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1話 異世界に拉致されました (4)

 えー何アレ。


 なんかもう、現実を直視する気にならず、そんな感想しか浮かばない。


 いま俺達がいる場所は、なんか山か森か、とにかくそんな感じの場所だ。

 目の前にはさっきまで俺が寝ていた小屋がある。


 そして、その小屋になんかデカい猪(?)が突進している。

 その大きさは小屋と大して変わらない。


 小屋自体、小さいとはいえあんまりだろう。


「逃げるぞ!」


 そう言って、ここへ俺を連れてきた張本人に腕をひっぱられた。

 もうこれ何度目だ。


「ぶぅおおぉおおおお!!」

「うわっ」


 でも今は文句も言ってられなさそうだ。


 何故かやたら興奮しているらしい猪と思われるものは、咆哮を上げこっちに向かって突進してくる。

 周りの木の枝がバキバキと音を立てて折れた。


「行くぞ!!」


 もたもたしてる俺の腕を引き、男は俺を引き摺るように走り出す。

 だが、俺とソイツの脚力には差がありすぎた。


「も、もっとゆっくり……」

「そんなことしてたら、アイツにつぶされるぞ!!」


 まあ、それはそうなんですけど。

 何故か俺たちに向かってまっすぐ猪は突進してくる。


 まだ距離はそれなりにあるが、逃げなければすぐに追いつかれるだろう。


 周りの木に引っかかろうが、速度はまったく落ちない。

 木をなぎ倒しながら、文字通り猪突猛進している。


「はあっ、はあっ……」


 走り続けるしかないとわかってはいるが、俺は足も速くないし、体力だってないんだ。既に息だって上がっている。


 慣れない山道で脚がもつれ、引き摺られているだけとはいえ、まだ倒れず走っていることの方が俺にとっては奇跡だ。


 逃げる方じゃなくて、あの猪をどうにかする方――倒す作戦でどうにかならないだろうか。


「あ」


 その時になって、この男が腰に剣を下げていたことを思い出した。


「そ、その剣で、倒せないか?」


 息もとぎれとぎれに聞く。

 返事は早かった。


「無理だ!!」


 なんでだよ!

 まさかコイツ、騎士様っぽい恰好しておいて弱いのか!?


「その剣は飾りか!!」

「飾りだ!!」


 飾りなのかよ!!


 状況を忘れて、漫才よろしくツッコミを入れたくなる。

 脱力して、走る気力すら一気に失せる。


 やっぱりただのコスプレなのか。


「だが、そうだな……試してみたいことはある」

「試して、みたい、こと?」


 俺とは違って息を乱していないコイツがなんか癪だが、何か方法があるなら縋るしかない。


「こうするんだ!!」


 そう言うと振り向き猪を睨めつける。


 そいつが急に止まったことで、俺は勢いあまって前に転びそうになった。

 その転びかけた俺を、そいつは引き寄せる。


 女の子ならここでキュン……としちゃうんだろうが、俺にはそっちのケはない。

 仕方がないと分かっているがちょっと不快。


 とか思ったら、そいつは俺の手を握りしめやがった。


「は!?」


 まさかお前、そっちの人なのか?

 その為に俺を拉致してきたのか!?


「ちょっ……離、」

「カサルシィ・ブリーゴ!!」


 何か叫びやがった!!


 え、マジでお前、何なの?

 猪方面に手を伸ばしつつ呪文(?)を唱えるとか……まさかホモの人じゃなくて中二病の人!?


 そんなことを思いながら顔を覗いて見たら、真剣な顔をしていた。

 俺の反応の方がもしかして間違っているのだろうか。


 ちょっぴり不安になっていると、数秒も経たない内に大きな音がした。


 どう……!! と響いたその音は、猪が倒れた音だった。

 地面にはその巨体が沈んでいる。


 まさか、コイツの呪文?が効いたのだろうか。



 もう一度そいつの顔を見れば、まるで新しいオモチャを手にいれた入れた子供のように目を輝かせていた。

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