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6話 俺の命を狙う奴が来ましたが帰っていきました (5)

 つい先程までエアツェーリングの王城へと潜入していた二人は、今は街の外の草原を走り抜けていた。


 すでに城から離れてはいるが追手が来ないとも限らない。

 少しでも早く、少しでも遠く、追跡から逃れるために草原を急いでいたが、ふと茶髪の男が口を開いた。


「くそ……まさか、まともに潜入すら出来ないとは……」

「それより、鼻血をどうにかしろよぅ……」


 茶髪の方の男が気難しそうな顔で言うが、戦闘中で受けた怪我はそのままだ。


 その様子に呆れながらも、黒髪の男は魔法で治療しようと手を伸ばした。


「ん? ちょっと待てよ。止まってくれ」

「なんだ。早くしてくれ」


 黒髪の男の言葉に茶髪の男は急かすように答えたが、言われた通りに足は止めた。


 同じように足を止めた黒髪の男はもう一方の男へと手を伸ばす。


 その指先には魔力が集まっていた。

 もしもこれが敵対する相手ならば、攻撃魔法で吹き飛ばされていたかもしれない。


 しかし、相手がそんなことをするはずがないと知っている男は、じっと待っていた。


 その指先が鼻の先に触れるか触れないかの位置でしばらくとどまる。

 鼻から流れて出ていた血はすぐに止まった。


 黒髪の男はそれだけで魔法を終わりにはせず、今度は細剣で薄く裂かれた皮膚へと手を移動させた。


 そこに血が滲み出ているものの、傷としては大したことはない。

 量だけならば、鼻から溢れた血の方が多いだろう。


 それでも、男は真剣な表情でそこに手をかざした。


「ここから毒素が入ってる。多分、剣に毒が塗られてたんだ」


 ぽつりと言うと、今度は傷口に掌を当てた。

 鼻血の時とは違い傷を手で覆うように触れられ、茶髪の男は少しばかり眉を顰める。


 ただ皮膚を塞ぐだけならばすぐに出来るのだが、そこから毒を抜くため、傷口はあえてそのままにした。


 魔法で精製された毒を処置する場合はまた違った難しさがあるのだが、傷口に直接触れる必要性はない。

 だが今回のような物理的な毒の場合は、物理的に傷口に触れ魔法を行使する方が効果的だ。


 そのことは茶髪の男もよくわかっているため、じっとそのまま待っていた。

 黒髪の男も、相手の身体が強張っていることに気が付きながらも、毒素を完全に抜くため更に手を押し付けた。


「……よし、これで大丈夫」


 しばらくして、男は最後に一度傷を撫でてから手を離し、手についた何かを払うように手を何度か振った。

 茶髪の男が負ったはずの傷は、完全に消え去っている。


「終わったな。いくぞ」

「あ、待てよ」


 その作業が終わったことを確認した茶髪の男は再び走り出した。

 もう一方の男もすぐにその後を追う。



 茶髪の男は、自身の傷を癒し毒も取り除いた男に対して、特に礼を言わなかった。


 二人にとっては、どちらかが傷つけばもう一方が手助けすることは普通のことだ。


 戦闘や攻撃魔法は得意だが治療魔法が苦手な茶髪の男が傷つけば、黒髪の男が傷を癒す。

 治療や補助の魔法は得意だが単純な攻撃力は決して高くない黒髪の男が何者かに襲われれば、茶髪の男が救助に向かう。


 それを常に繰り返している二人にとってはそれが当然のこととあり、いつしか毎回礼を言うことはなくなっていた。



「多分、あの毒はそれほど強くないやつだ。それも少量だったから、ほとんど体調に変化もなかったんだろう。でも、あれを何度も受けてたら……」


 走りながらも、黒髪の男は器用に口を開いた。


「それなら放っておいても良かっただろう」

「いやだめだ」


 茶髪の男の言葉に、強い口調で黒髪の男は否定した。


「少量の毒だろうと、悪いものをずっと身体の中にいれておいたら何があるかわからない。短期間なら変化がなくとも、放っておいたら肉体にどんな支障があったかわからないぞ」


 茶髪の男は冷静そうに見えて無鉄砲なところがあるが、黒髪の男は慎重だ。

 心配しすぎだ、と茶髪の男は何度か思ったこともある。


 だが、それで救われたことも何度かあるし、自分の身を案じてくれているのだ、ということもよくわかっている。


 ふ、と軽く笑ってから、茶髪の男は答えた。


「わかった。いつもありがとうな」

「なんだ? 突然」


 礼を言われた黒髪の男は気味悪そうに、もう一方の男を見た。


 その視線は受け流してから、茶髪の男はさらに言った。


「それより、次の予定はわかっているよな」

「ああ、もちろん」


 周囲に他人がいる気配はないが、念のため二人は具体的な"予定"の内容は口にしなかった。


「それなら、さっさと戻るぞ」

「了解!」



 二人は目配せし頷きあうと、さらに速度を上げた。




***




『いま連絡があった。侵入者をガイス達が追い返したみたいだ』

『えっ。早くない?』


 人柱部屋でそわそわしていた俺のところに、アムルから報告が届いた。


 少し前に、俺の命を狙う系侵入者がいるって連絡があって警戒してたんだが……あれから30分もしないうちに、侵入者は帰ったらしい。


 来たと思ったら帰るとか、そいつらは何がしたかったんだよ……と言いたいのが本音だが、多分「思ったよりも早くガイスさんに駆け付けられたから、無理はせずさっさと撤退した」ってところなんだろう。

