろうに。


 事実、じいさんは眉をハの字にして、夫婦らしき二人も不安そうに顔を見合わせている。


『ですが、決して悪い状況でもありません。今すぐに……とはいきませんが、軍の者を護衛として帯同していただければ、遠からぬうちに戻ることは可能になると思われます』


 なんかまだるっこしい言い方だな。曖昧な感じが異世界人のくせにか日本の偉い人っぽい感じもする。

 ……と思ったところで、そういえばこいつ軍の偉い人だった、と今更ながら思い出した。


 ある程度立場がある人間だから、まだ決まってもいないことを勝手に断言するわけにはいかない、ってところか。

 「明日にも帰れると思いますよ~。あはは~」なんて適当なこと言って、いつまでも村へ戻れなかったら責任問題になるかもしれないもんな。


 ……異世界でも、お偉いさんはそういうことを考えないといけないのかな。大変だな。


『遠からぬうち……っていつ頃ですか?』


 さっきまでは、ちらちら見るだけで直接アムルには話しかけこなかった奥さんが不安そうに尋ねた。

 まあ、あの言い方じゃ不安になるよな。


 奥さんが口を開いたことに便乗するように、旦那さんもさらに畳みかけだした。


『悪い状況じゃないってことは、まだ村は取り返せてないんですか? いま、村はどうなって……』


 じいさんだけじゃなく、息子夫婦らしき二人もぐいぐいアムルに迫っていく。


 アムル視点の映像だから相変わらずアムル自身の表情はわからないけど、俺だったら正直ゲンナリしてると思う。

 でもなんとなく……アムルは嫌な顔をすることもなく、安心させるように軽く口元に笑みを浮かべているような気もする。


 まだ長くもない付き合いだが、それくらいの予想はなんとなくつくようになってきた。


『どうなったのか、まだ詳しくお話出来る状況になっていません。すでにほとんど村を取り戻せた状態ではありますが、敵兵がまだ村に残っているのも事実です』


 確かにスミア村を占拠してた奴らは降伏はしたけど、まだ物理的には村にいるから嘘ではないな。


 村を取り戻せた、と聞いた奥さんは少しだけ安心した表情になったが、敵兵がまだ残ってる、と聞いた旦那さんはまだ不安そうだ。


『まだ敵がいるって言うなら……なんであなたはここにいるんですか? もしかして、増援を呼ぶとか……いや、そもそもほとんど村を取り戻せたって言葉だって、信じていいんですか?』


 なんでアムルがここにいるかって……一番の理由は俺を狙った襲撃者が来たからだけど(ちなみに、その襲撃者はすぐに帰った)


 そんな事情を知らない旦那さんから見れば、確かにひとりで城に戻ろうとしている姿は不審だな。

 最悪、他の兵が全員殺されてひとり逃げ帰ってるところに見えるかもしれない。


 さて、今度はアムルがどう出るか……なんて考えていたら、アムルではなくじいさんが動いた。


『ええい、お前は黙っとれ! 今はワシがこやつと話しておるんじゃ!!』

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