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5話 スミア村奪還しました(アムルが) (3)

「お前、いますぐ城に戻った方がいいぞ」


 地面に転がったままの男は「礼に、ひとつ教えてやろう」と言ったかと思えば、そんな言葉を続けた。


「ん? 城がどうかしたか?」


 それを聞いたアムルは、特に焦るわけでもなく軽く疑問を返しただけだった。

 男はその反応を「暢気すぎる」と判断したのか、少し呆れたような顔をした。


「……まず、こんな辺境の地に俺達が留まっていた理由だが、ひとつはお前たちの国を牽制するためだ」


 男の言葉に、アムルは少しだけ表情を変えた。

 口を引き締め、目もわずかに鋭くなる。


「少しでもノイリア(うち)の領地を増やすため……ってのはもちろんあるが『どんな小さな村でも、支配下に置いてやるぞ』っていう脅しも兼ねてるわけだな」

「…………」


 アムルは不快そうな顔を見せたが、黙って話を聞いていた。


 ようやく真剣に話を聞く気になったか、と男の方は表情を和らげた。


「もうひとつの理由が、おとりだな。俺達がお前達を引き付けている間に、城を……特に人柱を襲撃する」

「…………」

「でなきゃ、こんな何もないところなんか、ずっと居座ってないさ」


 実際のところ、この村はこれといった特徴があるわけではなかった。

 強いて言うならば"畑が多く野菜が採れる"ということだが、決して規模の大きくないこの村では、その量も多くはない。


 かといって、中継点として使おうにもこの村はあまり向いていない。

 下手にここで滞在するよりも、直接向かった方が早いくらいだ。


 そんな場所を、囮となるためだけに抑えるなどと、男たちにとってはやる気が出るはずもなかった。


 それでも失敗すれば国に殺される可能性すらある。

 そのことを考えば、一応は任務に従うが、かといって国への忠誠心は薄れるばかりだった。


 こうして敵国に降伏した方が生き延びる可能性が上がるだろう、と思えるほどに。


「あのなあ……」


 先ほどまで、男の言葉を黙っていたアムルは、不機嫌そうに口を開いた。

 痒くもない頭を掻いてから、真剣な表情で男に言う。


「お前たちにとってはここはどうでもいい村かもしれないが、住民にとっては大事な故郷なんだ。それをそんな風にバカにするな」

「はあ?」


 そっちに怒るのかよ、とでも言いたそうに男は声を上げた。

 男はまた呆れたような顔を見せるが、アムルはさらに続ける。


「お前たちだって、故郷の家族が大事だって話をしてただろう。同じように『家族のためにこの村を取り戻すんだ』なんて息巻いてた住民だっているんだ」


 この村は、他国にとって大した利益にはならないことはアムルにもわかっている。

 "村"と言いながら、住人も少ない。


 だが、この村に人々が住んでいたことは事実だ。


「上から言われたからとはいえ、そんな人たちの生活をお前は滅茶苦茶にしたんだぞ。襲撃したことは仕方がないとしても、この場所をバカにするのは許さない」


 アムルは一気にまくしたてるように言い、男はその様子に目を瞬かせた。


「いや……普通は、襲撃したことの方が怒るだろう」


 戸惑いながらも、男はそれだけを言った。


「そっちはそっちなりに、事情があることくらいはわかっているつもりだ」


 アムルは不遜な態度で、ふんと軽く鼻を鳴らしたが、目は男とは違う別の場所を見ていた。


 そして、ぽつりと付け加える。


「……オレだって、そっちの奴らを殺してるからな。とやかく言える立場じゃないさ」


 住民たちを避難させた時も、この村へ入るため見張りを排除した時も、アムルは敵兵の命を奪っている。


 あくまで村人たちが速やかに避難したからではあるが、結果的に男達はひとりも村人の命を奪っていない。


 単純な人数だけならば、スミア村を巡る戦いにおいて最も多くの人間を殺したのはアムルだろう。


「戦争中である以上、敵国の襲撃を上から命じられることは……まあ、善くはないが、仕方がないとは思う」


 そう言ってから、アムルは男へ視線を戻した。

 真っ直ぐに男を見ながら、さらに続ける。


「だがな、相手をバカにする必要はないだろう。それも、ただそこで暮らしていただけの民間人の村だ。お前には価値がない村に見えたのかもしれないが、村人にとっては大切な家族が住む場所で、皆で作り上げた大事な場所なんだぞ」


