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4話 決闘することになりました(アムルが) (3)

「はぁっ!!」

「ふんっ!!」


 アムルが力任せに剣を振るい、男が槍で軽くいなしてから更に突きを繰り出す。


「せいっ!」

「よっ……と!」


 横に飛び退くと同時に足に魔力を込め、アムルは半ば無理矢理に回避した。

 それを追いかけるように、今度は槍が横なぎに振るわれる。

 アムルは剣で防御しつつ更に後ろへと跳躍し、それも回避した。



 先ほどから"アムルが斬り込むも男に対処され、それをさらに回避する"という流れが何度か繰り返されていた。

 互いに決定打になることはなく、ただ体力と魔力を消費していく。


 周囲の兵士たちも固唾を呑んで見守っていたが、傍から見れば男の方が優位に見えた。


 攻撃を回避するため何度も跳び回っているアムルとは対照的に、男はその場からほとんど動いていない。

 少なくとも周囲からは男が未だ本気を出していないように見える。


 さらに、アムルはかろうじて攻撃を避けているとはいえ、あくまで魔法で無理に回避しているに過ぎない。


 魔法が不得意な者が見れば、今まではたまたま回避に成功しただけで、それも何度も続くようには見えなかった。

 魔法が得意な者から見ても、こうして無理に魔法を行使し続けていれば魔力を無駄に消費してしまい、すぐにでも戦闘に足る魔力がなくなってしまうようにも見える。


 それでも、アムルの表情は焦っているわけでもなく、むしろふてぶてしく口元には笑みを浮かべていた。


「逃げてばっかじゃなくで、たまには正面から攻撃を受けてみたらどうだ?」

「それは遠慮させてもらおうかな」


 対峙する男から軽い口調で提案されるも、アムルはやはり軽い口調で断った。


 何度も受け止め受け流されているアムルの攻撃とは対照的に、男の攻撃は一撃が重かった。

 突きをまともに食らえば鎧ごと破壊されることは容易に想像がつくし、ただの殴打でも遠くまで吹っ飛ばされそうな威力だ。


 アムルの攻撃に利点があるとすれば素早いことだが、その素早さも生かすことが出来ず一撃も入れられていない。仮にその一撃が入っても大したダメージにはならないだろう。


 達人から見れば、アムルの剣はほとんど素人と変わらなかった。

 実際、魔法は幼いころから訓練していたが、剣については軍に入ってから勉強した程度にすぎない。


 そして、短期間で達人になれるほど、剣の才能があるわけでもなかった。


 剣舞で魔法を使うため、単純な剣の扱い自体には慣れている。

 しかし、戦術における駆け引きなどは全く出来ていなかった。


 ここまで攻撃を全て回避出来ているのは、あくまで魔法が得意だったからだ。



(これは"すごい"と評価していいのか"ただのバカ"だと評価すればいいのか)


 男は半ば呆れながら、何度も立ち向かってくるアムルを見た。


 確かに魔法技術については申し分ない。

 これほど出鱈目な剣術にも関わらず、ここまで喰らいついてきたのは称賛にあたいするだろう。


 とはいえ"魔法技術"と"魔力総量"は全くの別物だ。


 いくら魔力量が多くともそれを扱う技術がなければ意味がないし、いくら技術が優れていようと魔力そのものがなければ魔法を駆使することは出来ない。


(その魔力量も、特に多いわけじゃなさそうだがな)


 魔力の総量を測ることは、簡単なようで難しい。

 "今現在、相手が放つ魔力がどれほどか"だけならば、ある程度魔力を操れるものなら肌で感じることは出来る。


 だが、魔法技術に長けている者ならば、その"放つ魔力量"自体を調整することが可能だ。

 さらに、一応はエアツェーリングの領内であるこの地には人柱の魔力が満ちている。


 人柱がいない環境と比べ、周囲の魔力を感じるのは難易度が高い。


(結界に込められた魔力、一撃の剣に込められた魔力、回避の際の身体に込められた魔力……)


 考えながら、またも斬り込んでいたアムルの剣を男は受ける。


 愚直な一撃であり、技巧は施されていない。

 速度を生かして連撃を繰り出すわけでもない。

 槍を分断するほどの魔力が込められているわけでもない。


 むしろ、最初の一撃よりもわずかに魔力が減っていた。


(やはり"バカ"の方か)


 確かに、魔法で強化された身体能力は素晴らしいものだ。


 だが、それだけだ。


 その戦法に見合うだけの魔力量が足りていなければ、ただの自殺行為だ。


 若さゆえの蛮勇。

 あるいは過信。


 持久戦ならば確実に勝てる。


 そう判断しながらも、男は槍を構えなおした。


 また同じように斬り込んで来たら、今度は一撃で終わらせる。


「ほら、来ないのか?」

「行くさ!」


 何度も攻撃していれば少しずつダメージを与えられる……とでも思っているのか、少し挑発すれば同じような攻撃をまたも繰り出してきた。


 もはや見慣れた攻撃を男は半身を捻るだけで対処する。

 空を斬るアムルの姿は隙だらけだ。


 今までは、このタイミングで攻撃をして、そして避けられた。


(ならば、避けられない速度で攻撃をすればいい)


 作戦らしい作戦は立てていない。

 立てる必要もない。


 様子見のため温存していた魔力を一気に開放するだけだ。


 魔法の基本は「魔力量を増やせば、効果も上がる」だ。

 身体を強化する魔法の場合も、魔力を多く費やせば費やすほど速さもパワーも増す。


(防御に回す魔力はいらん。ただ一度、倍以上に強化出来ればいい)


 身体を強化するのと同時に、槍の先端へも一気に魔力が集まっていく。


(――――これで、決める!!)


 この強度の攻撃を何度も繰り返すことは不可能だが、この一撃で仕留められる自信はあった。


 柄の長い槍を使用しているため、本来ならば近くの対象は狙いづらい。

 しかし、先ほどからアムルが攻撃を避ける際にやっているように、身体を強化し速度を上げ半ば無理矢理態勢を整える。


(ここだ!!)


 完全にとらえた。


 男が前に突き出した槍が、アムルに届く。

 ……ように男には見えたが、槍は何もない空間を貫く。


 外したか、と思うよりも先に背中に衝撃を受けて身体が傾く。


 同時に、視界に赤い液体が飛び散る。


(俺の、血か……)


 何が起きたのか理解できなかったが、その赤の正体にはすぐに気が付いた。



 そして、男は大きな音を立てて地面に倒れ伏した。

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