 もしくは「ガイスさんが強すぎたから計画は中止した」とかか。


 さすがに「侵入者が現れたって話自体がアムルの嘘」って可能性はないだろう。

 まだそれほど長くない付き合いだが、そんな嘘をつくような奴ではない、と思う。


 とにかく、経緯や理由はどうあれ、暗殺者がここまで攻めてくる、なんて状況は避けられたならよかった。本当に。

 いやでも油断は禁物か。


『退いたフリをしてもう一度襲撃してくる……なんて、可能性はないよな?』

『同じやつが今日中にもう一度来る、って可能性は低いだろうな』


 俺の疑問に、アムルは考えるまでもなく即答した。


 遠い場所にいても『悪意のある奴』がいるかどうか、こいつにはわかるみたいだしな。

 侵入者とやらがどんどん城から離れていくのがわかる……とかなんだろうか。


『ちなみに、なんで来ないと思うのか理由を聞いてもいいか?』


 脅威が去って気分的にも余裕が出て来たこともあり、何となくのんきに聞いてみた。


 アムルも「いま忙しいから……」なんて言わずに、普通に答えてくれた。


『ガイスと一緒に侵入者と戦ったギルグによると、そいつらは最後に魔力嵐を起こしたらしい』

『魔力嵐?』


 何だかとても気になる単語だ。

 ギルグさんって誰ってのも気になるが、魔力嵐の方がより気になる。


『名前の通り、魔力を嵐のように吹き荒れさせる方法だ』

『はあ』

『空間の歪みを覚えてるか? お前をこの世界に連れてきた時に通った場所だ』

『ええと……ああ、あの黒い穴か!』


 俺は、アムルに足を掴まれ穴に引き釣りこまれた時のことを思い出した。


『そうだ、あの時のあの黒い空間で起こっていたのが一種の魔力嵐だ。侵入者がやったのは、自身の魔力であれを再現するようなものだろう』

『うへぇ……』


 あの時の俺はすぐに体調が悪くなって、すぐに気を失ってしまった。

 確かにあの時のあの感覚は、嵐にでも巻き込まれたみたいだったな。


 あれを再現なんてされたら、たまったもんじゃない。

 元は黒かった髪も、白……じゃない、銀になったくらいの衝撃だし。


『とはいえ、人間が一人や二人であの規模のものを作るのは不可能だろうが……規模が小さいものでも、五感を狂わせるくらいは容易だろうな』

『うわあ……』


 とてもじゃないが、俺はそんな攻撃を受けたくはないな。


『そんなものをガイスさんたちは食らったんだろ? 大丈夫なのか?』

『それは問題ない。魔力嵐も一瞬くらいだったみたいだしな』


 そうか。それなら良かったけど。


『ただし、それだけ派手に魔力を操るとなると、魔力嵐を起こした側も消耗は大きくなる。残った魔力だけで、人柱を捜した上で殺すのは無理だと判断したんだろうな』

『そ、そうか』


 俺を殺す、なんて言われて一瞬ドキっとした。


 それだけ消耗が激しい魔法(?)ってことは、相手にとって最後の手段だったのかもしれないな。

 それを使われなかったら、今もまだ俺の命を狙って城の中をうろついていたのかもしれない――なんて考えると、背筋も凍るしゾッとする。


 生きてて良かったなあ……なんて、しみじみ思っていると、アムルの少し不思議そうな声が聞こえた。


『ん? あれは……』


 え、なんだよ。

 まさかまだ侵入者とやらがいるのか?


 そんなこと考えながら、今も宙に浮いてるアムル視点の映像をふと見てみたら、アムルの疑問の正体もわかった。


「アリアさーん。あれって、あのおじいさんですよね?」


 俺が「侵入者は帰った」ってことをまだ伝えてなかったから、メイドのアリアさんは隣でいまだにそわそわしていた。


「えっ、あ、本当ですね。アムル様がスミア村へ向かう前に出会った方だと思います」


 侵入者とは関係ない話を急にふられて、少し驚きながらもアリアさんは答えてくれた。


 俺とアリアさんが視線を向けた先――つまりアムルの視界に最も多く映っているのは緑だ。


 城へ戻るため、アムルは草原を進んでいる。



 その中に、駆け寄ってくる数人の村人の姿があった。

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