 声は特に大きいわけではなかったが、アムルの口調は力強いものだった。


 その姿に圧倒されたのか、男は戸惑ったようにまた目を瞬かせた後、ぽつりと答えた。


「……その、すまん」

「それ以上バカにしないならいい」


 アムルはもう一度、ふんっと鼻を鳴らしてから険しくなっていた顔を普段通りに戻した。


「それで、城に襲撃……だったか?」

「そうだ。だからさっさと……」


 男が言い終わるよりも前に、アムルは目を閉じる。

 そして、そのまましばらくじっとしていた。


 魔法が使えない者からは、ただ何かを考えているように見えただろう。


 だが男には"何かの魔法を使っている"ことは何となく察せられた。

 具体的に"何の魔法を使っているか"まではわからないがある程度予想はつく。


 城の者に警告を送っているか、実際に襲撃者がいるのかどうか探っている、といったところだろう。


 アムルはしばらくそうしていたが、ふと目と口を開いた。


「それはわかった。一応オレは戻るが、多分その必要はないだろうな」


 状況を把握し、戻るとは決めたようだったが、特に焦った様子もなく淡々とアムルは言った。


「本当にいいのか? お前のところの大事な人柱様が死ぬかもしれないぞ?」


 その様子に、男は驚いたようだった。

 心からの親切心でアムルに警告しているようには見える。


「うちだって無策でここまで来てるわけじゃないさ」


 アムルは男に対して、自信満々といった様子で答えた。


「大隊長……他の国で言うところの、大将とか将軍のことだが……大隊長の内の一人はオレだが、別に大隊長は一人じゃない」


 そこで一度、言葉を区切ると、にやりとアムルは笑ってみせた。


「いま、城には……オレよりも強い奴がいる」



***



「お、おお……? これ、勝ったんですよね、勝ってますよね?」

「そうですね。勝っていると思われます」


 俺は、人柱部屋に浮いた映像を指差しながら、隣にいるメイドのアリアさんに確認した。


 音もないし映像自体がそれなりに遠いところから撮影されたものだから、正直具体的に何がどうなったのか、はっきりとは分からない。

 だけど、敵将っぽい奴がアムルに背中をざっくり斬られてぶっ倒れた……というのは間違いなさそうだ。


 その瞬間、俺は快哉を叫びそうになったが、同時に、赤く血が飛び散ったことに嫌な気持ちにもなった。

 なったが、やっぱり「敵を倒せて良かった」という安堵の方が大きい。


 いま自分が何を思ったのか自分でも少し迷ったが、味方の被害もほとんどなく勝てたことは素直にうれしい。


 これであのクワのじいさんもその家族も村に帰れるわけだな。


 そんなことを思っている内に、アムルはその敵将を光の縄(?)でぐるぐる巻きにして縛り上げる。

 遠い位置から撮影された映像越しに見てるからわかりにくいが、いろいろ魔法を使ってるっぽい。


「これで、俺の役目も終わりですかね」


 俺の役目――周囲を警戒すること、は決着がついた以上あまり必要もない気はする。

 そう思って言ったが、アリアさんはまだ心配そうな顔をしていた。


「どうでしょう……このまま、あちらの方々が諦めるとは限りませんし」


 あ。それもそうか。

 帰るまでが遠足だもんな。いや遠足じゃないけど。


 アムル達が無事帰ってくるまで、もしくはアムルから連絡があるまで、俺も気を抜くわけにはいかないな。


 そう思って改めて映像を見張っていたが、特に大きな問題はなさそうだった。

 アムル達はしばらく話しているみたいだけど、いわゆる「怪しい動き」みたいなのは見受けられない。


 やっぱり一息ついちゃっていいんじゃないかな、という気持ちと、いやいやこれが油断させるための罠だったらどうするんだ、みたいな葛藤をしつつ、その話が終わるのをじっと待っていた。


 すると、突然俺に対して魔法の通信が入った。


『おーい、マモル聞こえるかー?』

『おう、聞こえるぞー』


 遠くにいるアムルの声が俺に直接届き、俺も通信用の石を握って返事をする。


『今そっちに、襲撃者が数人……多分二人くらい向かってるぞ』

「はい?」


 その言葉は予想外のもので、つい通信としてじゃなく普通に声を上げていた。

過去部分の修正を行いたいので最新部分の更新はお休みさせていただきます。

最長でも一ヶ月程度とはなりますが、ご了承ください。

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